19 引き続きディーグルvsゴージン(着せ替えショーもあるよ!)
両者の間に差があるのはわかっていたが、ここまでとはなあ……
俺もゴージンも、ディーグルの華麗とも言える剣技を目の当たりにして、言葉を失くしていた。
「取りあえず予定通り、服屋に行こう」
「了解」
俺が声をかけると、ゴージンが無表情のまま頷く。
空気が重くなったな……。何が今日だけはデートを楽しませるだ。ふぁっきんディーグルのせいで楽しくない事になってるぜ。あー、畜生。
俺も声かけづらくなっちまって、しばらく無言で歩く。
「すっかリ言い忘レていた。この間はあリがとう。礼を述べておくゾ」
先に沈黙を破ったのはゴージンの方だった。
「ん? 何が?」
何のことかわかっているが、わざとすっとぼける俺。
「収容所で乱す者達が我を背後よリ攻撃していたが、お主は優先してそレを無力化したであロう」
ああ、やっぱりそれか。
「余計なお世話だったのはわかっていたけどね。 お前は耐えられると判断して引きつけて、敵の兵力を分散していたんだから、効率を考えれば、俺は他の敵を先に無力化すべきだった」
「うむ、その通リ。余計だ。然レどお主の心遣い、嬉しくもあったゾ」
心なしかはにかんだ笑みをこぼすゴージン。
「もし、どうしても必要な時は俺もお前を助けず、敵の引きつけを任せる事もあると思う。その時は、心苦しいけど頼む」
「適材適所であロう。気にすルなかレ」
やがて服屋に着く二人。俺がまだこの世界に来たばかりの頃、買い込んだ服屋だ。
しかしゴージンは服屋を外から覗いただけで入ろうとせず、店の前で逡巡していた。どうしたんだ?
「太郎、こちラへ来ラレたし」
ゴージンは俺の服の裾を引っ張って歩きだす。
「どうしたんだ?」
店から強引に引き離された格好になり、俺が訊ねる。
「大きな声では言えぬが、もう少し良き服屋を選んではどうか。今の服屋は飾リ気無き安物しか置いてない店ゾ」
「あう……気を遣わせてすまんこ」
これは我ながら恥ずかしい。まあ何だ、現世でもファッションに無頓着だったのがバレちゃうね。
「でも俺、全然自分の服装考えてないってわけでもないんだけどなあ。今のこの格好だって、わりと好みだし」
「味気無き者ゾ。もっとセンスを磨くべし」
言われちゃった……。ちょっとグサっときた。
「我がお主を服屋に連レて行かんとすル目的は、そのためでもあル。ふむ、ここがよかロう」
ゴージンが立ち止まる。
目の前にある服屋を見て、俺は二の句が継げなくなってしまった。ヤバい。これはヤバい。いろいろとヤバい。
その……アレだ。洋服、和服、下着、ファンタジー風の服といろいろ揃っているし、一応子供向けの服もあるが、女向けの服しか売ってない店なわけで……。
「行くゾ」
俺の手を取って店の中へと入る。
「あ、あります。ちんちんあります。ちんちんあります」
「何か言ったか?」
店の中に引きずり込まれ、呪文のようにぶつぶつ呟き続ける俺に、ゴージンが怪訝な表情で振り返る。
「えっとさ、ここ女向けの店だろ。俺ちんちんあるよ」
「そレがどうした? 如何に似あうか、こレが何よリ重要ゾ」
ちんちん承知のうえで連れてきたってのかーっ。何か俺、ゴージンのキャラがわからなくなってきたゾ。あるいは今まで見せなかった一面が、今お披露目さレていル也かーっ。
「すまぬ、そこな店員殿」
背が高くスタイルもいい魔族の女性店員を呼ぶゴージン。
「この子に似合う服でオススメの候補は無いか? その候補からさらに我が幾つか見繕い、買おうと思う所存ゾ」
「はいはい、わかりました。それじゃあ沢山買っていただけるように、沢山持ってきますね~」
ノリの良さそうな店員が笑顔で言い、服を取りに行く。
「ちょっと待った。俺男だってばっ」
店員にストップをかける俺。
「似合いさえすレば無問題。店員殿もそう思うであロう?」
店員の方を向いて確認するゴージン。
「その通りですねっ。今時の男の子は女装の一つや二つ何のそのーっ」
おい、店員……
