序章
彼女のルーツは憎しみだ。
あまりにも理不尽で残酷な世界への絶望と怒りが、魂の奥底に憎しみを刻み、それは転生を経てなお持続するに至った。
深い愛を知ってもなお、彼女の心の底では、憎しみの炎がくすぶっていた。消えるのを拒み続けた。
そんな事があるのか? 恨みも憎しみも、いずれは消えるものではないのか? 他者と心を通わせ、愛し合う悦びを知ってなお、憎しみが残り続けるものなのか?
あまりにも不自然な憎しみの残留。だが彼女の中でそれは、確かに残っていた。
愛に恵まれた彼女は、憎しみを心の底へと沈めた。だが、沈んだ憎しみは心の底から、少しずつ憎悪の残滓を放出し続け、微かに……本当に微かに、彼女の心に影響を与えていった。
まるで憎しみそのものが意思を持っていたかのように、それは機会を伺っていた。自分に出来ることを少しでもやり続けていた。消え無い限りは、いずれ心の表面に出て、爆発させる。その準備をし続けていた。それは遠大な計画とすら言えた。
彼女が支配欲にとらわれたのも、その一つだ。
神に捨てられた地――地獄と呼ばれる世へと受肉した際、病気で動けない体であった事も、彼女の心の底に潜む憎しみにとってみれば、都合が良かった。自分にエネルギーを与えた。
邪魔な恋人は、冥界からしつこく追ってきて、彼女の前に現れた。憎しみにとって最も忌むべき存在。自分を弱体化する最悪の敵。
愛などに負けない。愛などに負けるな。憎しみは己に言い聞かせ、決して消えようとはしない。
やがて彼女はまたはりぼての冥府へと生誕した。ここが自分達の本当の舞台だ。
彼女は憎しみの計画通り、支配を欲した。それは前世からの密かな望み。
あの邪魔な主神は、明らかに自分の中の憎しみの存在を意識し、警戒している。あの恋人とは別の意味で、憎しみの心にとって忌むべき敵である。
ほんの少しずつだが、憎しみの思う通りになってきている。あと必要なのは……運だけだ。きっかけがあればいい。彼女の心を変えるきっかけがあれば……憎しみを心の底から浮上させるきっかけさえあれば……




