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15 乱す者と今度こそ最後の戦いらしい

 俺も最前線に出る事にした。

 俺が鍵を作れるから狙われる云々? 知った事か。そんな気分じゃないんだ。とにかく暴れまくりたい気分なんだ。


 朝から第十八部隊兵舎の訓練場にいて、久しぶりに訓練もこなす俺だが、どうも殺伐としたオーラを出しているようで、誰も声をかけてこない。


「太郎……あんたちょっとヤバいオーラ出てる。何か怖い……」


 と、思ったら、鈴木キャロリンちゃんがやってきて声をかけてくる。こいつにこんなこと言われるとは思わなかった。

 そういや鈴木はアリアの信奉者だったな。こいつももちろん真実は知らないだろう。知ったら俺同様におかしくなるのは間違いない。


 もしアリアがペインの人柱になった時、鈴木はどうする? どうなる? いや、その事実を知る事があるのか?


「ディーグル、ゴージン。こいつに教えた方がいいのか?」

「今はやめた方がいいでしょうね」

「愚問ゾ」

「な、何よ……。私に隠し事とか気になる。しかも妙に深刻な顔してるし、今は――とか、思わせぶりな言い方、超気になる」

「戦争終わったらディーグルかゴージンに聞いてくれ」

「な、何なのよ、それ。ますます思わせぶりな言い方だし。ていうか戦争が終わったら系死亡フラグやめてよね」


 死んだ方がマシなんだけどな……


「太郎、何があったか知らないけど、あんたはいつものペースが一番だよ」


 今度はランダが声をかけてくる。それはわかってるけど、そんな心境になれねーんだ……


「揃ってるな? 明後日、葉隠軍全部隊出撃するとのことだ」


 堀内がやってきて、驚愕の発表を行った。庁舎内がざわつく。


 前代未聞というか、とんでもない話だ。光輝沼沢地帯での戦いですら、そんなことはしなかった。都市の防衛を全て捨てて、一つの戦闘に全て投入するなど、正気の沙汰ではない。

 しかし事実を知っている俺は、これしか有り得ないと考えていた。俺がアリアの立場でもそうする。


 メルトが世界のほつれを乱用したおかげで、世界崩壊の危険性が飛躍的に高まってしまった。葉隠市を守っている暇さえ、本当は無いのかもしれない。そうなると、アリアが市長を務めているうちに、できるだけ早く乱す者との戦いに決着をつけるしかない。


「追い詰められているというわけでもないのに、何故そんなことを!?」

「乱す者に都市を攻められたらひとたまりもない。これは市長の決断か?」

「成功すれば英断扱いだろうが、失敗したら葉隠は破滅だ……」

「当然乱す者にもバレるだろうし、ここぞとばかりに葉隠めがけて軍を動かすぞ」


 兵士達がそこかしこで騒いでいる。


「うるさいぞ。静まれ」


 堀内がやんわりと命ずると、即座に全員口をつぐむ。規律は超ユルい葉隠軍だが、それでも隊長の言うことは従う。


「機動力はこちらが圧倒的に上であるし、乱す者の軍が葉隠軍を抜けて、葉隠市に到着する事は絶対に無い」

「こちらの機動力が圧倒的じゃと? まさか全部隊分の飛空船を太郎に描かせる気か?」


 堀内の言葉を聞いて、副隊長ザンキが確認する。


「違うらしい。もっと有効な手があるようだが、スパイに知られる可能性も考慮して、当日まで秘密らしい」


 と、堀内。それなら全軍出動だって知られたら不味そうな気もするが……


 いや、それが知られても問題無い方法があった。あれを使う気だな。


「フェンリルが見つけてきた古代のテクノロジーを使って、ワープさせるんだろう」


 ディーグルとゴージンを近くに呼び寄せて、囁く俺。フェンリルの存在は、葉隠軍にも知られているけどな。光輝沼沢地帯での戦闘で加勢してもらったからな。でも今スパイに知られたら確かに面倒だ。


