閑話1 海藤草一郎は嘘をつく
海藤草一郎は子供の頃から、ある一つのことに取り憑かれ、それを生き甲斐としていた。
それは自分以外の誰かが、困り、怒り、嘆く光景を見ることだ。
さらに言うなら、自分が誰かを困らせ、悲しませ、悔しがらせ、不快な気分を味あわせ、怒らせ、絶望させることがより楽しい。
そのための一番簡単な方法は、嘘をつくことであった。
小学生にあがったばかりの頃、草一郎は仲良くなった友達の健太を標的とした。
健太は昆虫が大好きで、特にクワガタが好きだと言っていたので、ある日こんな嘘をついた。
「俺、ミヤマクワガタもってるよ。三匹もいるから、今度うちにきたら一匹あげてもいいよ」
その言葉に健太はとても喜んで、草一郎の家に行くのを楽しみにしていた。
草一郎は健太を家に誘うことはなかった。彼は自分の家に来るのを心待ちにしていたはずだ。そうすれば彼が心底欲しがっているクワガタを手に入れられると、信じ込んでいる。そう考えただけで、草一郎は楽しくて仕方がない。
ある日とうとう健太の方から、いつになったら家に連れていってくれるのかと、待ちきれなくて尋ねてきた。
「ああ、ごめん。クワガタ全部死んじゃったんだ」
ぬけぬけと謝る。健太は落胆していたが、死んだとあれば責めることもできない。その様子を見て、草一郎は必死で笑いをこらえていた。自分の嘘に踊らされ、期待して、期待が外れて落ち込んでいる健太の顔が、滑稽かつ愉快で仕方なかった。
その後も草一郎は健太をターゲットにして、嘘をつき続け、傷つけることで楽しんだ。
正直で素直な性格をしているので、簡単に嘘にひっかかる健太は、草一郎にとって格好の玩具だった。
小学生六年の時、草一郎は親に私立中学に入るよう言われていたが、健太は公立に進むため、違う学校へと通うことを知る。
草一郎はこれでお気に入りの玩具を失うことになると思い、無念で仕方なかった。学校が違っても一緒に遊ぼうと健太は言っていたが、きっと共に過ごせる時間は少なくなるだろうし、次第に離れていくであろうと、草一郎はドライに割り切っていた。
そう割り切る一方で、どうしても納得がいかない。
(あれは僕のものだ)
草一郎はすんなりと決断した。同じ失うなら、完全にこの世から消えた方がいいと。
誰も見てない所へ健太を呼び出し、事故を装って殺すのは、実に簡単なことだった。
学校を離れ離れになる前に、いろいろ思い出を作ろうと健太に提案し、下を電車が走る歩道橋の手すりの上に乗る度胸試しを行う。そして健太が手すりの上に乗っている際、うまく電車が来た所で、お別れキック。
草一郎は小学六年生にして完全犯罪を行い、その達成感と、友達を永遠に自分のものとして独占したという満足感で満たされた。
中学になって、草一郎は健太の代わりの玩具を見つけたいと思い、クラスメイトを観察したが、健太ほどの逸材は見つけられなかった。
仕方がないので、友人を何人か作り、軽い嘘をつき続ける事で気を紛らわせた。
例えば約束をしておいて、急に体調が悪くなったと言って相手を待たせてみるなど、自分の嘘がバレず、相手を大して不快にもしない程度の嘘。だがそんなレベルで、草一郎の心が満たされるわけがない。
高校への進学を控え、草一郎は友人達とも離れ離れになる代わりに、彼等に大きな嘘をつく計画を練った。中学三年間に溜め込んだ欲求不満を全て叩きつけるために。
ある日の放課後、草一郎は「卒業パーティーをしたい」などと言い、友人達を連れて、町外れの小さな廃工へと連れて行った。
廃工でパーティーするなど、流石におかしいと友人達も感じたが、せっかく足を運んだということもあり、つい中へと入ってしまう。
全員が建物の中に入った所で、草一郎は外から扉を閉めて鍵をかけた。そしてタイマーと火薬を大量に詰めた程度の、手作りの小さな時限爆弾を起動し、建物の中に置かれていた幾つもの容器を爆発させた。