「然れど完全に女の子の服であルのは、この子も抵抗があロう。従って、男が着ても女が着ても問題無く見えル、活動的なデザインの服を求むゾ」
「了解でありますっ。ひゃっはーっ、久しぶりに腕の鳴る客のおでましだァーッ」
店員が歓声をあげて服を見繕いに行く店員。何なんだ、このハイテンションな店員は……
しばらくして、店員がどっさりと子供用服を店内から集め、テーブルの上に置いた。
「こレとこレとこレと……。太郎、我が選んだ服、試着せよ」
楽しそうに服を選んだゴージンが、まずは和服を一着俺に手渡す。赤い振袖だ。
「座敷童子……」
和服姿の自分を鏡で見て、ポツリと呟く俺。別に俺の髪型おかっぱじゃあないけど、一瞬そう見えちまった。
振袖は流石に恥ずかしいなあ……。裾の長さは今までのファンタジー風なチュニックと変わらんが、素足丸見えになっているのも結構恥ずかしい。
「ほう、よく似合っていル」
「いやいやいや……脚出てるのは恥ずかしいよ」
満足そうに頷くゴージンに、俺は小さく首を横に振る。
しかし何でだろうな。子供時代は短パン平気だったのに、今は例え子供の体でも脚を露出させるのが非常に恥ずかしい気分。
「次はこレゾ」
今度は洋服だった。これは悪くない。少し大きめのキャップ、半袖で薄い水色の現代風チュニック、半袖の黒いショートカーディガン、デニムっぽいショートパンツ、スニーカー。
しかしまた脚露出が恥ずかしい。ついでに言うと上衣は完全に女物。
「何故タイツを履かぬ? 脚が出ルのは恥ずかしいのではないのか?」
そう言って黒タイツを俺に突きつけるゴージン。
「いや、それはもっと恥ずかしいし……」
「ふむ……」
じろじろと俺の脚を見て、顎に手を当てて思案顔になるゴージン。さらにゆっくりと横に後ろにと周りこみ、いろんな角度から観察する。うーん……視姦されている気分。
「えっ……」
おもむろにゴージンが俺の尻を撫でてきて、俺は仰天する。
「な、何してるんだっ?」
思わず反射的に身を引いて、尻を押さえる俺。そして自分のそんな女の子っぽいリアクションに、自己嫌悪に似た感情が沸き起こる。
「あ……失礼。似ていたもので、つい……」
ゴージンも慌てて手を引っ込める。
「似ていた?」
「忘レてくレ。我の一族の風習なのだ」
その一族の誰かに俺、もしくは俺の尻が似ていたから、つい一族の風習で尻触ったと……
尻を触る風習とか何か凄いな。詳しく聞きたい気もするが、本人が忘れろと言っているのを聞くわけにもいかず。
「お次はこレだ」
ゴージンが三着目を渡す。和服洋服ときたら、お次は西洋ファンタジー風の服だ。
これはキツい……。妙に薄い生地で、異様に露出度高い。何となくゴージンの服にも似ている。しかしヘソ丸だし脇モロだし鎖骨剥きだしは勘弁してくれよ……。この上衣、胸の辺りだけ薄い生地で隠しているだけだぞ。さらにトップスと同じ材質のアームカバー。下に至っては素足丸出しどころか、腰と尻から垂れた名称不明の長いヒラヒラ布だけで、下着を隠している有様……。
「今の三種類は確定としておこう。ここを出ル時、どレか好きなのを着て出ルがよいゾ」
洋服だな、うん……。タイツはもちろん無しで。ファンタジー服は……ゴージンには悪いがずっとタンスの奥にしまっておくと思う。
その後もしばらく試着が続き、結構な時間を服屋で潰し、かなりの数の衣服を買い込む事となった。
いろいろとキツい体験ではあったが、新鮮で楽しくもあった。
「太郎のセンスが鍛えラレたラ、いずレは我の服も選んでくレ。楽しみにしていルが故」
「それは選んでもらうよりずっとプレッシャーだなあ……」
そんなもん鍛えられるんだろうかという疑問があったが、口にしないでおいた。
紙袋を両手に携えて、ゴージンの後に続く格好で服屋を出る俺。店を出た所をディーグルが襲ってくる可能性は、結構高い。
しかしかなり長時間服選びをしていたし、ディーグルが店の外で待ち伏せしていたとしたら、まだかまだかと苛々しながら待っていたんじゃなかろうか。いや、そんなに気が短いなら、一日中俺等をストーカーして、たまに襲撃するゲームなんて思いつきもしないか。
