猫と女の子
猫と女の子
一匹の猫が、雨宿りをしていた。猫は、ひとり商店街の軒下で、雨が通り過ぎるのを待っていた。目の前を大勢の人が行き来する。猫は雨宿りをしながら、人々が通り過ぎていくのを見つめていた。雨はもう長く続いていて、一向に降り止む気配がない。猫は、少し伸びをすると、空を見つめた。雨がぽつぽつ、ざあざあと降ってくる。手を伸ばしてみると、手のひらに雨粒が落ちてきた。冷たい感触が指先を伝わる。目の前を、傘を持った人たちが通り過ぎていく。肌寒い秋の夕暮、猫はひとり考えた。この人たちには、みな帰る家があるのだろうか。そこは、温かい場所だろうか。そうして猫がひとり、座っていると、猫の目の前に、誰かがコロッケを置いてくれた。猫は、コロッケを置いてくれた人を一目見ると、立ち上がりそれを食べた。その人は、猫がコロッケを食べている様子を見ると、猫をなで、立ち去って行った。猫は、再び座っていた。雨は一向にやむ気配がない。猫は、どうしたものかと、考えた。すると、今度は、女の子が猫の前で立ち止まり、しばらく、猫の事を見つめていた。猫も女の子の事を見つめ返した。女の子は、やがてどこからか箱を持ってくると、猫をその中に入れた。そうして、猫を抱えて歩き出した。雨の降りしきる中を、女の子は、片手に猫を持ち、片手に傘を持ち歩いて行った。猫は、女の子の手の中から、女の子の事を見た。雨にぬれることはなかった。
猫は、女の子の家に連れてこられると、玄関の靴箱の隣に置かれた。そこには、大きな靴と、中くらいの靴と、小さな靴が置かれていて、猫はそれを手で触ってみた。異常はない。あとは観葉植物があるだけだ。そこに、女の子がごはんを持って戻って来た。猫はそれを嬉しそうに食べると、にゃあと鳴いた。すると、女の子は嬉しそうに笑った。そうして、猫の頭をなでると、毛布を一枚持ってきてくれて、それを箱に敷いてくれた。猫は、そこでぬくぬくと過ごした。雨の冷たい外とは違い、家の中は温かかった。猫は、女の子の優しさを感じることができた。でも、それをどう表現していいかわからない。だから、そこで丸くなっていた。
やがて、雨が上がり、猫のいる玄関にも日が差してきた。猫は家の中に侵入すると、居間に来た。居間は庭に面していて、今、窓の扉が開いていた。そして、そこからは、外の景色が垣間見えた。窓の外を一匹の茶色の猫が通り過ぎた。何者だろう。猫は、それを確認すると、窓のほうへと歩いて行った。すると、背後で音がした。振り返ると、女の子がいた。猫は、一瞬ためらったが、その猫の後を追った。そうして、夢中で駆けて行った。外塀の上を歩いていく。やがて、茶猫の事を見失ってしまった。猫は考えた。女の子とコロッケの事が頭に浮かんだ。あの女の子は、良い人だったな、と猫は思った。そうして、どこかにコロッケでも落ちていないかな、と思いながら今日も町を歩いて行った。