9 頑張れ、使い魔達
大幅増員があってから一週間後。第十八部隊は、乱す者のアジトの一つへと赴くことへとなった。
目的は、アジトに潜む乱す者の指導者の一人である脇坂裕二の討伐、アジトで行われている魔物の飼育施設の破壊、魔物の討伐もしくは無力化の三つだ。
そのためには、彼等に雇われた不沈戦士ゴージンを退けることが必要となる。どんなにペインを与えても死ぬことがなく戦い続けるという、北の地では有名な傭兵らしい。
ゴージンについてもう一つ分かった事がある。不沈の戦士であると同時に、不殺の戦士でもあるという。金さえ払えば乱す者相手でも雇われるが、もう一つの条件として、この不殺が含まれる。
ゴージンは相手にペインを与え過ぎて、殺すということをしない。行動不能になる絶妙のタイミングで加減する達人だという。そしてそのペインの量の見極めができるとか。ゴージン以外が戦って相手を殺す事は関知しないようだが、ゴージンが戦闘不能に陥れた者にさらにトドメを刺すという事もNGらしい。
葉隠市を出てから馬で丸一日もかかる場所だというが、そもそも葉隠市自体が一千万希規模の超巨大都市で、都市の郊外へ出るだけでも馬で二時間以上かかる。
都市から出た所で、全員の馬を止めてもらった。馬を使わずとももっと早く快適に移動する方法がある。都市内で実行すると、目撃者とか出て面倒になるかもしれないので、ここまでは馬で移動した。
「とうとう絵の奇跡とやらを御目にかかれるのかい。楽しみだね」
ランダが興味津々で、俺の後ろに立つ。ふふふ、驚かせてやるぜー。
何も無い空間にスケッチブックと鉛筆を実体化させ、高速お絵描き開始。
今回描く物は、大雑把にではあるが、外観だけではなく内部構造もある程度は描かないとならない。そうしないと哀しい出来になってしまう。
「何だいこりゃあ。船だね」
よく通る大きな声で、皆に見せて驚かす前にネタ晴らししてくれた。ランダのおばちゃん……空気読もうよ。
ちょっとトーン下がったが、まあいい。馬数十頭分余裕で収納できる船を出現させた。兵士達からどよめきと歓声があがる。
某有名RPGのようなプロペラ付き飛空艇ではない。ジェットエンジン式である。流石にプロペラでは無理があるというか、遅い気がするしな。まあそのジェットエンジンも、俺のイメージの産物でしかなくて、詳しい理屈は考えていない。
「ははははっ、本当に何でもありじゃな。大したもんじゃ」
副隊長のザンキが笑う。
「すげー、これ本当に動くスか。燃料とかどうなってんスか? 操縦とか誰がするんスか?」
細かいことをドポロロが突っ込みまくる。いいんだよ、奇跡の産物なんだからそこまで考えなくても。いや、実際飛ぶのは奇跡の力で飛ぶのであって、燃料も不要だし、どういう仕組みで飛ぶとかは無い。イメージ的に飛ぶ物というだけの代物である。
燃料はともかくとして、操縦は俺にしかできないんだけどなー。目的地までほぼ直進すればいいとは思うが。
全員乗り込んだのを確認し、俺はジェット飛空船を飛ばした。
一応船の中も少し描いている。くつろげるように昼寝部屋を作った程度だがな。中ががらんどうじゃ寂しいしね。しかし大雑把というか、適当感はぬぐえない。内部構造まで描くってのは難しいね……。この辺が俺の奇跡の限界とも言える。
お空の快適な旅で、全員大して疲労も無く目的地まであっと言う間――と思ったら、乗り物酔い多数。上空は風が強くて、結構揺れた。
ゲロの海に溺れた奴等にペインまで生じてしまい、飛空船で彼等にペインを与えたという結果となり、俺の体力が奪われてしまうという大誤算。あううう……
「この世界に魔物はほとんどいないって、本には書かれていたけどな」
船長室にて、前方の大きな窓から眼下に広がる光景を見下ろし、目視で船の操縦を行いながら、俺は傍らにいるディーグルと雑談を交わしていた。
