五話。
その光りに星は不安を感じて、自身を雲で覆いました。光が止んで、人は唖然としながらも、自分の無事を確認しました。そして、少年の目の前にいる魔法使いは、先程のような面影はなく、げっそりとしていました。魔法使いはひざをついて、少年を見上げてうっすら笑いました。それを見た少年は、なぜか涙をこぼしました。
「今だ!やれ!!」
「早く殺せ!」
少年は涙を流しながら、剣を振り下ろしました。振るわれた剣は、魔法使いがいつも首から下げている、ガラス玉の首飾りに突き刺さりました。その瞬間、魔法使いの記憶が、広間にいるみんなの脳裏に映し出されました。
「なんだこれは。」
「そんなバカな・・・。」
みんなは驚きを隠せませんでした。無理もありません。ずっと自分達を苦しめていたはずの存在に、守られていたことに気づいたのだから。
「すまないな。つらい思いをさせてしまった。特にお前にはな。」
魔法使いは、少年にもたれ掛かりながら話し始めました。
「ごめん、ごめんなさい。」
少年は泣きながら、何度も必死に言葉にして謝りました。
「お前が謝る必要はない。おれが勝手にしたことだ。わかったんだよ。この世界を人の手に委ねたほうがいいってことを。おれが邪魔になってることをね。」
そう言うと、魔法使いは上を見上げて言いました。
「心配させてすまない。すぐそちらへ向かうから、あまり怒らないでやってくれよ。」
その頃外では、島どうしの争いが更に激しくなっていました。この島も、攻めいられようとしていました。魔法使いは身体が消え逝く中、また話し始めました。
「これからしばらく世界が荒れる。出来るだけ多くの人を生き延びさせてくれ。お前達にとって、この島以外は全て敵、そしてたくさんの嫌な思いをさせられた事実があるが、助けてやってくれ。出来るだけでいい。頼む。」
少年は何も言えませんでした。泣いていて言葉にできないのこともありましたが、この時初めて魔法使いの気持ちが、わかったような気がしたからです。辛くて痛くて、悲しいというものでは足りなさ過ぎる気持ちでした。
「さて、そろそろ逝かなくては。お前のおかげで、最後の最期まで、人を好きでいられそうだ。ほんとうに感謝している。それに、おれのためにこんなに涙を流してくれた人間は、お前が初めてだよ。こんな気持ちも、初めてだ。ありがとう。」
そう言い終えると、魔法使いの身体は、少年にもたれ掛かったまま、消えてしまいました。それと同時に、ガラス玉も粉々に砕け散りました。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・。」
魔法使いが消えた後も、少年は謝ることを止めることが出来ませんでした。