六話。
少年は、大声で泣き叫びました。自分の無力さ、何も言えなかったこと、もう会えないこと、もう話しかけて来ないこと、もう直接ありがとうを言えないこと。たくさんの思いが駆け巡りました。しかしそんな少年に、人はゆっくり泣く時間を、与えてはくれませんでした。
この島にも、他の島が攻め行ってきたのです。みんなは、かかっていた魔法が解けていたので、急いで迎え撃ちに行きました。そしてとうとう、世界は争いだけになってしまいました。
それを感じた星は、怒り狂いました。泣きわめいて波が高くなり、全てを壊すように雷を落とし始めました。星の涙は大粒になり、人を塗り潰そうと火山も噴火して、溶岩が流れ出しました。
少年は突き動かされるように外に出て、争っているみんなに叫びました。
「争いをやめてください!!今はそんなことをしている場合じゃないだろ!みんなは何を見ていたんだ!ちゃんと聞こえてただろ!
あんたたちも今は自分の島を守れ!早く戻らないと間に合わなくなる!お願いします!やめてください!!」
少年は涙を流しながら、叫び続けました。そんなとき、星の怒りが争っている集団に、直撃しました。そして静まりかえったその場で、少年の声だけが響き渡りました。他の島の者は慌てて自分の島へ、少年達は急いで城に戻りました。少年達が城に戻る頃には、外には居られないほどの天候でした。世界は星の涙に浸されていました。しかし城は無傷でした。たくさんの天災が、起こっているにも拘わらず、無傷でした。
少年は気付きました。魔法使いが放った最期の魔法、それは少年たちに向けたものではなく、世界に向けたものだったのです。魔法使いが死んで、効果が弱まったものの、城と同じように他にも守られている場所があるようでした。そしてまた、少年の目は涙でいっぱいになりました。
それから三日たっても星の機嫌は直りませんでした。食料も少なくなってきて、皆限界を感じてきていました。そこで少年は、みんなに提案しました。
「伝えなくちゃ・・・。死ぬ前に伝えなくちゃ。魔法使いの記憶を。
人の歴史を、僕ら以外の人に伝えなくちゃ。同じ過ちを繰り返さないように。」
そしてみんなで、城中の壁に描き残すことにしました。みんな必死に描き続けました。描く壁がなくなるころに、空が晴れていることに気づきました。外に出た少年達は、その光景に息をのみました。
島の大きさが半分ほどになっていて、さらに遠くは雲で覆われて見えないようになっていました。それでも生きていくには、事足りる大きさだったので、みんな島に留まりました。少年は、魔法使いの首飾りの破片を、土に埋めてお墓を作りました。しばらくして、そこから不思議な実のなる大樹が生えました。その実のおかげもあって、島はゆっくりと豊かになっていきました。
それからしばらくして、少年はみんなの王様になりました。そしていつになっても、島を訪ねて来るものは、一人もいませんでした。少年は、若くして不治の病にかかりました。
「みんなを最期まで守れなくてごめんね。やっぱり魔法使いみたいには、うまくいかないや。みんなお願い。諦めないで、伝えることをやめないで。自分が生きた証を、僕らが存在した証を、人の歴史を伝え続けてほしい。また争いが起こりそうになると思う。でも、お互いを傷つけないで済むように、同じ過ちを繰り返さないように、伝え続けてほしい。最期まで一緒に居てくれてありがとう。最期まで一緒に居られなくてごめんね。」
そう言い残して、少年はこの世を去りました。みんなは深く悲しみました。しかし、少年が最期に言った言葉を胸に、生きることをやめませんでした。島の人は伝えるために、次々と島を出て行きました。その中には、少年の子供達もいました。しかし誰も帰っては来ませんでした。そして何百年と月日が過ぎ、島に数人しか居なくなったとき、一人の青年が島にやって来ました。