「魔物はいますよ。ただしこの大陸で基本的に魔物が生息しているのは、北と東です。おそらくそこからわざわざ連れてきたのでしょう」
北と東という言葉が何を示すか、俺は書物で仕入れた知識で知っている。
東には人の住むことのできない不毛の地が延々と続いているらしい。本には幾つか挿絵も載っていたが、地球上では見受けられないような、様々な幻想的な地形があるようだ。
天地を繋ぐ程伸びた岩の柱や、キノコ状の岩等が立ち並ぶ、岩石砂漠。延々と続く赤い大地と、そこかしこに空いた底の見えない巨大な穴。草が人の背丈の倍以上も伸びた草原。超巨大な木々の根本に広がる地下世界。
さらに東の果て――途方も無く長い距離を東に進んだ果ての地には、神々の干渉すら退けた、竜族が治める都市があるという伝説があるが、それが真実かどうか確かめた者はいない。
大陸北部の大部分は、魔雲という雲に覆われている領域だという。魔雲で覆われた地は、世界の法則性も混沌として別物に変わってしまうとか。北に行けば北に行くほど、混沌の度合いが増して、予測不能の事態が発生する。
北の果てには世界のほつれがあるという。そこまで行って確かめた者の話によると、文字通りの世界の端となっていて、空間がまるでちぎれた紙のように途切れ、その先は無明の闇が広がっているという。その中へ入っていった豪の者もいたが、帰ってきた者はいないとのこと。
「ディーグルは行った事があるわけか」
「どちらにも行きましたが、東は極めて過酷な環境の問題で、ある地点より先に進めませんね。でもね、東の地のあの雄大な景色の数々は、実に素晴らしい代物でした。あれを見るだけでも、足を運ぶ価値はあります」
うっとりした表情で語るディーグル。
「君にも見せてあげたいですね。そのうち連れていってあげたいです。そして酸素の薄い高山地帯で、引っくり返った太郎さんの看病をしてあげたいです」
何を言ってるんだ、こいつは……? 自分一人で面白いと思っている冗談のつもり……なんだよな……?
「北は魔雲に覆われていながらも、植物は豊富です。森林地帯と湿地帯が多めですしね。そしてあんな混沌とした危険な土地であるにも関わらず、集落も多いので、途中の宿にもありつけます。冒険者が目指すのは大抵北でしょうね。尤も、冒険者などという人種は稀ですがね。永遠の命があるのに、わざわざ死のリスクを冒す者など、そうはいません」
「ここにいる兵隊は皆そのリスクを負っているじゃんよー」
「乱す者から命がけで社会を守る者と、冒険者を同列扱いしたら怒られますよ。私も冒険者していた事もありましたが、道楽者扱いされていました。ある意味ニート以下の扱いです。好き好んで死ぬかもしれないことをする者など、侮蔑の対象です。北の地の住人は温かく迎えてくれますけどね」
この世界の主人公を冒険者にして描くなら、『ファンタジー世界の現実は厳しく世間の目は冷たく扱いはニート以下だった』、こういうタイトルのラノベになるな、うん。
船がある程度進んだところで、堀内が船長室に入ってきた。
「そろそろ降ろしてくれ。目的地が近い」
「近いって、まだまだ先じゃん」
「あまり近づきすぎて、この乗り物自体を発見されても面倒だろう。ある程度距離を置いた所で降りて、後は陸地から接近しよう」
「了解」
流石隊長、頭がよく回ると感心した。つーか俺もそれに気が付くべきだったな。何でそこまでちゃんと頭回らなかったのやら。
***
ジェット飛空船を消して、再び馬で移動を開始。遮蔽物の無い一面緑の丘陵を、何十人もの兵士が馬で駆けていくのだから、これはこれで目立つと思うんだが……
しかし途中から林の中へと入った。さらにいいタイミングで陽が傾いてきた。敵のアジトに潜入なり急襲するにはおあつらえ向きだ。
