エラーギア
君の首を絞める夢を見た。
細く白い首に僕の手が伸びる。
君の体温を感じた。
それから徐々に力を込めていく。
君の瞳にたまる涙が美しいと思った。
それでも君は笑うんだ。
僕に笑いかけるんだ。
だから僕は君の首を絞めた。
君のその顔をぐちゃぐちゃにしたくて。
だけどその顔が崩れる様を想像できない。
だから僕はその夢の先を見れない。
彫刻のように笑みが刻まれた死体。
それが恐ろしくなって僕は叫ぶ。
そうして目が覚める。
悪夢を見たあと特有の倦怠感があった。
朝日がカーテンの隙間を縫って射し込む。
窓から外を除けば玄関には君が立っていた。
来客を告げるチャイムの音。
それを僕は耳を塞いで聞こえないふりをする。
ノイズがうるさいんだ。
雑音がやまないんだ。
それはきっと僕が壊れた歯車だから。
壊れた歯車は社会に噛み合わない。
君はそんな歯車に惑わされているんだ。
いつか、いつかきっと僕は夢の通りに君の首を絞めるだろう。
その笑顔に耐えられなくなって。
君の好意に押しつぶされて。
だからいっそ僕は消えたほうがいいのかもしれない。
そうしたら素晴らしい朝が訪れるのではないだろうか?
すべての歯車が噛み合った世界。
そんな素晴らしい世界になるだろう。
そして世界に静寂が訪れる。
少し高い場所から見る部屋は広くて、静かな世界は少し寂しかった。
その寂しさに胸がつかえて声が出なくなる。
上手に息ができなくなる。
でも大丈夫。
世界は素晴らしくなるのだから。
君の夢を見た。
君の首を絞める必要のなくなった夢。
その世界では君は自然に笑っていた。
それが僕には嬉しかった。
僕のいない世界は本当に素晴らしい世界だった。
窓から射し込む夕日に照らされて伸びる影。
春風が吹き抜けてゆらゆらと影が揺れる。
部屋にノックが響く。何度か繰り返されたあと、扉が開く。
その部屋には絶叫が響いた。
でも雑音を感じることはもうなかった。