容器の中から発生した有毒ガスが外に漏れないよう、入り口以外から外に出られないよう、前もって準備はし尽くしてあった。
数時間後、草一郎は、タイマーと爆弾と有毒ガスの入っていた容器の痕跡を片付け、ビニールシートを念入りに張り巡らし、その上で数時間かけて遺体を細かく切り刻み、骨も徹底的に潰して処理したうえで、ドラム缶の中で燃やして灰にして、近くの川に流した。返り血まみれの服とビニールシートも燃やして灰にした。
あまりスマートとは言えない嘘であったが、騙したことには変わりないと自分を納得させた。行方不明ということで、警察にも何度も問いただされたが、草一郎は何とかやりすごした。
バレるかもしれないという恐怖はまるで無かった。根拠も無く確信していた。最初の健太の死があったから、もう少し疑われてもいいとすら思ったが、平気だった。
高校に入って、草一郎は自分の将来を決めた。詐欺師になると。
人を騙すことに勝る快感は無い。相手が騙されたと自覚して悲嘆にくれなくても別にいい。草一郎自身が誰かを騙したという達成感を得られれば、それで満足なのだ。
高校生の時点で、草一郎はオレオレ詐欺を何度か行った。しかし老人から金を騙し取ったのではない。
老人を駅へと連れ出して、通過電車が来た際に、自らは人ごみの中に巧みに紛れ、電車のホームから突き落として殺害していた。バレないように実行するにはかなりシビアなタイミングが必要なので、スリル満点の遊びだった。駅内の監視カメラにも映ることを警戒し、変装もしたうえで実行した。
学校では冴えない女子生徒を口説いては、自分に惚れさせて幸福の絶頂にまで導いてから、一切無視して別の女子生徒と付き合うという行いを繰り返していた。
「好きだよ」「愛してる」「君しかいないよ」
何度も繰り返された心にも無い言葉。あっさりと鵜呑みにしていい気分になる女達。嘘を信じる馬鹿共。裏切られたことに愕然とし、またはヒステリックに喚きたてる肉の塊。全てが草一郎の気分をこれ以上無く満たしてくれる。
しかし四人と付き合ってから、同学年ですっかり噂になってしまい、警戒されてしまったので、いじめを受けていると親に訴えて転校し、別の学校で同じことをまた繰り返した。
人を欺くことに生き甲斐を覚えた草一郎は、命の限り嘘をつき続けようと誓い、己の輝かしい未来を信じていたが――
***
「あれ?」
気がつくと草一郎は見知らぬ場所にいた。
明らかに人間とは異なる種族の人が行きかう繁華街。建物は日本のそれに近いが、一戸建てばかりで、一切ビルやマンション等が無い。
夢かと思って頬をつねる。痛い。
「ひょっとして生誕者かな?」
キョロキョロしていると、犬面の女性に声をかけられた。顔も体も短い犬の毛で覆われている。
「これをどうぞ。生誕者用のマニュアルだよ。貴方は向こうで死んでこっちに来たのよ」
「死んだ?」
草一郎はその一言で、自分の身に何が起こったかを思い出した。
学校で体育の授業中、グラウンドで体操をしている最中、空からセスナ機が突っ込んできたのだ。
セスナ機に乗っていたのは、女に振られたショックで一人でも多く殺してから自殺しようと試みた、富豪の御曹司だった。ヤクでラリラリになりながら、たまたま人が多く固まっていた高校の運動場に照準を合わせ、特攻した。
生徒はちりぢりになって逃げたが、その際に突き倒されてしまい、逃げるのが遅れた草一郎だけが落下するセスナ機の直撃を食らい、他界した。
(何で俺が死ななくちゃならないんだ。これからもっともっと大勢の人間を騙して、破滅させようと思ったのに。しかも犯罪者としてバレて捕まって死ぬわけでもなく、あんなくだらない事故で死ぬなんて……)