しばらくして馬が止まる。堀内とザンキが難しい顔で話し合っている。何かトラブルでもあったのだろうか。
やがてザンキが俺の方に来た。
「困った事になりよった。間者の報告だとここいらに目印を置いといたらしいが、どこに見当たらないんじゃ」
「道を間違えたか、目印自体が消失したってこと?」
「うむ。太郎の絵で何とかできんか? 迷子の状態でいつまでも彷徨っているわけにもいかんし、そんなことをしていたら、敵の方に先に見つかってしまうリスクもあるでなー」
無茶言ってくれるなあ……俺はそこまで何でもできるわけじゃないぜ。
いや、いい方法を思いついた。
まずスケッチブックでラジコン飛行機を描く。電子機器の無い世界だが、まあ奇跡のパワーで動くだろ。うん。ジェットエンジン搭載の飛空船もちゃんと飛んだしな。
で、絵からラジコン飛行機が出現、と。もう皆慣れてきたようで、驚いていない。
「これを飛ばして偵察しよう。操縦はこれを使う」
言いつつ俺は使い魔を封じた札を取り出し、蜘蛛の使い魔を呼び出した。
第十八部隊の面々がぎょっとしている。はいはい。そのリアクションは予想していましたよ。
「蜘蛛をこの上に乗せて飛ばす。俺と蜘蛛の視点が繋がっているから、蜘蛛を通じてラジコンも遠隔操縦できるっていう寸法さ」
得意満面に語る俺。俺のこの奇跡の力と、使い魔の特性を組み合わせるという、素晴らしい発想であったが、話を聞いていた第十八部隊の奴等は誰一人として褒めてくれなかった。
「何で蜘蛛なんスか……」
「気持ち悪いねえ。大きいと余計に気持ち悪いよ。私の方に近づけないでおくれよ。足に生えている毛とか、汚らしいったらありゃしない。おお、やだ」
ドポロロとランダが嫌そうな顔で言った。ふぁっく……どんなに他人にキモがられようと、俺だけは力いっぱいお前を可愛がってやるからなーっ。
そういえばこいつに名前つけようと思って、ずっと忘れてたな。
蜘蛛を乗せたラジコンを飛ばし、俺は瞑目する。そうすることで、俺の視界は、使い魔が見ている光景とリンクする。
林の中をラジコン飛行機とか、木々にぶつかりそうで危なさそうなイメージがあるが、その辺も大丈夫。蜘蛛の頭部前列に並ぶ四つの目玉が、前方の木々を遠目から捉え、スイスイと木々を避けていく。実際の所、優れているのは真ん中の目玉二つのようだけどね。
高速で探索すること数分後。
「よっしゃ、発見」
俺が呟き、飛行機を消す。蜘蛛が地面に落ちる。
林の中にある、朽ちかけた大きな建物。その周辺には物見の兵士達が立っていた。装備には見覚えがある。乱す者達の出で立ちだ。
「案内できるか?」
「あいあい」
訊ねる堀内に、俺は地面に落ちている蜘蛛の糸を拾い上げて、微笑んでみせた。ラジコンで飛ばしている間、ずっと糸を出させていたのだ。この糸を辿って行けば目的地に着く。
***
アジトを破壊するだけなら、俺が隕石落ちる絵でも描いてそれで終わりなんだが、それやるとまた何日も昏睡状態だ。いや、下手すりゃ俺が死ぬ可能性もある。
絵でペインを与えて殺害する行為は、出来るだけ抑える方針でいく。バスの男は別としてな。
主力は俺の絵。絵を描き上げるための時間稼ぎは、第十八部隊の面々に頑張ってもらう。絵の規模にもよるが、早くて二十秒。遅ければ二分という所か。凄く単純な絵なら十秒でもいけるんだけどな。
アジトの前にいる見張り二人に、時間稼ぎは不要だった。奴等が拘束され、口にもギャグボールがハメられて呻き声か喘ぎ声しか出せないようにする絵を描き、それでおしまい。殺すことなく無力化成功だ。
ペインは多少与えてしまうようで、ちょっと疲労感はあるものの、行動に支障は無い。回数が増えれば危ういけどな。