「シリンと完全決着をつければ、また当分平和になるだろうねえ。この前だって、シリンを退けた後は、半年以上も平和になったんだ。ま、乱す者が消えることはないだろうけどさ」


 ランダが口にしたその台詞には、複雑な感情が入り混じっている事を、俺は知っている。


 乱す者もいなくならない。軍人も軍人でいられる。この人工天国で軍人している俺達は、乱す者寄りな者が多いんだ。敵討ちとか、自分の都市を守るためとか、そんな気持ちでやってる奴ももちろんいるが、戦争そのものが好きな奴も多い。少なくとも俺やディーグルやゴージンは、刺激と争いを求めている。

 しかしそれも……戦争を楽しめるのも、俺はここまでかもしれないけどな。


***


 一日経過。


 昨日は久しぶりに兵士としての訓練をしたが、何一つ身が入らなかった。ずっと上の空だ。

 しかしディーグルはかつてのように注意する事が無かったし、ランダやザンキも何も言わなかった。ディーグルは事情を知っているし、ランダ達から見ても、俺があからさまにおかしいのがわかったからだろう。


 今日はアリアに呼びだされて作戦会議に出席した。どうも明日の戦闘は、俺の奇跡の絵頼みの作戦で行くらしい。


「というわけで、複数の間者に確認してもらった所、推測通り、シリンとゲスルがいるのは、草腐盆地に展開している軍団である事が判明した」


 参謀副長がディスプレイに描かれた地図を刺しながら解説している。


「敵は三つに軍勢を分けておる。そのうちの一つ、明日、草腐市の軍と交戦する予定の軍勢に、シリンがいる。乱す者と草腐軍が交戦に入った瞬間、葉隠軍は乱す者の軍内部に転移して、中から奇襲をかける。ちなみに――距離的に考えて、残る二つの軍団は、そう簡単に救援に来られるわけでもないな」


 いつも通り偉そうに腕組みしたドワーフの参謀総長が作戦の概要を改めて解説する。


「奴等が三つに軍団を分けている意味は?」

「さあな……。以前は三つどころか、足の指を使っても数えきれんほど、サラマンドラ都市連合の各地で途切れることなく戦闘を行っていたではないか」

「光輝沼沢地帯での戦いで、初めて一つにまとめてきましたなあ。今後の乱す者は、こうしてひとまとめの大軍団を作る方針なのですかねえ」

「一つを囮にするとか?」

「あのな……お前等ちょっとうるさいから黙りな」


 ぺちゃくちゃ喋り出す軍のお偉いさんらを、アリアが心なしか苛立たしげに黙らせた。


「奴等の方針や都合や事情なんかどうでもいいんだよ。いかに有効な方法で奴等を殲滅するか、その方法を考えるために集まってもらったんだ」

「アリア、殲滅の意味をわかって言ってるのか?」

「わかってるし、余計な突っ込みもいらねーぞ」


 俺が口を挟むと、アリアは不機嫌そうに俺まで睨む。


「皆殺しにするなら、こっちの犠牲もそれだけ増える。その辺は賛同する奴いねーだろ」


 俺は退かずになおも言う。


「ああ、犠牲覚悟で皆殺しにしろ」


 冷たく言い放つアリアに、会議室が静まり返る。


「こっちの覚悟とやる気を見せつけてやれ。そうすれば乱す者だって、もう迂闊にはここいらじゃ暴れられないだろうぜ」


 今までのアリアとは思えない発言。しかし……理にかなってないという事も無い。


「葉隠は特にテロを起こされまくりで皆頭にきてる。やりすぎなんてことはないね」

「それもそうだな」


 なおも冷たい声で言うアリアに、俺は掌返して同意した。こうなったら徹底的にアリアに合わせてやるとしよう。丁度俺も滅茶苦茶やりたい気分だしな。アリアもそうなのかもしれねえ。