草一郎の性格からすれば、あんな死に方をするくらいなら、警察に捕まって死刑になった方がマシだとすら考える。それは犯罪者と警察との勝負の末の結果であるし、敗北の代償としてまだ納得がいくと。
マニュアルを読んであの世の仕組みを理解し、草一郎が生誕した乱破市の市役所に生誕届けを出し、家一軒もらって仕事も斡旋してもらった。
乱破市の役人という役職についた草一郎は、これからどうするか途方に暮れていた。
この世界はあちらに比べて非常にユルい。競争は好まれない。必死にならなくていい。のんびりと暮らしていける。そう望む者が多い。あっちの世界が厳しい代物だった分、こちらは天国のように永遠の安息が約束されているという。
それがどうしょうもなく嫌で仕方が無い草一郎であった。そんな安息などブチ壊して、多くの人間を欺き、地獄へと落としてやりたいと思うものの、この世界の人間は無警戒すぎて、嘘をつくにも張り合いがない。
小学生の頃は健太という純粋で無警戒な玩具で遊ぶのが楽しかったが、今はもうそんな感覚は無い。バレたら自分もアウトというスリルの中で、頭をひねって身の安全を確保しつつ、他者を貶めるかというゲームをやりたいのだ。
草一郎の興味は乱す者へと向いた。彼等を如何に貶めて遊ぶか、あるいは彼等と共闘して停まり人を殺すか、いっそ両方に損害を与えるか。いずれにせよ、草一郎には敵となる者が必要だった。ただし、敵からは自分を認識させない状態をキープして。
いろいろと計画は練るものの、うまいきっかけが掴めない。
乱す者と接触しようにも、サラマンドラ都市連合周辺の乱す者は力任せの戦争やテロが多いので、彼等に与しても、草一郎の嘘を発揮させるとなると、どうしても乱す者を貶めるだけになってしまう。もっと可能性の輪を広げたいと、草一郎は考える。
***
ある日、草一郎は役所勤めの仕事の都合で、同僚らと共に葉隠市という都市へ向かうことになった。
葉隠の市庁舎にて、向こうの議員や役人と親睦がてらに、都市の在り方のディスカッションが行われたわけだが、葉隠市は現在の市長ウォーター・グノーシス・アリアルヴィーグアに反感を抱いている派閥があることを知る。
反市長派は前市長の支持者であり、強硬派で独裁的な現市長に激しい嫌悪感と反発を示しているようで、草一郎は強い興味を抱く。
乱破市の役人を辞めた草一郎は、反市長派のメンバーに接近し、彼等の仲間に加わった。自分の嘘がようやく輝く場面を見つけたと思った。
草一郎は他の都市の者でありながら、反市長派に同調して仲間になったという経緯から、反市長派の中でも異質と見なされていたが、彼等の中で目立った発言をするようになり、いつしかメンバーの中でも一目置かれるようになっていた。
「カルペディウム暗殺教団を雇うのはどうでしょうか? 彼等なら必ずアリア市長を暗殺できるでしょう」
ある日、彼等のリーダー格でブラッシという元市議に、草一郎は思いきった計画を提案し、概要を説明した。
ブラッシはその際、難色を示した。かつて葉隠市では政治家達による暗殺合戦が行われていたため、葉隠を徒に混乱に導くものだとして。
ブラッシに拒絶されたことで、草一郎は自分の見込み違いだったと落胆し、彼等反アリア派を破滅に導く良い方法は無いかと、頭をひねっていたところ、アリアが独裁政治を宣言し、ブラッシは草一郎の計画を聞き入れ、本格的にアリア市長暗殺へと向かうこととなる。
草一郎はどのタイミングで反アリア派を裏切って、彼等を絶望のドン底に突き落としてやろうかと、悩んでいたが、それ以前にアリアの子飼いと思われる一団が、反アリア派の居所を次々と突き止めてしまうという、思ってもいなかった事態が発生してしまう。
いや、そうなることも予測できなかった自分に、草一郎は未熟さを感じて恥じた。
