第二十七話・過去と今と
「気が付かなかったわね……」
自分が他人に対して興味がない性質の人間であるとは自覚してきた筈だったけれど、このときばかりはそれにしても大概だろうと反省せざるを得なかった。
彼女、久保田郁美さんは、正美ちゃんの姉で私の元同級生。グループのメンバー四人全員、私が虐めて学校にいられなくした。久保田さんではない誰かが、私の事を好きな男子に告白をして振られたことが事の発端だった。
放課後の教室で取っ組み合いのけんかをして、四人とも張り倒した。久保田さんはその四人の中では最も骨があって、翌日からも学校に来て私の事を正面から睨み付けて来た。私としても、唯一恐れるべき人間がいるのだとしたら彼女であると理解していたが為、最も陰湿に、最も粘着質に虐め、クラスで孤立させ、そして学校に来られなくした。
一旦思い出してしまえばこうも簡単に回想することが出来る彼女について、私は振り返ることを全くしてきていなかった。
「久保田も、知ったのは最近らしい」
正美ちゃんが塾に来なくなり、今月限りで辞めると知らされた時、木口先輩は私にそう言った。木口先輩から聞かされて漸く姉の久保田さんを思い出した私だったけれど、話の流れ上、てっきり向こうはずっと私の存在に気が付いていて、それでいて私との交流を続けていたのだと思っていた。
「向こうも驚いてたなあ。久保田が、妹の方が姉に話してたらしい。塾で仲の良い先生がいる。こんな話をした、あんな話をした、って事あるごとに報告してたみたいだ。それで、この間、初瀬倉さんと二人で図書館に言った時の話をしている最中に、初瀬倉さんの名前が出て」
「それは……ショックだったでしょうね」
加害者側の私よりもよっぽど。信頼していた塾の先生が自分の姉を追い込んだ加害者だったと知るだなんて。何であんな奴と仲良くしているんだ。等と言われたかもしれないし、私としてきた会話や信じてきた物事が全て嘘であるかのように思えもしただろう。私は、姉の久保田さんに手をあげた頃程腐った人柄ではないと思っているし、正美ちゃんとの会話の中でいい加減なことは言っていない。けれど、そんなことは関係なく、本人にとっては辛かった筈だ。
「すみません」
「気にするなよ。初瀬倉さんだけが全部悪い話じゃないし、昔の話だ」
木口先輩から聞かれ、私はかつて自分がしたことを全て話した。木口先輩は時々笑って、『結構思い切ったことするね』などという感想は漏らしたものの、話を聞き終えた後には『よくある話だ』の一言で纏めた。確かに、よくある話ではある。女には特に。
「私が、もう少し上手に」
「当時中学生の子供が上手に振舞う必要なんかない。親にも教師にも周りの生徒達にも、全員に少しずつ責任がある。気にするなよ」
繰り返し、気にするなと言われた。私は俯いて、それからスマートフォンを取り出した。
「会って話すのか?」
「断られないのなら」
木口先輩の口調には、止めておいた方が良いというニュアンスが含まれているように聞こえた。私はそれでも、正美ちゃんに対して自分がしたことを伝えたいと思った。勿論、聞きたいと言われればだけれど。そのせいで折角出来た年下の友人から嫌われてしまうかもしれないけれど、それでも私は、他でもなく正美ちゃんと話をしたのだ。誠実でありたいという話を。
「頑張って」
色々と、言いたいことがありそうな木口先輩だったけれど、結局止めるようなことも、逆にこうした方が良いという助言もなく、私を送り出してくれた。私はありがとうございますと礼を言い、そうして、正美ちゃんに連絡した。その日の夜、正美ちゃんから、時間がある時に家に来て欲しい。という返事があった。
「久しぶり、久保田さん」
平日の昼間に時間を空けることが出来るのが、大学生の自由な所だ。まだ週が始まったばかり、火曜の昼過ぎに、私は正美ちゃんのお宅にお邪魔した。都心から少し離れたベッドタウン。マンションの五階にあるそのお宅は、今時のガラス張り、ちょっとメタリックな外観だった。