***
服屋を出た所での襲撃は無く、安堵する俺。
腹が鳴る。時計を見るともう一時十五分前だ。
「昼飯にしようぜ。飯食ってる所を襲われるのは面倒だから、人の多い場所でな」
俺が提案する。流石のディーグルも、飯屋で刀振りかざして襲っては来ないだろうと踏んで。
「うまい肉性植物を出す店を知っていル。そこに行くゾ」
ゴージンが一方的に宣言して歩きだす。
肉声植物とは、文字通り肉のような味わいと栄養を持つ植物らしい。
この世界では、人も動物も肉を食うということはしないし、ほぼ出来ない。何しろ死んだ瞬間、消失してしまうから、肉を保存することも出来なければ、死体を食う事も不可能だからだ。それ故に、肉食動物も他の動物を襲うことなく、肉性植物を食して飢えをしのぐ。
何というかこの辺の仕組みも、誰かに意図して作られた風に感じてしまう俺だった。それだけではなく、やっぱり世界の基本法則は、神に捨てられた地と称される宇宙の方にあると思えてしまう。
ちなみに乱す者の中には、肉を食らう者もいる。消滅しないように、生きたまま生で食うのだ。腹に入った瞬間、消滅してしまうので栄養源にはならないが、口の中で味わえるという理由だけで、そのような行為に及ぶとか。
ゴージンに連れられてきたのは、洒落っ気の無い狭苦しい定食屋だった。
こういう雰囲気の店は個人的に好きだ。チェーン店の居酒屋とかは嫌いだけどな。まあこの世界には飲食チェーン店自体が無いようだが。フランチャイズも存在しないと思われる。
カウンター席に座り、飯を注文して待つこと数分――
「おい……」
店の中に入ってきて、堂々とゴージンの隣に座るディーグルに、俺は思わず声を発した。ゴージンは俺とディーグルの間に座る格好だ。
「何か問題でも?」
「飯が不味くなるわ。出てけ」
しれっとした顔でぬかすディーグルに、はっきりと言ってやる俺。
「そのようなルールは存在しませんね。食事中狙っても問題無いでしょう。そして後付のルールはもう無しでお願いします」
「お前がいつ襲ってくるかと警戒しながら飯食うのは、しんどいと言ってるんだよ」
「なるほど。それはそれは申し訳ない。そこまで気が回らないとは、私もまだまだ未熟者ですね。真に失礼いたしました」
最早慇懃無礼と言ってもよい態度で頭を下げると、ディーグルは席を立った。
その刹那、ディーグルが俺に向かって礫を放つ。
ゴージンも十分に警戒していたようで、即座に手で礫を払う。
礫が防がれてディーグルの襲撃失敗。これでゲームはディーグルの負け……ではなかった。
礫は同時に三発放たれていた。頭部を狙った一つと胸部を狙った一つは弾かれたが、残り一つは俺の下腹部に当たっていた。
「これで心配せずとも、十分間は安心して御飯が食べられますね」
にっこりと笑い、再び席へとつくディーグル。
「飯が不味くなる事に変わりはねーよ」
大きく息を吐き、俺は吐き捨てた。
***
十分経ったものの、ディーグルはもう店内で仕掛けてこようとはせず、食事を終えるとさっさと店の外へと出て行った。
二本取られたゴージンは、あからさまに意気消沈気味であり、飯が中々進まない様子。流石に堪えているようだな。
「自信無くしたのか?」
飯を食い終わった俺が声をかける。
「自信など元よリ無い。意気込みのみゾ」
「だったら最後まで気合い入れていけよ。勝負の最中に気弱になるとか、これが真剣勝負だったらどーなんだって話だ。それともお前はちょっとやそっとじゃ死なないせいで、敗北の恐怖と覚悟も元から無かったのか?」
キツい言い方だとは思ったが、俺はあえて言ってやった。だがキツいこと言うのはそれだけに留めておこう。こっからはフォロータイム。
