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13 愉快なマーク

 そんなわけで、俺、ディーグル、ヨセフの三人PTになったわけだが。


 俺はディーグルとヨセフに、竜都に飛ばされてからのあれこれを話した。話しながら、合流する度に同じ話をしなくちゃならんのかと思ったが、そん時は奇跡の絵を使って説明することにした。奇跡の絵でお喋り人形なりを出して、同じこと喋らせればいいんだからな。

 重要なのはシリン達がここまで追ってきたことだ。しかも竜の国の魔族を新たに配下に収めてるし。


「解放の塔の転移機能を利用し、竜の領域への扉を開こうとしたが失敗した。土地そのものがグノーシスの干渉を退けるというのだ。そこでなるべく近い場所に転移を試みたが、これも結果的には失敗だな。ばらばらに飛んでしまったうえに、解放の塔と繋ぐ空間の扉も閉ざされてしまった」


 ヨセフがここまでの経緯を説明する。


「私はこの荒野で、ずっとはぐれたゴージンさん達を探していました。一方でヨセフさんには、竜の国に入っていただき、定期的にこの場で落ち合い、連絡を取っていました」


 と、ディーグル。


「シリンが暗躍しているという話を、ヨセフさんに聞いた時は驚きましたけどね。で、シリンの影の中に潜んで様子を伺うと言われ、定期連絡がしばらく取れなくなっていましたが……見事、太郎さんを連れて来てくださって、本当に感謝いたします」

「おかげでシリンを殺しそこねた。次の優先順位は奴の始末を高くしてくれ」


 にこやかに礼を述べたディーグルだが、ヨセフは無表情のまま言う。


「シリンと何かあったのか?」

「仲間が殺された」


 俺の問いに、ヨセフは負のオーラを発しながら即答する。こいつがシリンと以前戦ったのも、それが原因か?


「リザレは最初シリンの懐柔をしようとしていたようだが、俺はうまくいくわけがないとわかっていた。だから……あいつがシリンに殺されたことを、リザレの責任だと責めてしまった。今では言いすぎたと、少し後悔している。リザレにとっても仲間であったし、リザレは奴の死を相当悔やんでいた」

「そっかー……」


 リザレ側もいろいろあったんだなあ。そしてヨセフは無愛想だが、ちゃんとリザレの仲間の一員しているようだ。


「俺がルザンに記憶を封じられて飛ばされた後、すぐに二手に分かれる話が出たのか?」

「すぐにというわけでもないですが……。ルザンがどこに飛ばしたか教えるまでもなく、シリンとゲスルは行き先を見抜いていました。私達はルザンの口から聞きましたけどね」


 俺の質問に、ディーグルが答える。


「アリアの件は私が警戒してネムレスに伝えました。そしてネムレスは二手に分ける決定をしたのです」

「そっか……。ディーグル、ヨセフ、すげえ運命的なもの感じるよな」


 俺のその言葉は、多分説明しなくても二人共理解できたであろうが、俺はあえて口に出してその理由を語った。


「ルザンは俺達が余計なことしたみたいなことを言ってたけど、俺達が調査隊としてあの場に赴かなければ、結局シリンがゲスルの封印を解き、誰も知らない所で世界に干渉するグノーシスの力を得ていた可能性が高い。俺達が動いたからこそ、シリンを防げる可能性も生まれたんだ。これって運命的なレベルでの、物凄い確率だぞ」

「そうですね。運命というものの存在、私は信じていますよ」

「俺はそんなもの信じない。ただの偶然だ」


 ディーグルは微笑んで同意したが、ヨセフは淡々と否定した。


「とりあえずはリザレとの合流か。今までどうやって探してたんだ?」

「それはもちろん……足を使って地道にですよ」


 俺の問いに、ディーグルが苦笑いで答える。


「こういう時こそ太郎さんの力が輝くのではありませんか?」

「そうだなー。奇跡の絵で何でもかなっちゃうからなー」


 言いつつ俺はスケッチを呼び出す。


 描いた絵は砲筒から地面に向けて弾が飛び出し、直撃した所に蛍光ペイントによるマークがつくという代物だった。

 奇跡の絵を発動させると、砲筒が現れる。


「ディーグル、レンティスを呼んでくれ。空からこれを撃ちまくる」

「了解しました」


 俺の要求にディーグルが頷き、使い魔のレンティスを呼び出す。

 植物と絡まったような飛竜と久しぶりに御対面。巨大なおっぱいも健在だ。


「ヨセフはここでちょっと待っていてくれ」


 レンティスの上に乗りつつ俺が言ったが、返事もしやがらねえ。どこまで愛想無しというか……コミュ障か?