「お久しぶり、です」
一階で部屋番号を押し、名前を名乗った。部屋の鍵は開いているからと言われたのでノックを二回し、緑色の扉を開けて部屋に入ると、玄関から真っすぐ奥に見えるリビングの奥にあるソファに座っている女性がいた。私がよく知る女の子、久保田正美ちゃん、によく似た女の子だ。私がかつて虐めて、学校から追い出した相手、久保田郁美さん。
「これ、良かったら」
久保田さんの隣には、久しぶりに会う正美ちゃんもいて、私は軽く微笑みながら頭を下げ、持ってきたお土産のお菓子、駅前のお店で買ったケーキを手渡した。
「あ、ありがとう。ここのお店のケーキ、私好きなの」
机の上に袋を置くと、それまで私と久保田さんとの表情を見比べていた正美ちゃんが殊更に明るい声を出し、袋を取った。今食べようか、と言って立ち上がり、冷蔵庫に向かうその背中に、後で食べてと声をかける。
「四人暮らしだって聞いたから、四つ買って来たの。私が食べると、一つ足りなくなってしまうから」
と、言いながら私はソファからなるべく距離を取り、少し離れたところにあった椅子に座った。勝手に座ることは行儀が悪いと承知していたけれど、少しでも早く、久保田さんから距離を取ってあげたかった。彼女は私が来たその瞬間から、怯えた視線で私を見据えていたから。今も、隣にいた妹が離れてしまい、明らかに動揺した。私は少しでも離れて、そして、正美ちゃんはなるべく近くにいてあげて欲しい。
「ありがとうね、正美ちゃん。呼んでくれて」
戻って来て、再び久保田さんの隣に座った正美ちゃんに話しかける。いえいえと、正美ちゃんはどこかぎこちない様子で答える。それから暫くの話は、私も正美ちゃんも腰が引けた、当たり障りのないものだった。
私に虐められてからの久保田さんの話は正美ちゃんから聞いて知っている。人と話が出来なくなった久保田さんは高校進学が出来ず、後に通信教育で高校を卒業する。今は、大学受験をしようと勉強しているそうだ。多分、私の事も、正美ちゃんから聞いて色々と知っているのだろう。
「久保田さん」
暫くの間腰の引けた会話を繰り返し、それから私は意を決して切り出した。久保田さんは会話に全く参加してくることはなく、このまま誰かが切り込まなければ、時間ばかりが経過してしまうことは明白だった。だとするのなら、切り込むべき人物は、今日ここに目的を持ってやって来た私だ。
「ごめんなさい」
話したい内容は沢山あったけれど、伝えたい気持ちはたった一つ、純粋な謝罪だ。私はゆっくりと頭を下げて、そして謝った。
「私は貴女に、貴女達に酷いことをしたわ。ごめんなさいで、許してもらえることとは思えないけれど、でも、こうして謝れる機会が出来たから、この機会は逃したくないの。中学生の頃、酷いことをしてごめんなさい。私の未熟から、久保田さんを酷く傷つけてしまって、ごめんなさい」
それで、私が言いたいことは全て。謝罪の全て。小賢しいことは幾らでも言えたけれど、それだけを言った私は、これ以上何か言うつもりはなかった。
「……おしまい?」
暫くの沈黙の後、消え入りそうな声でそう言われた。その質問に、私は久保田さんの顔を真っすぐに見据えることで応えたけれど、久保田さんが私の事を見返してくることはなかった。
「それ、じゃあ……」
その後ろの言葉は、私の耳に直接音として聞こえることはなかったけれど、でも、その時久保田さんが言いたかった言葉は何なのか分かった。彼女は、私の謝罪の言葉を聞いて、私の謝罪の言葉が終ったのを知って、ただただ、『終わったなら早く帰って』と言いたがっていた。
「お姉ちゃん?」
その発言を聞いて、久保田さんの言っている言葉の意図を知って、ショックを受けたのは私ではなく、寧ろ妹の正美ちゃんの方だった。正美ちゃんは、私が謝罪をしたのと同時に何か、縋るような期待するような表情を見せ、そして、期待を裏切られたような顔で姉の顔を見た。