「ディーグルも俺も、お前の勝利が無理だとは思ってないんだぞ。ディーグルはさ、無理だとわかっていて、それをゴージンに思い知らせるために、こんなゲームを仕掛けたわけじゃない。あいつはドSの糞野郎だが、誇り高い男でもある。絶対勝てる相手に条件付き勝負を提示して打ち負かすような真似は、いくらなんでもプライドが許さんだろう。ゴージンが守りきることも可能と見越したうえで、さらには実力差も考慮したうえで、ゴージンに機会は三回、ディーグルは一回という条件の勝負を申し込んだんだ」
そしてもう一つ言える事は、ディーグルの性格を考えれば、最後にわざと手加減してくれるだとか、そんな行為は絶対に無いと断言できる。
奴はゴージンを認めているからこそ、最後まで全力でゲームに臨み、ゴージンを打ち負かしにくるだろう。そしてそれは、ディーグル自身が常に俺のガードを行うためでもある。
「ゴージンがゲームに勝利すれば、ディーグルとて素直にゴージンを認めて退き下がる事もできるって話だしな。だから最後まで気合い入れて臨め。そうでないとディーグルに対しても失礼だろう?」
「先程は隠レてやリ過ごせと口にしていた太郎が、今はそのような台詞を口にすルか」
おかしそうに笑うゴージン。少しは元気が戻ったか。
***
制限時間の四時ギリギリまで引っ張ると思われたディーグルだったが、俺の読みは外れた。
定食屋を出てから五分と経たずに、ディーグルは最後の攻撃を仕掛けんとして、姿を現した。しかも通行人のいる街中で刀に手をかけ、堂々と正面から。
ナメているわけではないな。最後であるが故、奇襲はせずに真っ向勝負というわけか。
四時までの設定は何だったのかと突っ込みたかったが、そんな雰囲気ではない。ディーグルの姿を確認するなり、ゴージンはディーグルと向かい合い、視殺戦に入っている。
互いに闘志をぶつけあうこと数秒――
先にゴージンの方から動いた。弾かれたように全力疾走でディーグルへと駆けていく。
何つーか……もう護衛じゃねーな、これは。完全にただのタイマンだ。
真っ直ぐ向かってくるゴージンに対し、ディーグルは腰を落として迎えんとする。
互いに攻撃の射程範囲に入った所で、ディーグルが刀を横に払う。鉤爪を振るおうとしてゴージンの動きが鈍った。いや、止まった。
「ぐぅ……」
顔を抑え、悲痛な呻き声を漏らすゴージン。ここからでは見えないが、おそらくディーグルは、ゴージンの双眸を切り裂いたと思われる。
それで失明なんてこたーこの世界では有り得ないが、一瞬ひるませ、視覚を封じるには十分すぎる。その隙をディーグルは見逃さず、ゴージンの横を一気に駆け抜けて、俺に迫らんとする。
「ぐあああぁぁっ!」
獣人らしい咆哮を上げると、まるでディーグルの姿が見えているかの如く、ゴージンは体ごとディーグルへと突っ込んだ。
ゴージンの低空タックルを避けようと、ディーグルが軽く跳躍する。
それを見て俺は駄目かと思ったが、ゴージンが倒れ込みながら伸ばした右手が、ディーグルの左足に届き、その足首を掴んでいた。
ディーグルの足首を掴んだ瞬間、ゴージンがうつ伏せに倒れる。
ディーグルは跳躍していたのが失敗だった。着地というよりは引きずり落とされるかのような形で地につき、前のめりに倒れて地面に両手をつく。
ゴージンが、無我夢中でディーグルの体に左手を伸ばし、腰のベルトを掴むと、掴んでいた足首を離して、ベルトを掴んだ手を引き、ディーグルの体の上に覆いかぶさるような形になった。
「それまで、勝負有りだ」
興奮を押し殺した声で、俺は静かに告げた。
どう見ても、ゴージンはディーグルの襲撃を防いだ格好である。
「目はすみませんでした。痛かったでしょう」
這いつくばったまま謝罪するディーグル。
「構わぬ。本気の勝負故」
すでに目が元通りになっているゴージンが、ディーグルより離れて立ち上がる。心底嬉しそうな笑みが満面に広がっている。
「ゲームは君の勝ちです。おめでとうございます。ゴージンさん。私は君が、この生意気な小僧の護衛を務めるに十分な資格有りとして認めます。今後ともよろしくお願いします」
立ち上がり、真摯な口調でディーグルが告げると、胸に片手をあてて恭しく一礼した。