自分の邪魔をする彼等を苦々しく思った草一郎は、白傘区にあるアジトにカルペディウム暗殺教団を配置し、彼等が来たら殺害しようと試みたが、これも失敗。草一郎の見ている前で、暗殺団は一人残らず返り討ちにされた。
敵の方が一枚も二枚も上手であることを知り、自分がどうにかしなくても、彼等が勝手に反アリア派を掃滅するであろうと、草一郎は確信し、手を引くことにしたが――
「他に敵はいるの?」
魔法の矢を操っていたコボルトの女が、魔法使い風の格好の女に問うのを聞き、アジトの屋敷の中からこっそり様子を伺っていた草一郎はギクリとする。
「ネズミが一匹、まだ隠れているわ」
フードを目深に被った魔法使い風の格好の女がそう告げると、草一郎が潜んでいる方を指差してみせる。
「マーカーつけてあげる。はい」
ピンクの光の柱が草一郎を包む。草一郎はその場を離れて必死に逃げるが、光は草一郎にくっついてくる。
「どこへ行くのかなー。止まらないと、斬っちゃうぞ?」
全速力で逃げているのにも関わらず、驚くべき俊足で人間の男がすぐ横に並んで駆けながら、笑顔でそう言ってくる。ショートソード二本を振り回していた男だ。
「捕まえてきた」
男に取り押さえられ、草一郎は屋敷の中から庭へと連れていかれ、アリアの子飼い一同の元へと引きずり出された。
「どうするよ、太郎?」
「逃げたってことは、俺達を殺そうと暗殺者を放った奴なんだろ? 殺されても文句ねーよなあ?」
男が伺いをたてた人物を見て、草一郎は驚いた。まだ十歳にも満たない少女――いや、太郎という名だから、きっと少年だ。立ち位置からしても、この少年がリーダー格と思われる。
「ま、拷問の一つでもしてやるのがいいかな。さもなきゃ山本みたいに、廃人になる自白剤でもうつのがいいか? そっちの方が手っ取り早いな」
見た目は美少年だが、その綺麗な顔に残酷な笑みを浮かべ、恐ろしいことを口にする。
「廃人にしたまま生かしておくのも可哀想ね。その後で殺してあげなさいよ」
魔法使いの女がさらに恐ろしいことを言い、草一郎は震え上がった。
「嘘だろ……こんなの……。嘘だ……。また俺は死ぬのかよ……」
今度は敗北して殺される。この死に方は、地獄でのセスナ直撃よりはまだマシだと思えたが、それにしても死ぬのに変わりないし、今度は転生して記憶も失ってしまう。
自分はもっともっと嘘をついて、多くの者を陥れたい。破滅に導きたい。そのために生きたい。こちらの世界にきてようやくそのチャンスが生まれたというのに、それを達成できずに殺されて死ぬなど、あまりに悔しすぎる。
「嫌だ……。こんな所で死にたくないっ! こんなの嘘だーっ!」
恐怖と口惜しさのあまり、草一郎は力いっぱい叫んでいた。
その直後、時間が止まったかのような錯覚に、その場が包まれた。アリアの子飼い連中も、草一郎も全員が、止まっていた。
「他に敵はいるの?」
コボルトの女が魔力の弓を手にしたまま、魔法使いの女に問う。
「え?」
その台詞に訝り、草一郎は顔を上げる。
「消えたぁ消えたぁ、気配消えたぁ……。ふふふ、死の残滓が漂うのみ。あははは」
魔法使いの女から気色の悪い口調で不気味な返答を返されて、コボルトの女は小さく息を吐いて魔力の弓を消す。
「全く、いいとこなしだね、あたしは」
「いい囮役してたぜ」
「私なんか太郎さん抱えて逃げただけ、太郎さんに至っては一切何もしてませんし、それに比べればランダさんの――」
オークの女、リーダー格の少年、エルフの男が会話をしている。
(何だこれ……? 時間が撒き戻った? 俺が見えていない? 目の前にいるのに)
まるで自分がいないかのように会話を交わすアリアの子飼いを見て、草一郎は驚愕しながらもそういう結論に至る。
「鈴木は気配が消えたって言ってたけど、一応中も探してみよう」
