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この世とあの世の生活

この世とあの世の生活

作者: 福紙

「うぇーん!ママ買ってー」


とあるスーパーのお菓子売り場で少年が駄々をこねていた。オモチャ付きのお菓子をねだっているようだ。と、そこへ長身の男がやってきた。


「そこの小童(こわっぱ)


声は低く若い感じだ。泣きじゃくる少年は男を見上げた。黒髪に人間にしてはとても白い肌、印象的なのが真っ赤な血のような目に下まぶたに同じ色のラインだ。服装は黒い革ジャンに黒いズボンに黒いブーツ。見下すその目に恐怖のあまり泣くのを忘れた。そして男は、その少年が欲しがっていたお菓子を箱ごと持ち、


「大人になって働けば、菓子などたくさん買えるぞ」


と行って買い物かごへお菓子を入れた。所謂“箱買い”だ。唖然とする少年を背に男は去って行った。


「貴様の前世の行い、しかと見た!盗み、殺し!極悪非道の数々!貴様などに慈悲はない!地獄へ堕ちるがいい!連れて行け!」


ここは死後の世界にあると言う、“あの世”で何らかの罪を犯した魂が裁かれる“地獄”である。よく地獄絵巻の一部にある、地獄の主人“閻魔大王”の裁きの場である。獄卒(ごくそつ)と呼ばれる鬼たちに囲まれ、巨大で恐ろしい閻魔大王がいる…のだが。


「次の者!前に出よ!」


獄卒に突き出された魂は人の形となった。それは老人であった。


「ひいい!閻魔大王様!何卒(なにとぞ)、何卒!ご慈悲を〜!」


と拝む老人。閻魔大王はギョロリと血のような赤い目で老人を見下した。


「面を上げぃ!」


「はひぃ?!は、はい!閻魔大王さ…え?」


老人は恐る恐る顔を上げたが、ど肝を抜かれた。閻魔大王と言えば巨大で顔が赤く恐ろしい形相をしていると誰もが思っていた。しかし、そこにいた閻魔大王は若く、体型も人間と同じようであった。服装こそ地獄絵巻と似ているが、若い青年である。


「え…閻魔大王…様?」


「そうだ、何か異論でもあるか?」


「いや、その、そ、想像とは似ても似つかぬ…」


「よく言われる。さて、貴様の…」


「そんなにさらりと言われても…」


「ええい!現世の絵巻物などあてにするでない!!」


バシッと閻魔大王が持つ黒い“(しゃく)”を机に叩きつける。声そのものは予想通りであった。


一通り裁きは終わった。ふぅと閻魔大王はため息を吐いた。すると二足歩行してくる狐に似た野干(やかん)と言う地獄の動物が、おぼんに湯呑みをのせてやってきた。


「お疲れ様です、閻魔大王様」


「うむ。気がきくな…こん(すけ)


こん助と呼ばれる野干はこの閻魔大王の身の回りの世話をしている。と、閻魔大王は左手の袖を少し引っ張る。すると手首に腕時計があった。


「ここではもう何百人と裁いたのに、現世では一刻も過ぎてない…」


「この世とあの世では時間の流れは違いますからね…って!閻魔様!現世のものをここに持ってきてはなりませぬ!」


とこん助は言う。閻魔大王はガタリと席を立つ。


「今日の裁きは終わった。こん助、現世に行くぞ」


「また現世に行くのですか…この前、子供の目の前で箱買いした大人気ないヒトはどなたですかね」


「私は社会の厳しさを教えただけだ!これから生きる者として!」


「はいはい、そうですか…」


「こん助、さっそく箱買いした玩具(がんぐ)つき菓子を食べるぞ」


と閻魔大王とこん助は奥へと消えて行った。


これは地獄の主人、閻魔大王とその御付きの野干、こん助が繰り広げる地獄では見ない現世での発見と驚きの日常を綴った物語である。

一話完結のお話です。たまに大人気ない閻魔大王とこん助のツッコミを楽しんでいただければ幸いです。

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