「まだ我は未熟であルが故、精進もしつつ、全身全霊で太郎の守護にあたル事を誓わん」
爽やかな笑顔でディーグルの方に向かって鉤爪を突き出し、ゴージンも誓いのポーズを決めると、今度は俺の方を見る。
「太郎、今日は我の我侭に付き合ってもラって、まことすまない」
「いいってことよ」
頭を下げるゴージンに、俺はふんぞりかえってそう言い放った。
***
その日の夜――俺が読書をしていたら、ゴージンが風呂に入っているのを見計らって、ディーグルがリビングにやってきた。
「今日はおつかれさままま」
本に目を落としたまま、ディーグルが口を開くより先に俺から声をかける。
「今日の勝負は有意義だったな。お前の口からゲームを提案してくれて、俺的には助かった。いずれ如何なる形にせよ、お前に認めさせたかった」
「ゴージンさんの実力を私に認めさせるという事ですか」
相変わらず物分りのいい奴だ。少ない言葉で話が進むってのは助かるねえ。
「ああ。俺の護衛をゴージンも果たすことができるという事を、ディーグルに認めてもらいたいと、ずっと考えていたからな。あらゆる状況を想定しないといけない。時として、ディーグルに離れて行動してもらう方がいいっていう状況も、今後有り得るかもしれないだろ」
「確かに仰る通りですね」
「でも何より、バスの男と戦う時に、俺の守護をゴージンに任せられるとディーグルに認識してもらわないと、不都合があるんだ」
本を閉じて傍らに置き、俺はディーグルの方を向く。
「今度バスの男が現れた時、ディーグル、お前にもあいつを攻撃してほしい。俺が絵を描いてたっぷりペインを与えると同時に、ディーグルもバスの男を殺しにかかる。二人がかりでペインを与えて仕留める。一方で俺の身は、ゴージンに守ってもらう」
「なるほどね。そのために私にゴージンさんを信頼してもらいたかったと」
俺の話を聞いて得心が行ったとばかりに、ディーグルが微笑む。
「私の考えとしましては、彼女は盾よりも矛としての方が脅威です。最初、彼女が太郎さんを襲撃した際、私は正直焦りました。如何なる攻撃をしても瞬時に回復し、どれだけペインを与えてもひるまず、太郎さんに襲いにかかろうとするのですからね。あくまで私の見方――ではありますが」
ディーグルの見識は正しい。俺のゴージンの扱い方はその逆だと言いたいのだろう。しかし――
「先程の戦いもそうですよ。彼女から攻撃を仕掛けてきた時、私は力まかせに強引に組み敷かれる事を最も警戒していました。故に、視覚を奪うという対処を取りましたが……結果はあの通りです」
「バスの男に関しては、相手を殺さないゴージンでは、攻撃しろと命令できない。最終的には殺すわけだから、そのトスとなる攻撃も無理だろう」
ゴージンに不殺の誓約がなくても、バスの男相手に限定すれば、ペインの耐久性をあてにしたゴージンの突破力よりも、ペインを与える攻撃力に秀でているディーグルの方が適しているとも言える。
「まあ、バスの男以外の相手なら、殺さず無力化という前提でゴージンが攻撃役の方がいいな」
ディーグルの言うこともわからなくはないので、彼の意見も受け入れる。
「それはそうと今日は楽しかったですか?」
にこにこと笑いながら、話題を変えるディーグル。あー、きたな。絶対言ってくると思ってたけど。
「私は正直あまり楽しくありませんでした。悪者扱いされまくりましたしね。しかしお二人は楽しめたようで何よりです」
俺も相当こいつのこと邪険に扱っていたし、やはり根に持っていたか……しゃーない。
「わかったよ。俺も言い過ぎた。すまんこ。今度はお前とデートしてやるよ。服屋に連れていって、お前の服装は俺がコーディネートしてやる。それで文句無いんだろ?」
「すみません。嫌味など口にするべきではありませんでした。主に向かって何と失礼な行為をしたのかと、今はただ猛省しております。こんな私めに気遣いなど不要です」
せっかく俺が素直に非を認め、あまつさえ付き合ってやるとまで申し出てやったのに、やたらとへりくだって拒絶するディーグルだった。




