━━翻しの予感━━
部屋のカーテンを開けると、眩しい朝日の日差しが頬を掠める。大きく伸びをしてから、彼女はタンスから服を取りだし、着替える。
彼女━━ベリラネム・パストゥレは、深い青色の髪を束ねて結ぶ。彼女は準備が終わると、鏡に向かってよし、と一人頷いた。
支度を済ませて食堂に降りると、もう他のメイド達は全員集合していた。
「おはよう、皆。ナーベル、予定を教えてくれない?」
「分かったわ。今日は朝御飯を作った後、買い物をベリとデリに行ってもらってその間、私たちは家の掃除をしようと思ってるわ。」
それだけ言うと彼女は、顔を一層引き締めて次の言葉を続ける。
「…では、行動開始。」
ベリラネムとデリシアは都市まで買い物に来ていた。此処等一帯はとても栄えていて、内陸部なのに商人が多い。それは、此所が王城近くだからであろう。
彼女らは一通り買い物を済ませると、大きな荷物を両手に提げながら家路に着く。
「あの果物屋の店主が良い人で良かったわね。」
「う、うん。すごく優しい方だったね…。」
デリシアは、照れながらも嬉しそうに話す。
そんな彼女に機嫌が良くなってか、近道である裏道を進む。
彼女たちの歩く音が、規則的に響き渡る。一歩大通りから出れば、雰囲気が真逆な世界だった。
ふと、彼女らは気配を感じてか、上を見上げ━━。
目を大きく見開く。短刀を身につけた黒い男が落ちてくるからだ。
彼女らはそれぞれ回避すると、戦闘体勢へ移行する。
「私たちをやろうと言うのなら、名乗りなさい。」
男が考え込むと、上から五人の同じ装いの者が落ちてくる。そして、彼はそれを境に喋りだす。
「私たちは神官に雇われた暗殺部隊だ。お前たちを殺すよう命じられた。」
「依頼主は?どうして、私たちを?」
彼はマスク越しで分からないが、恐らく嘲笑すると構えに入る。
「生憎、そういう情報は漏らしてはいけないルールでね。さぁ、始めようじゃないか。」
彼は刀身から邪気を放つと、此方を睨み付ける。ベリラネムはその雰囲気が不味い、と悟った。そのため、デリシアを逃がすことにする。
「…逃げなさい、デリシア。あなたはルシュフ様に報告するのよ。」
「そ、そんな事出来ないよ…。」
「いいから、行きなさい!これは副メイド長命令です!」
ベリラネムが叫ぶと、デリシアは苦虫を噛み潰した様な顔になると、全速力で走り出す。
「…ほう、お前一人で五人を相手するのか?」
「ええ。十分かと思ってよ?」
彼は、マスク越しに微笑みながら短刀を突き出して、襲いかかってくる。
ベリラネムは何処から出したかも分からない、八本の先端に刃の付いた、鎖状の暗器を振り回して距離をとる。
喋っていたやつ以外は大したことはない。
彼女はそう考えながら、暗器で確実に敵を倒してゆく。
彼女は勝てると踏んで、全方位から後方にいる喋っていた男目掛けて武器を飛ばす。
入った、そう思った時、突如立ちくらみが襲い、視界が白く染まって行く。
「…くっ、何をしたぁ!」
彼女は必死に叫んで聞く。それを馬鹿にするように、男は肩を竦めて話す。
「あぁ、これはちょっとした催眠術だよ。お前は利用価値がある。だから、操ろうと思ったんだ。」
彼女は顔の中央に皺を寄せ、必死に抵抗しようとする。
彼女は振り払うのが無理だと悟り、術者を倒そうとする。しかし、他の暗殺者が盾になりそれを防ぐ。
「あぁぁぁぁぁぁ!」
彼女はその叫びを境に、視界が真っ白に染まった。