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終章

 目を覚まして俺はぶったまげた。ネグリジェ姿で寝かされてたから。


「これ、ゴージンの仕業? それともネムレス?」


 同室にいたネムレスに声をかける。広い寝室だ。しかもダブルベッド。他には誰もいない。


「ゴージンだ。正直似合っていないな」

「似合ってたまるか」


 流石にキモいので、ベッドから降り、他の服を着ようとタンスの中を見る。

 ちゃんと俺の着替えを用意してくれてあるが、皆女物の服しかねえ。うん、ゴージンの仕業だな。

 比較的マシな服を見繕って着替える俺。


「俺、どれくらい寝てた?」


 相手にペインを与えると、その代償として昏睡状態に陥る。与えたペインの量に比して、その時間は長引く。海藤には結構なペインを与えたはずだ。


「十時間といったところだな。記憶を失った時間の攻防も、ディーグル達に聞いた」


 意外と短かった。


「さて……御褒美の時間だな」


 ネムレスが微笑みかけながら立ち上がると、俺の方にやってくる。


「え……?」


 俺の体を抱えあげるネムレスに、俺は呆気に取られていた。しかもベッドの上へと俺の体を丁寧に下ろし、俺に覆いかぶさるネムレス。


「うーん……完全に女の子を扱っている気分で、とても複雑だ。今の僕の体は女だというのにな」

「いや……あのさ……気持ちは嬉しいけど……」

「おやおや、散々あーだこーだ言っておきながら、いざとなったら照れてるのか」


 狼狽している俺を見下ろし、ネムレスがおかしそうにくすくすと笑う。


「今日は特別だ。僕のことを好きにしていい」

「そう言われてもね……ちんちんぴくりとも反応しないんだし」


 でもまあ……あちこち撫で回し揉みまくるだけでも、十分すぎるくらいの御褒美ではあるが。


「できるようにしてやろう」


 え……? え……? この感触は……。間違いない!

 うおおおおおっ! 魔王降臨! これで……世界中の女が俺の股間の前にひれ伏す! もう誰にも俺は止められないぜえぇぇぇっ!


「にやにやして……。どうせこれでハーレム作れるとか思っているんだろうが、無理だからな」


 え……? ちんちんちゃんとおっきしてるよ? これで無理とか何で?


「神蝕の応用だ。僕が奇跡を発動させているから、機能しているのであって、君の体そのものが恒久的に変化するわけではない」

「えー……」

「こら、がっかりするな」


 俺の股間に手を伸ばすネムレス。


「御褒美はいらないか? 嬉しくないならやめるぞ?」

「いるよ。それに、嬉しいに決まってるだろ。その……性欲だけの問題じゃなくて、ネムレスと一つになれることがな……」


 こういう台詞は俺のキャラには合わないので、ひどく照れるが、それでも口で伝えたかった。


 覆いかぶさっていたネムレスが、俺の体をキツく抱きしめる。


「君とリザレを失ってから、ずっと一人で待っていた僕の気持ちは、考えてくれたか?」


 耳元でそう囁かれ、俺は胸が痛んだ。言われてみれば……そこまで気が回らなかった。


「ごめん……」

「本当に悪い。僕の口からわざわざ言わせて、初めて気がついたんだからな。でも口で謝らなくてもいい」


 どっちやねーん、と思わず突っ込みそうになる。


「悪いと思っているなら、その気持ちも込めて僕を抱きしめてほしい。僕にはそれで伝わるし、そうしてくれた方が嬉しい」


 ネムレスにそう言われて、俺はこみ上げてくる熱いものと共に、ネムレスを強く抱き返した。


***


 ソードパラダイスの各地で祭りが開催されていた。


 ピレペワトが四人の剣神と対立していたこと。剣神、ネムレス、それにディーグルや賢者院も加わって、ピレペワト討伐に乗り出したこと。ネムレスと何百年もの間敵対していたピレペワトが、ついにネムレスに討ち果たされたこと。それらの情報がこの巨大都市国家内に一気に知れ渡り、狂神討伐記念という名目で、祭りが行われていたのである。