リーダー格の少年の言葉に応じ、彼等は目の前の草一郎を完全に無視して、屋敷の中へと入っていった。
(認識されていないだけじゃない。記憶まで消えてる……。時間が撒き戻ったんじゃなくて、彼等の記憶がリセットされたのか)
どうしてそうなったのか、何となく草一郎にはわかった。これは自分の力だと。
助かったと安堵した次の瞬間、激しい疲労に襲われ、草一郎はその場に倒れ、意識を失った。
***
闇の中、草一郎は一人の男と向かい合っていた。
「ふぉえああぁあぁぁぁぁ! うぇっ! うえぇぇわあああぁぁぁあぁっ!」
男は全裸で、全身にペイントを施し、無数の鎖や太い釘で体のあちこちを貫いて、口から涎を垂らし、奇声を発しながら狂ったように踊っていた。
草一郎は男の姿に見覚えがあった。確か神々の姿を記した文献に載っていた。
「お前ええぇ! 見せろ! 本当のお前を見せろ! 狂え! もっと狂うんだよおぉおぉ! 理性とか最高にイラネーっ!」
男は踊りながら草一郎に近づき、不細工な顔を間近まで寄せると、唾を撒き散らしながら喚く。
「狂神ピレペワト?」
草一郎は目の前の男の名を告げた。
「早くっ、早く俺に見せろおおぉぉっ! さらけだせーっ!」
勃起した男根を狂ったようにしごきながら、首が千切れるのではないかというくらい頭を左右に振り、ピレペワトは草一郎に命ずる。
「さ、さらけだすってまさか……」
狂った神の命令に躊躇する草一郎であったが、意を決し、ズボンのチャックを下ろしにかかる。
「え? お前いきなり何やってんの? 馬鹿じゃねーの?」
「あんたが何なんだよ……」
急に踊るのをやめ、真顔になって冷静な口調で突っこむピレペワトに、草一郎は唖然とする。
「いいから狂ええええっ! そして自分を出せえうええうぇぅえっ! 狂気こそが魂の根源! 魂の真理ぃぃ! たましーたましーってうっせえええよおおぉおっ! 言ってもわからない奴はこうだ!」
再び踊りだしたピレペワトが喚きだすと、草一郎の顔面にパンチをお見舞いした。仰向けに倒れる草一郎。
「これでお前は目覚めるうぅうぅ! そして知るぅうぅうっ!」
意識を失う前――いや、夢から覚めて意識が戻る寸前に、ピレペワトはそんなことを叫んでいた。
***
草一郎の意識が戻った時、すでに屋敷には誰もいなかった。それどころか、夜が明けていた陽が高く上っていた。
「俺の前世は……狂神ピレペワトの神聖騎士。その宿命は、転生を挟んでも失われ事はない。神が死なない限り」
身を起こして、夢の中で出会った狂気の神とのやりとりを思い起こしながら呟く。自分が何者であるかも、自分が身につけた奇跡の力の性質も、草一郎は知ることができた。
「現実を嘘にする奇跡――か。しかしこれは……」
凄い力ではあるが、使いどころが難しい。制御も自由に効くものではない。さらに言うなら、一晩以上も倒れていたという事実からして、体力の消耗が非常に激しい代物である事も伺える。
いろいろ試して力の使い方を研究しなければと、草一郎は思う。この奇跡を制御できれば、あるいは制御できなくてもパターンを読み取れれば、今後の活動の大きな助けになる。
「この力をうまく使って、この世界で生き延びて、できるだけ多くの人間を欺いて、地獄へと送ってやる」
天を仰いで不敵な笑みを浮かべ、草一郎は宣言する。だがそのためには、自分を満足させるに相応しい獲物が必要だ。
「それをまた探すのが大変なんだけどな。……ったく、今回も変な邪魔が入ってうまくいかず」
自分の計算がイレギュラー要素に潰されてしまうという歯がゆさに、草一郎は溜息をつくものの、今度はそうしたイレギュラーの介入も、この奇跡の能力で防げるのではないかと、草一郎は漠然と考えていた。
海藤草一郎は嘘をつく 終
明日と明後日も閑話を更新予定します。