「折角謝ってくれてるんだから、何か」
「お願い、早く帰って」
正美ちゃんが、せっつくような言葉を言いかけた時、久保田さんはソファに置かれていたクッションをギュッと抱きしめながら、これまでで一番はっきりとした声で、そう言い切った。
「お姉ちゃん」
「だって私、どうだっていいもの」
私に対しては視線を合わせず、怯えた様子を見せ続ける久保田さんだったけれど、妹の正美ちゃんには言い返すことが出来るのか、口調がほんの少し強くなった。どうだっていい。その言葉に、正美ちゃんが少し怒ったのが見て取れた。
「折角来てくれてるのに、そんな言い方」
「良いの」
そう言って、正美ちゃんの事を制したのは私だった。多分だけれど、予想でしかないけれど、この時私は久保田さんの心理を理解出来ているような気がした。
「お姉さんに、答えを強要することはしちゃ駄目よ」
その言葉の意味が、正美ちゃんに正確に伝わったかは分からない。むしろ、全く伝わていないと考えた方が良いかもしれない。私は、私としてただ、昔自分がしてしまった過ちを清算するべく謝罪しに来た。それをしたいと思える程度には成長して来たつもりであるし、そうして、これから先前に向かってゆきたいと思えるくらいの気持ちを抱いている。けれど、久保田さんにとってみれば、ただ家にいただけで、ある日突然かつて自分を虐めた相手がやって来た彼女からしてみれば、私の反省も謝罪も、自身には関係ない話だ。突然自分のテリトリーに上がり込まれた恐れの方が大きいのかもしれないし、もしかすると突然妹がいじめっ子を連れて来て、家族から裏切られたように思っているかもしれない。私が謝っているのだから、貴女も許しなさい。では私がしていることはそれはそれで新しい虐めでしかなくなってしまうだろう。
「立派な人になったんだね」
そんな風に思い、正美ちゃんを制した私に、この日、初めて久保田さんの方から声をかけて来た。その声は、表情は、態度は、とても卑屈で、そして僅かに、私に対しての非難が込められているように思えた。
「中学の頃の話は、初瀬倉さんにとってはもう昔の話?」
そう問われた段階で、小賢しい私は久保田さんが何を言いたいのか何となく理解してしまった。私がはいと頷けば、きっと久保田さんは『自分にとってはまだあの頃の出来事は終わっていない』というような話をしてくるはずだ。そこから、栓を切ったようにダラダラと私に対しての恨み言が続くかもしれないし、それを避ける為に、『私もずっと、辛かったの』などと言って、久保田さんと一緒に泣く事が賢いやり方だと思う。私はそうすることで、それなりの解決を図るだけの小賢しさを持っているし、嘘泣きだって得意だ。だけど、
「そうね」
嘘は、吐きたくなかった、吐くつもりがなかった。私にとって今日という日は来るべくしてきた過去の清算。そう、過去の出来事に落とし前を付ける為の日だ。ハッピーエンドである必要なんかない。ただ、私は私として、昔酷いことをしてごめんなさい。それだけを言えれば良い。
「そうでしょうね。それで、今は仲良しの友達と一緒に大学に進学して、社会勉強の為に塾の先生をしているんだもんね」
言い方に、多分な棘が含まれた言葉だった。私の事なんか知らないで、自分だけ楽しそうにしやがって。そういう事を言いたいのだろう。正美ちゃんが、『そんな言い方』と小さく呟き、私と久保田さんの表情を交互に見比べた。私は、微笑んでそれに応じる。大丈夫、こんな風になる事だって、ちゃんと覚悟してきた。色々とあった末に、綺麗に大団円。そんな結末、私の人生の中で一度だって起こっては来なかったのだ。今回だって、運命というものはきっちり私の事を傷つけて去って行くだろう。それでも私は、ちゃんと傷ついて、そして『昔あった出来事』を終わらせる。