隕石落とすとか、最初のように無差別な爆発で対処するなら楽でいい。空間を指定して起こす奇跡だから、対象の空間を視界に収めれば、個別の対象を見なくてもいい。個別に発生する現象を起こすには、ちゃんと対象の姿も見て描かないと駄目だわ。
第十八部隊が建物の中へと潜入する。どうやらここは元々美術館だったようだ。何でこんな人気の無い場所に、美術館が建っているかは謎だが、中には彫像がいっぱい並んでいる。絵も飾ってある。
三つの神の彫像が飾ってある部屋に、十数人の乱す者達がたむろしていて、戦闘となった。
ランダやザンキが先陣を切り、勢いよく襲いかかる。そんなことしなくてもいいのに……。なるべく防御を集めにして、危ない目に合わないようにして、時間稼ぎに徹してくれた方がいいのだが、この二人は血の気が多くていかん。
ザンキの獲物はシャムシールで、ランダがショーテル。二人とも曲刀使いか。ザンキは両手持ちのグランドシャムシールだったが。
一分かからずその場にいた敵全員、全身を縄で拘束され、口にはギャグがハメられて床に転がった。死者は敵味方共に無し。うん、よし。
神々の彫像を見上げる。飾られていた神の彫像は、以下の三つだ。
法と情けの神ラクチャ。かつては法の神と呼ばれ、非常に厳格な神であったが、ある時を境に法と情けの神と呼ばれるようになり、多くの人々から親しまれ崇められるようになった。
法を厳守せよという考えから、法はあくまで人の世を円滑に維持するための手段に過ぎず、法に縛られて、人の心と暮らしが歪められるような事があってはならないと解き、思いやりの心をより大事にしていけば、法すらも不要と説くスタイルに変化したとか。
狂神ピレペワト。狂ってしまえば救われるというアホな教えの悪神で、乱す者の一部から信仰されているマイナー神。信仰している者がほとんどいないので、神としての格も低く力も脆弱だとさ。
邪神ネムレス。邪神でありながら人気の高い神だ。様々な逸話を持つ。他の神々と最も多く戦った好戦的な神でもある。特に弟神のユメミナとは何百年にも渡って抗争を繰り広げ、ついにはこれを滅ぼしている。
常人であろうと乱す者であろうと分け隔てなく信仰され、力を与える。気まぐれなトリックスターで、時として人に災いももたらす。気分に応じて男にも女にもなるらしい。北欧神話のロキを彷彿とさせる神だが、あれよりもさらに好戦的で不遜なイメージだ。
個人的にはネムレスはお気に入りの神だなー。逸話が多いし面白い。
言うのが遅れたが、俺達は建物の奥に進む前に、使い魔を物見に放っている。俺の蜘蛛は大きすぎるということでNGとして、小さくて目立たない使い魔を持つ者が行っている。そのため、敵の位置はもうほとんど把握しているし、常に奇襲をかけられる状態だ。
「脇坂がいましたっス」
小鳥の使い魔を放っていたドポロロが報告した。もう陽が落ちたし、建物の中は暗いのに、鳥目でわかるもんなのかね? それとも夜行性の鳥なのか。
ドポロロが先頭に立つ形で案内する。地下室のようだ。
部屋の中を覗く。さっきの戦闘音が届いていなかったようで、乱す者達が談笑しながら夕食をとっていた。
「戦う必要も無いな」
そう言って俺がスケッチブックを取り出し、彼等が拘束されている絵を描く。
はい、あっという間に無力化。室内にいた連中が、全員一斉に縛り上げられて転がる。
「はっ、楽でいいね。暴れられなくて物足りないけど」
ランダがそう言うものの、俺は楽ってわけでもないんだよなあ。拘束する度に疲労が少しずつ蓄積されていくしね。
拘束され、ギャグをハメられてうーうー唸っている奴等の中に、見覚えのある顔が有った。
あいつだ。先日葉隠市で俺を暗殺しようとした男の一人、リーダー格と思しき、やや太め体型の脂ギッシュの男だ。俺のちんちんもじもじポーズに萌えていたあいつだ。