***


 ディーグルと共にレンティスに乗って空を飛ぶ。フォルの方が速かったのは内緒にしておこう。うん。


 飛びながら、俺は地上めがけて砲を構え、次から次へといろんな場所に弾を撃ち込んでいく。

 着弾した地面には、蛍光ペイントによるマークがつく。二重丸に縦線一本入り、外円には外側に向けて放射状に短い線が幾つも伸びているという、とてもわかりやすい愉快なマークだ。これなら絶対にリザレは、俺の仕業と気付くはずっ。


「なるほど、あのマークにリザレさん達が気付いてその場に留まれば、見つけやすいということですね。しかしリザレさん達は、このマークを太郎さんがつけたものと気がつきますか?」


 マークの意味を知らないディーグルが、真面目に質問してきた。


「うん、ちゃんと気付くから平気」


 マークの意味は教えないでおく。


「位置は絵に描いておく。定期的にチェックしよう。リザレ達が中々現れなかったら、もっと離れた場所にいると見なして、移動しよう」

「了解。しかし……相変わらずですね」


 もっと素直に褒めればいいのになあ。きゃーさすがたろうさまーっとか。いや、ディーグルにそんなこと言われてもキモいだけだから、やっぱ今のでいいわ。


「正直、太郎さんのことがずっと心配でしたよ。一人でやっていけるのかと」

「男に心配されても嬉しくねー。つーか、俺のこと本当にお子様か何かだと思ってるのかよ」

「はい」


 予想通りの即答であった。


「気分的にもずっとそわそわしていました。こうして会えて心底ほっとしています」

「だから男のくせにそんなこと言うんじゃねーっての」

「男だといけないのですか? 文化の違いでしょうかねえ」


 不思議そうにしているディーグル。うーん……そこで真面目になられても困る。


「俺だって本当は同じ気持ちだけどさ、男同士でそんなことわざわざ口にするのってキモくね? ハズくね? 口にしなくてもわかってることじゃん。口に出して確認することじゃねーじゃん。女はそういうのを確認したがる所あるけどさ」


 女と男では、会話で相手に求めるノリからして違うからな。女はやたらと共感や理解を求めてくる。そして男からすると、口に出さなくていいと思えるような事も、言葉で求めてくる。その辺、正直超面倒だ。少なくとも俺は面倒と感じる。

 その辺を面倒だと思わずに女と付き合ってやれる男が、女にとってのいい男なんだろうがなー。はっ、笑えるわ。その女にとってのいい男だって、結局はぶちこみたい欲求に行き着くだけだっつーのによ。ぶちこみたいためだけに、女と話なんか合わせたくもないのに、合わせてるだけだっつーのっ。ぺっぺっ。


 まあそれはともかく、ディーグルのノリはそれとはまた違うんだろうが、やっぱり男同士では口にすると恥ずかしいことがあるだろう。

 いや……でも不安になってきたな。この考えって、ひょっとして俺だけの特殊なものか?


「そういうものですか。やはり文化面で違いますね。感情をそのまま口にすることは、別に恥ずかしいとは私は感じませんよ」


 文化面で違うか。なるほど。一発で解決する魔法の言葉だな。


「そっか……。じゃあお前は好きにしていいけど、俺にそういうのは期待しないでくれよ」

「太郎さんが実は恥ずかしがり屋なのは知っていますよ」


 笑い声でディーグルが言う。


「そこでそういう返しするかー……」


 外れてないから困る。ぐぬぬ……


***


 ペイント弾のマーク付け作業が終了して、岩山上のヨセフの元へと戻る。おーおー、一人寂しく留守番してらー。


「そのペイントマークをシリン達に見つかるという可能性は無いのか?」


 帰ってくるなり、ヨセフがそんなことを尋ねてきた。


「どうかねー。奴等は途中で追跡諦めてたし、竜の国を出てこの荒野を探すとか、流石にキツいと考えるだろうさ」

「そのキツい作業を私はずっと一人でしていたんですけどね」


 俺の言葉に反応して、ディーグルが笑いながら言った。


 ふと――殺気を感じる。

 ヨセフとディーグルも気付いて、警戒している。


「シリンの手の者か?」


 俺が呟く。見通しがいいこの岩山の上を拠点にしたわけだが、辺りを見渡しても、誰もいない。


「違いますね。これは……獣の臭いがします。おそらく魔物の類でしょう」

「何だ、魔物か」

「何だでは済ませられませんよ。ピンキリですけれど、この不毛の地では相当強力な魔物も出現しますからね。用心してください」


 みくびる俺に、ディーグルがわりと真剣な声で注意する。

 そういえばディーグルは、この土地に探検に来たこともあるんだったな。まあ、足を踏み入れたのは東側であるこちらではなくて、ずっと西の方だろうけど。


「俺達も何度か襲われたし、中には手強いのもいた」


 ヨセフが言う。この二人に手強いと言わしめるとか、相当とんでもないのっぽいが……


 地響きが起こる。岩山が縦揺れを起こしている。ディーグルが俺の側へと寄る。俺はスケッチブックを呼び出して身構える。


 やがてそれは現れた。おそらくは地面の下から現れたと思う。

 それは……イカとしか言いようが無い代物だった。完全にイカだ。しかし俺達がいる岩山の背より少し低い程度のイカ。全身水色で、体中にウロコが生えているイカ。地面の中から出てきただけあって、体中土だらけだ。