「初瀬倉さんにとって、私達との事って本当によくある事だったんだね。人を四人も学校から追い出して、それで何事もなかったみたいに進学して、進学した高校で仲良しのお友達作って、皆で楽しく大学進学出来ちゃうくらい、何ひとつ、後に引きずらないよくある事だったんだね」
そんなことはないけれど、とは答えず、私は彼女の話を聞いた。私があれからどんな風に生きて来たのかは、正美ちゃんから聞いて知っているんだろう。私はありのままに私が思ってきたこと、行動してきた内容を伝えている。嘘はない。けれど、その合間にあった沢山の辛い出来事について話していないことは、ミスディレクションの誘発であるかもしれない。
「私達の事を踏み潰した時、初瀬倉さんは『そもそも貴女達に興味がない、視界に入っていない』って言ったの、覚えてる?」
「よく覚えているわ」
その後に、このままだと彼女達から反撃を受け、小学校の頃に虐めを受けたのと同じ状況になってしまうだろうと予想した。そして、やられる前にやってしまおうと、私は直ちに久保田さん達を虐め、学校に来られないようにした。そうやっている間、私は自分の良心が全く痛まないことに驚いていた。流石に、少しくらい悪いことをしたと思うだろうと予想していたのに。けれど、当時気が付いていなかったことが一つある。あの時期、私は確かに自分の良心が痛まないことに気が付いていたけれど、そんな自分の事を、日毎嫌いになってゆく自分には気が付いていなかった。
「私はあの頃あったことを今でも思い出すし、初瀬倉さんに言われた言葉も何回も思い出してきたけど、今でも感心するわ。だって、初瀬倉さん、本当に淡々と、クラス委員の作業と同じみたいにして私達の事虐めるんだもの」
不謹慎だけれど、その言葉に、思わず笑いそうになってしまった。本当にあの頃、私は極冷静に、彼女達の弱みを突いて、心を追い詰め、学校に来辛い状況を作り上げた。どうすればよいかは考えるまでも無く分かったし、万事滞りなく、私の作業は狙い通り終った。
「本当に、初瀬倉さんにとって私達ってその辺りの石コロと変わらないんだなって。だから、妹から初瀬倉さんの話を聞いてた時、私それが同一人物だなんて思わなかった。世の中にはそんなに立派な人がいるんだな。って思って、今からでも私、頑張れば又楽しく学校に通えるようになるかな。って思って、大学受験しようって思えるようになったわ」
「立派ね」
本当に、立派だと思ったからそう言ったのだけれど、私の言葉を聞いた久保田さんがこの日初めて、私に対して怒りの感情を見せた。正面から見据えられ、私も見返す。私は自分の表情に何の感情も乗せていないつもりだったけれど、それだけで久保田さんは意気消沈し、再び視線を逸らした。
「ねえ、初瀬倉さん」
「何?」
「本当は、もっと良い大学行けたんでしょう?」
良い大学、要するに偏差値の高い大学。謙遜することなく私は行けたわと答えた。私にとっては今の大学が一番良い大学だけれど、そんな答えは必要ないだろう。偏差値の高さが、名門私大になるのか、日本の最高学府になるのか、あるいは欧米の大学となるのか、どの程度なのかは分からないけれど、間違いなく、高偏差値の大学には行けた。
「今の大学に行くのに、どれくらい勉強したの?」
「していないわ。私は推薦だったから」
日々の勉強の積み重ねが推薦に繋がった。という言い方をするのならば、昔から変わらず一日二時間の積み重ねだ。
私の言葉を受けて、久保田さんが卑屈に笑った。その口から出て来た、『本当に凄いよね』という一言は、私を褒めたというよりも、自分を卑下している言葉に聞こえた。
「私達の仲が良かった頃、私達が初瀬倉さんに媚びてた頃から、私は『この人には何をやったって勝てないんだろうなあ』って思ってたわ。生まれつき持って生まれたものが全部違っていて、その上初瀬倉さんは綺麗で、大人にも好かれて。今初瀬倉さんが通ってる大学、私にとっては第一志望なの。私は一生懸命、他の事諦めて勉強して、それでも受かるかどうかわからない大学に、初瀬倉さんは特に勉強しないで自然に入れちゃうんだもの。何で人間って、こんなに違うんだろう?」