「こっちの部隊は全て、敵の軍勢のド真ん中にワープさせてやるつもりだ。仮にあいつらが葉隠市を狙ってきても、すぐに転移で戻させる。敵陣営に転移させたら、即座に攻撃に移らせる。中からぐちゃぐちゃにしてやるんだよ。で、ファーストアタックの際に、効果的にぐちゃぐちゃにするいい作戦案があったら言いな」

「俺の絵で逃げ道を塞ぐ。あと、岩石を降らせる幻を作って、ひるませる。自軍には岩石は幻だから気にしないようにと伝えておいてくれ」


 俺が真っ先に申し出ると、アリアは満足げに微笑んだ。


「俺の奇跡は直接攻撃はできねーからな。いや、できないこともないけど、俺の奇跡でペインを与えると、俺にもペインが飛んでくる。補佐的な事しかできねーよ」

「流石は太郎だ。鈴木とも相談して二人で連携するといい」


 その時から、冷徹な空気をまとっていたアリアが、随分と和やかになったようであった。


***


 作戦会議は終わった。

 途中からアリアはいつものアリアに戻っていたが、殲滅戦である事を変更はしなかった。


「アリアらしくなく、焦っていましたね」


 俺と共に会議に出向いたディーグルが、会議室を出て戻る途中に声をかける。ゴージンももちろんいる。


「殲滅どころか、シリンとゲスルをちゃんと仕留められるかどうかも疑わしいんだぜ。あいつらだって古代遺跡で見つけた禁断の知識で、転移が可能になっているんだからよ」


 と、俺。


「焦リは禁物とアリアもわかっておロう。しかしなレど、ケリをつけたいという想いが強いのだ」

「そうでしょうね。だからこそいつものアリアらしくない。事情を知らない人達には意味が分からなかったでしょう」


 ゴージンとディーグルが言う。


「おーい、待てお前等」


 帰ろうとする俺達を、会議室から飛び出てきたアリアが呼び止め、回り込んできた。


「みっともねえ所見せちまったね。ごめんな」

「謝るなら会議中に皆の前で謝るべきで、俺達だけに謝ってもしゃーねーだろ」


 笑顔で謝罪するアリアに、俺が苦笑しながら言う。


「ああ、次の機会にでも謝るさ。何か苛々してた。太郎も結構そんな感じに見えたけど?」

「理不尽な運命と、それを受け入れようとするアリア、そういう事態だってのに、呑気に戦争やろうてとしているシリン達馬鹿共、全てにイラついてるよ」


 俺が皮肉げに言う。いや、皮肉じゃない。これが本心だ。きっとアリアも同じだったのだろう。


「これは一体何のための戦いだ? ウサ晴らしか? 八つ当たりか?」


 さらに皮肉る俺。


「お互いに……冷静にならないとね」


 アリアが笑顔で俺の頭を撫でてくる。うっ……例のオーラが発動していたのか?


「そうだな。明日までには気持ちを落ち着かせておくわ」


 実は現時点で大分落ち着いてるが、口に出して言い、安心させる事にする。


「ディーグル、ゴージン、大変だろうけどこいつの世話しっかり頼むよ」

「案ずルな。我は断じて太郎を護リきル」

「本当の本当に大変ですけど、それが私の使命ですから、全力で臨みます」


 アリアに頼まれ、不肖の下僕共が力強く言い切る。


「あたしはあたしが創ったこの世界も大事なんだけどさ、この葉隠市にはいろんな思い出が出来ちまって、特別好きになっちまった。もちろん太郎と過ごした時間も含めてな。だから、しっかり守らねえとな」


 いつもの薄い胸を張ってふんぞり返るポーズを決めるアリア。一度でいいからこの瞬間を狙って、「弱点を突いた!」と叫んで両方の乳首を指でつまんでやりたいと思っているんだが……


 あ、こんなこと考えるってことは、俺も少し調子が戻ってきたかな?

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