━━執事の本音━━
一つ目の都市、グランドバーテルを抜けた彼女たちは第二、第三都市を一日で駆け抜けて、第四都市、リダッツェベルトで長い旅に暫しの休憩を挟む。
彼女は馬車から降りて軽く伸びをすると、宿の店主から最も良い部屋を借り受ける。彼女はメイド一行を呼び込むと部屋につくなりベッドへ倒れ込む。
「ふぁ~あ。疲れたぁ………。」
彼女はかなりの長旅でお尻を痛めたらしく、軽く手を当てる。
するとベッド横から嗄れた、しかし、貫禄のある上品な声が語りかける。
「ルシュフ様、お召し物に皺がつきますよ。」
「エブリル………。今日は疲れているからいいの………。」
寝言の様に彼女は呟くと、寝息を立てて寝てしまった。エブリルはそれを哀れむかのように見つめる。
「いつから、私は彼女を赦してしまったのでしょうか………。」
彼は独り言を呟くと、目を背けるように彼女の部屋を後にした。
翌日、彼女は一昨日夜に届いた例の白地に青の模様が付いたドレスを着て、街中を歩いていた。
「………ねぇ、エブリル。ねぇってば~。」
エブリルは考え事をしていた自分を追い払い、笑顔を取り繕い答える。
「はい。ルシュフ様。何か御座いましたか?」
「それはこっちの台詞よ。エブリル疲れてるの?」
ん?と無垢な笑顔が目の前に広がる。
━━やめろ、やめてくれ。優しくしないでくれ━━。
彼は、彼女にまた無理な笑顔を見せると、大丈夫ですよ。と言って本来の目的のために歩みを進める。
向かった先は、かつて仕えていた主人━━ルシュフの父に依頼され入ったことのある武器屋だ。それも、魔法の使えるものしか使用できないコンパクトな武器が多い珍しい店だ。
ここら一帯は王国内とは言え、森も湖もある。当然その分モンスター等で、キャラバンが潰れるなんて事は頻繁に起こりうる。
なので、一般の商人でも結構良い魔法道具を身に付けていることが多い。
彼女はエブリルに案内され、裏路地の壁━━実際にはそう見えるだけだが━━の中へと歩みを進める。
「こちらが魔術道具専門店、トリィーケスです。」
「すごい………。」
彼女が感嘆の声を上げるのも無理はないだろう。店は壁と空間をねじ曲げて繋げているため、中は外の見た目よりもかなり広い。暗い色の木を基調として造られており、天井は木材がアーチを描き、ドームを形どっていて一種の芸術的建物の一つとも思える二階建ての店だった。
まあ店と言うよりかは、どちらかと言えば図書館である。
彼女は数多ある棚の内からそのうちの一つ、手袋型の魔法道具を棚中から取り出す。
「それは竜の皮で作られた魔法道具、『緑竜の蹄』です。少々お高めですが、それなりの魔法が込められているともあり、店一番の売れ筋だと伺いました。」
エブリルは得意気に話すと戦力強化を忘れ、次々と魔法道具の説明をしだす。一通り聞き終わると彼女は店の真ん中で、顎下に指を当てる癖を見せる。
よし。と彼女は呟くと自分の分の魔法道具を選び出す。彼女が取ったのは瞳を思わせるような、飲み込まれそうな藍色の粒が付いた耳飾りだ。彼女はどうだ。とばかりにエブリルへと耳飾りを見せつける。
「これは………。珍しい。この小ささで『魔力攻撃力・上昇』が付いているとは………。」
エブリルは感嘆のあまり目を見開くと、値段を見て更に目を見開く。
「こ、この値段は………。値切って貰えるように掛け合います。」
「エブリル頼んだわ。」
その値段は通常の魔法道具三つ分の値段だ。一個でこれはあまりにも高すぎるためエブリルは、ヴァリッサの名前を使ってのもと、値切り交渉を店主と始め出した。