他の事をかなぐり捨てて勉強してみようと思った時期は私にもあったけれど、私にとってはそれは効率の悪い方法だった。日常生活の中で無理なく勉強時間を設け、ストレスが高まらない程度に少しずつその時間を増やしてゆくのが、長期的な勉強のコツだと私は思う。けれど、今彼女はそんな具体的な勉強方法を教わりたいわけではないだろう。数年ぶりにあった悪者に、自分の思いをぶつけたいのだ。私は甘んじて、その恨み言を受け止める。
「初瀬倉さんは、私と今日話をして『昔は昔、今は今』って割り切って、それでまた明日から楽しく生きてゆくんでしょうね。私は無理。どうして、いつからこんな風になっちゃったんだろう。って、ウジウジしながら、初瀬倉さんが一日で終わらせることを三日も四日もかけてやって行くしかないんだわ」
そうやって、私が一足飛びに終わらせてしまうことを少しずつ進めてゆく人にしか分からない事、というのもある。そう今の私は信じる。わき目も振らずに素通りし、拾うことが出来なかった大切なものをもう一度探そうとして、私はこの所、何度も失敗し、幾つも傷ついている。今も。昔、自分でも驚く程傷つかなかった心が、今はしっかりと傷ついているし、後悔もしている。
「私は、初瀬倉さんに怒ったりしていない。だから許すも許さないもないわ。そんなことしたって、私の五年間は帰ってこないもの」
「……そうね、私が台無しにしてしまった、久保田さんの五年間は、帰ってこないわね」
言って、私は立ち上がった。結局、この家に入ってから上着は脱がなかったしバッグも腕から降ろすことはなかったので、立ち上がればそのまま帰ることが出来た。
「お邪魔しました、受験勉強、頑張って」
そう言って、私は部屋を後にした。正美ちゃんはいつの間にか泣いていて、小さくごめんなさいと繰り返していた。
「思ったより、早く終わったわね」
建物を出、時計を見る。ポケットの中でスマートフォンが揺れているのを感じ、手に取った、本間君の名前。
「もしもし」
「あ、僕だけど今大丈夫?」
「貴方の為ならいつだって大丈夫よ本間君」
冗談めかしてそう言うと、またまた、と楽し気に笑う本間君の声が帰って来た。足を、駅とは逆方向に向かわせる。丁度良い。このまま歩いて帰ろう。一時間か二時間か、今は歩きたい気分だ。
本間君の用は文化祭実行委員の連絡だった。後でラインでも送ると前置きして伝えられた内容を把握した後、私は歩いている間暇だから会話の相手をしなさいと本間君に強要した。それから都合百分程、私は今日の出来事に一切触れることなく、ただただ本間君に『何か面白い話をして』とおねだりし続けた。あんまりお喋りが得意ではない本間君ではあるけれど、それでも一生懸命お話をしてくれる本間君は可愛くて、愛おしい。
「残念だけれど、そろそろ家に着いてしまうわね」
「漸く解放されるよ……」
長く続いた私の無茶ぶりもようやく終わりを迎えた時、本間君は疲れた様子でそう言った。私は笑い、次までにまた沢山面白いお話を用意しておいてと伝える。
「次までには難しいな」
「どうして?」
『「だってもう、次になっちゃったし」』
「え?」
耳元と、前方と、本間君の声が重なる。視線を上げると、そこに今正に通話を切った本間君の姿があった。
「何かあった?」
そうして、本間君が微笑む。そうやって微笑む本間君に吸いこまれるように、私はその胸元に身体を押し付けた。
「……何よ本間君、貴方もしかして私の心が読めるの? 魔法使い?」
「あんなに落ち込んだ声出されたら、誰だって分かるよ」
「そんなに、私って分かり易いかしら?」
「そんなことないとは思うけど、もう付き合いも長いし」
「じゃあもしかして、本間君って」
王子様か何かなの? とは言わず、私はとりあえず泣くことにした。