 殺されたことで祝いの祭りとか、俺にはちょっと理解しがたいセンスだ。ネムレスも抵抗があったようで、パレードやら祝いの席やらの勧誘が立て続けにあったが、全て断っていた。


 断ってネムレスが何をしていたかというと、俺と共に過ごす時間に割いてくれたから、嬉しいことこのうえない。しばらく二人でイチャイチャし続けていた。一度火がついたら、二人共止まらないといった感じだ。

 その間、ディーグルともゴージンとも怪しい爺とも会っていなくて、もう世界は俺とネムレスの二人っきりでいいや的気分。


「とりとめがないから、そろそろ部屋を出て次の動きをせねばな」


 ずっと二人で部屋にこもりっきりで甘い時間を過ごしていたが、ネムレスが終わりを告げる。


 名残惜しいが、ずっと俺の相手だけしているわけにもいくまい。神様は忙しい。


「モーコ・リゴリ遺跡探索の件がどうなったか、知らないとな。外は祭りのようであったが、そちらの話がどうなったかまではわからん」

「ネムレスが全然出てこないから、向こうも話進められなかったんじゃないか」

「君のせいだぞ。全く」


 冗談めかして笑うネムレス。


 揃って部屋を出てから、ネムレスは賢者院のお偉いさん達に会いに行き、俺は自室へと戻る。着替えの服も全て持って。


 自室にはゴージンがいた。


「ただいま……」

「随分と遅かったものゾ」


 特に責めるわけでもなく、普通に接してくるゴージン。

 うーん……何となく、ゴージンと顔を合わせづらい。


「我は根っかラの武人故に男女の交わリも知ラぬし、あまリ知リたいとは思わぬが、ネムレスと太郎がそこまで夢中になルとは……いや、そこまで人を狂わすものなど、正直怖いものゾ」


 うん、やっぱりバレてるね。こりゃディーグルやドロカカとも顔合わせづらいわ……


「ゴージンは祭りとか行ってた?」

「一昨日まで街中がお祭リ騒ぎであったゾ。ディーグルやドロカカと楽しんできた也」

「三人で俺のこと何か噂してた?」

「口にしづラき空気であったな。見事に誰も口に出さなきが故」


 まあ……一週間もおこもり状態で、ひたすらいちゃつく日々だったしなあ。互いに長いこと御無沙汰だったから余計にあれだ。


「ディーグル達にも会いに行くか。ゴージンも一緒に来て……」

「承知」


 服を置いて、俺はゴージンと共に自室を出る。


 図書館内の、いつもディーグルやゴージンといた部屋へ行くが、ディーグルの姿はない。

 受付でディーグルを見かけなかったかと尋ねたら、本院へ行くので、俺かゴージンが探していたらそう言ってくれと伝えられたとのこと。

 ずっといちゃついていた俺なんかのことも気にかけて……ちょっとディーグルに悪い気がしてきた。


「ひょっとしてネムレスやドロカカも一緒かな。ネムレスもエロい人達と話してくると言ってたし」

「第五次遺跡探索隊の話ではなかロうか? お主とネムレスがずっと部屋にこもって出てこなかったが故、その話を進められぬと、賢者長のサリンも剣神の墨子も困っておったゾ」

「そっかー……」


 あさっての方を向いて、ぽりぽりと頬をかく俺。


「ネムレスの力で、生殖器の機能を取リ戻した也か?」


 受付の前でストレートな質問をぶつけてくるゴージンに、俺は吹いた。


「ネムレスが奇跡を発動している際じゃないと駄目なんだ。つまり他で浮気はできないってことだな……」


 以前、ハーレム作りたいとネムレスに言ったら、未来永劫そのままでいろと言われたが、実際の所、ネムレスにも俺の体を完全に作り変えるのは無理なのだろう。


「我は複雑也。ネムレス、太郎、双方に妬けル」


 微笑をこぼしてゴージンが言った。


「寂しかった?」


 少しからかい気味に尋ねる俺。


「ディーグルとドロカカといた。仲間がいル故、寂しくは無きゾ。そレに我は孤独には慣レておル。いや、そレ以前に、そレとこレとは全く別問題であルな」

「そっかー。ズレてたか。まあエロい人達の話に混じってもしゃーないし、俺が行くとあれこれ口はさみまくりそうだし、立場上では俺が必要な話でもないし、部屋に戻っていちゃいちゃしてようぜ」