「どうした? 脇坂を知っているのか?」
堀内が訝しげな顔で訊ねてきた。こいつがここのボスの脇坂だったのか。
「ちょっとこの男と話がしたいんだけど、いいですかね?」
俺が会話の許可を求める。
「ああ、別に構わんぞ」
「ありがとさままま」
堀内の許可が下りたので、脇坂のギャグを外す。
「どうも久しぶり。あの糞野郎もここにいるのか?」
黒い感情が噴きだしそうになるのをこらえながら、俺は脇坂に声をかけた。
「いいや……もうあいつとは縁を切った。正直ついていけない。仲間も何人かあいつに殺された。あいつは完全に狂っている。まるで狂神ピレペワトのようにな」
苦々しげな口調で脇坂は答えた。少なくともここにはいない……か。
「どこにいるかもわからねー?」
「知らないし、もう関わりたくも無い。我々はあいつを見限った」
仲間外れか。ざまーないね。
「じゃあ奴は孤立か」
「いいや、乱す者の中にもあいつに共感している奴等がいる。そういう奴等以外はもう相手にしないだろうが、何人かは奴と共に行動をしているようだ」
完全に仲間外れってわけでもなく、類はふぁっきん友を呼ぶってか。
「俺からも聞いていいか? 奇跡の絵描きよ。お前は神聖騎士だそうだが、仕える神がわからないそうじゃないか」
脇坂が俺をじっと見つめ、そんなことを言ってきた。情報ダダ漏れ……。向こうにもこっちのスパイがいるそうだけど、向こうのもこっちに紛れ込んでるってことか。
「もし……だ。こっち側の神だったとしたら、考えてみてくれ。どうせ乱す者は悪だと停まり人共に吹きこまれているんだろうが、俺達は俺達で考えた末、こうした道を歩んでいる。この世界はおかしい」
乱す者達は、この世界の主流である一般ぴーぷるのことを停まり人と読んでいる。侮蔑も込められているが、確かに文明は停滞しているし、その停滞を好んで受け入れているから、その呼び方も間違ってはいないな。
「耳を傾けない方がいいですよ」
少し怖い声音で、ディーグルが耳元で囁いた。
「聞くだけ聞いてやってもいいだろ」
と、俺。まあ聞いた所で、俺は第十八部隊や葉隠市を裏切るとか考えられないけどね。
「俺はな、あっちの世界じゃ実業家だったんだ。結構いい所までいったんだぜ? 楽しい人生だったよ。なのに病気で死んで、こんな面白みの無いあの世に来ちまった。競争も格差も変化も悪とされる、何の変哲もない日々を延々と送るだけの、無味乾燥な悪平等の世界。俺は嫌で嫌で仕方がなかった。だから世界を変えたいんだ」
「その主張はわからんでもないけどさ。やり方変えたら? 御大層な理想掲げても、やってる事は戦争だったりテロだったりで、人を傷つけるやり方だから、余計反感買ってるんじゃねーの? 例えばそっち寄りの考えの人がいても、やり方が悪くて同調できない奴だっているだろ?」
俺の指摘に、脇坂は押し黙る。これはきっと効いたな。特に最後の言葉が。うん。
「太郎、お前も使い魔を出して建物の中を探れ」
ザンキがやってきて命じたので、俺は蜘蛛を放つ。
「兵士皆で使い魔に探らせてるんだが、魔物を育成しているような施設はどこにも無いんじゃ。隠し扉とかどっかにあるんかのー? どこにあるんかのー?」
わざとらしい口調で言いながら、ザンキは倒れている脇坂をチラチラと見る。
「なあ、ここの棟梁なら、それも知ってそうじゃのー?」
「拷問でも何でもすればいい」
脇坂が不敵に笑ったその直後、ザンキは溜息をついた。
「どうせ喋らんじゃろうし、そんな趣味の悪いことはせん。どうせ見つかるのも時間の問題じゃし、協力的な態度であれば、情状酌量にも繋がるんじゃがのー?」
「いらん、そんなものは」
ぷいっとそっぽを向く脇坂。
「見つけたっ。隠し扉です」
兵士の一人が報告したので、全員で移動を開始した。