「俺らなんて腹の足しになりそうにないサイズなのにな」


 冗談めかして言う俺。この世界で肉食など成立しない。死ねば消滅するんだからな。しかしそれでも一部の肉食獣は、肉性植物の摂取を拒否して、肉食を行おうとするらしい。そういった類の獣は、魔物として扱われる。

 魔物と呼ばれるのは、他の生物に対して非常に攻撃的な獣が多い。それらは俺らがいる不毛の地や、この間までいた魔雲の地や、ダンジョン化した古代遺跡に現れる。そういう場所にしか生誕しないよう、設定されているんだろうな。


 イカが岩山の上へと触手を数本伸ばす。


 俺が奇跡の絵を発動させる。


 巨大イカをさらに上回る巨大網が出現して、イカに降り注ぐ。ペインを微妙に与えているようで、俺もちょっと気分悪くなってしまったが……イカの動きがあからさまに鈍る。触手の動きもかなり封じた。


 突然風が吹き荒れた。いや……ヨセフの周囲に風が吹いたというか、ヨセフが風をまとって飛翔した。そして岩山下のイカめがけて回転しながら急降下する。

 黒いドリルと化してイカの体を突き破るヨセフ。頭から突っ込んだわけではなく、両手に短剣を持ったうえで、両手を交差させて伸ばして、刃のスクリューを生じさせていた。


「何とも豪快ですね」


 ディーグルが感心して言うと、ヨセフの後を追う形で斜面を駆け下りながら、幾度も刀を振るう。その度に斬撃が飛び、イカを斬りつける。


 しかしイカが巨大すぎるせいか、あまり効いているように見えない。ヨセフの攻撃で受けたペインも、どれほど効果があるのか……


 イカの目が光る。ディーグルが駆けながら横に逸れる。

 ディーグルがいた場所を閃光が突き抜けていく。目からビームっぽい何かを出すイカなんて、何かイメージ的に合わんな。


 ヨセフがイカの内部で暴れているようで、時折中から穴が開いて風が吹きぬける。


 イカが網に絡まれた触手を続け様に何本も振るい、ディーグルを迎撃しようとする。網に絡めとられているというのに、驚くべき速度だ。

 ディーグルはそれらを余裕でかわし……てもいなかった。触手のうちの一本がディーグルに当たり、その体を弾き飛ばした。おいおい……


 しかしディーグルはすぐに体勢を立て直すと、果敢にイカ本体めがけて駆け下りていく。走りながら剣を幾度も振り続け、飛ぶ斬撃を浴びせ続けている。


 やがてイカ本体に到着したディーグルは、そのまま剣でイカの体を切り刻んで、先程のヨセフよろしくイカの体に穴を掘って、中へと突き進んでいく。もしかしてヨセフを意識して対抗してるのか?


 やがて巨大イカもペインの限界に達したようで、ゆっくりと体が透け、やがては消滅した。


「わりと手強かったな」

「ええ。太郎さんの網で動きを鈍くしていただき、助かりました」


 二人が戻ってきて一息つく。ディーグルが一発食らうほどだし、相当に強い魔物だったのだろう。


「あんなのがここにはごろごろしてるのかよ」

「あれより手強いのもいましたよ。あれは今まであった中で二番目の強さといったところですね」


 計り知れない話だなー。そんなところで離れ離れになっちゃって、リザレが心配だ。


***


 数時間後、俺はまたディーグルと共にレンティスに乗って飛んでいた。

 何時間か置きに、はぐれたリザレ達がいないかどうか、マークした場所をチェックしてまわる。面倒だが、マークの場所に来ていた場合、あまり待たせるのもどうかと思ったし、何より早く会いたかったし……


 二つ目のマークを双眼鏡で見て、俺は思わずレンティスから身を乗り出した。人がいる。

 しかしリザレではない。女性――いや金髪の少女が一人うずくまり、腕に絡めた翼の生えた蛇と何かお喋りしている様子。


 やがて彼女もこちらに気がつき、立ち上がって手を振ってきた。


 マークの上に降りるレンティス。


「お久しぶりでーすっ、ディーグルさん、それに太郎君、無事に見つかったんですねーっ」


 快活な声をかけてくるその子は見覚えがあった。リザレの仲間のマリアだ。


「お久しぶりぶり。リザレとゴージンは?」

「ああ、その二人のことなんですけど、大変なことになっちゃったんですようっ。


 顔色を変えて訴えるマリアに、俺は猛烈な不安を覚えた。

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