「いちゃいちゃはせんでよい」


 あっさり拒まれた。妬けると言ってたくせにぃ。


***


 それから三十分ほどしてから、俺とゴージンは別の部屋へと呼び出された。


 ディーグルとドロカカ、それにネムレスがいる。用件は知れている。


「第五次遺跡探索隊の発足が正式に決まった。二週間後、モーコ・リゴリ遺跡へと出発する。目的は未探索区域に眠っていると思われる古代知識の発掘だ」


 ネムレスが宣言する。準備に二週間もかかるのか。


「第四次探索隊もかなりの数が魔物に殺されたが、同時にかなり駆逐もした。しかしあれから十年も経っているから、また増えてそうだな」


 顎髭をいじりながらドロカカが言う。


「以前も話したが、世界破壊の鍵となる知識が眠っているのなら、どこかの馬鹿者に発掘される前に、僕が先に見つけて管理なり封印なりしようという目的だ」


 と、ネムレス。俺以外にも俺のいない所で話していたのか。


「逆に危なくないか? 賢者院の奴等もその話は知っているんだし、剣神達も知っている。人の口に戸は立てられないって言うし。魔物であふれた遺跡の中に放置しとく方が安全かもだろ」

「僕が管理すると言っているだろう。僕の事を信用できないのか?」


 俺は一般論的なことを口にしたつもりだが、ネムレスにこんな風に言われては、二の句が告げられん……。わりと強引というか、文字通り自己中心的というか……

 そして間違いなくこれは俺以外には誰にも口にしていないだろうが、ネムレスの目的の一つは、リザレへの対抗策を見つけることだ。むしろそっちの方がでかいかも。


「ドロカカが見つけた古代神の協力は乞えないかと言ったら、ドロカカにもディーグルにも反対された」

「記憶を失って人として普通に暮らしているようなら、そっとしておいた方がよいと言いました」


 ネムレスの言葉を継ぐように、ディーグルが俺の方を見て言った。

 その古代神とやらはドロカカ曰く、このソードパラダイスで暮らしているって話だったな。


「その遺跡とやラは、ここかラどレほどかかル?」


 ゴージンが問う。


「徒歩だと半年以上かかってしまう。これまでは森の中でも移動できる森牛車で大移動していたが、それでも数ヶ月だ。よって、今回は太郎の奇跡を用いよう。それなら、かなり速いはずだ。具体的には僕にもわからないが」


 つまり絵で飛行船出せってことね。ここに来るまでのように、観光がてらの徒歩の旅をするわけにはいかないか。


「俺が死んだら帰りの足が無くなるから、お前ら死ぬ気で俺を守れよ」

「僕の前で冗談でもそういうことを言うな。二度も死んで僕を哀しませた罪深い身で」


 軽口をたたいた俺をネムレスが睨む。いや、睨んでいるというか、哀しそうな目で咎めているとでも言おうか。

 何かそんな目で見られてこんなこと言われると、俺が何か悪い事した記憶も無いのに、罪悪感が……


「それと剣神ヘカティも同行することとなった」

「かつてない豪華な布陣だな」


 ネムレスが言い、ドロカカが微笑む。


「二週間の間に、準備を進めておくように。以上」


 準備と言われてもなあ。適当に旅支度する程度だろうし、二週間も必要は無い。


 いや、他にもやることあるな。第三次と第四次の探索がどんな様子だったか、経験者二名様に詳しく聞いておかないと。

 正直、わくわくして浮かれている所はあったがな。これまでの仲間にネムレスやヘカティも加え、さらに多数の人物と共に移動となるわけで、こんなのは葉隠市での軍隊生活以来だし。



第三部 終

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