平々凡々なう 2
『モテモテなう』
人間界大都市、KYOUZON。
「カイ様だ~!」
「カイ様~!」
「写真いいですか~?」
女性達が、一人の若い男に群がる。
(うぜぇ・・・)
このモテ男、ハイヨトの長、カイリエル。
「モテモテだね、カイ君」
この純朴少年、動物系幼獣、サンド・ワーム。
「サン。いいところに来た。コイツら全員、喰って砂にしろ」
「い、嫌だよ~!天使とは思えない発現だよ~!」
ドS軍隊長、カイリエル。
「クソッ・・・!やっと散った」
「お、お疲れ様・・・。モテるのも大変なんだね?」
サンド・ワームは近くで買ってきたコーヒーを、カイリエルに渡す。
「ああ。まぁ、モテたことない君には一生分からないだろうがねぇ!?」
「カイ君、イライラでキャラ崩壊してるよ~!」
しっかりして~、とサンド・ワームはおろおろする。
「ああ、働ぎ過ぎかもな。頭いてぇし。てかお前、今どーやってコーヒー渡してきた?」
「え?」
サンド・ワームに手はありません。
「隊長!」
一人の軍服を着た男性が、カイリエルの前で敬礼する。
「あ?」
「お休み中のところ申し訳御座いません!」
「そー思うなら帰れ」
「え!?いや、でも緊急の連絡が・・・――」
「――帰れ」
カイリエルは鋭い眼光で、相手を睨みつける。
「うぅ~・・・!怖い~・・・!」
「カイ君、大の大人が泣いてるから!話だけでも聞いてあげて!」
機嫌が悪いと、人当たりも悪い。
「で?何だよ?さっさと言え」
「は、はい!」
男性は再び敬礼のポーズで、話し始める。
「何でも集団で天使達がボイコットを起こした様で、サンクトゥスを歌おうとしないと」
「で?」
「で?で、と言われましても・・・。あの出来れば隊長に彼らを説得して頂きたく――」
「別にそんなのお前らだけで出来るだろ?何でもかんでも人の事頼ってんじゃねぇよ。それともなにか?俺の休息を邪魔する方が、奴らを説得するより簡単だとでも思ったのか?よーし、そこに星座しろ。特別指導してやる」
パーンッ、とカイリエルはどこから出したか分からない、炎を纏った鞭をしならせる。
「ひぃぃぃいいっ・・・!!」
「お、落ち着いて、カイ君!穏便に!穏便にいこう?」
天使から恐れられる事で有名な、天使カイリエル。
「チッ!ったく、メンドくせぇ!」
そう言いつつも、カイリエルは重い腰を上げる。
「!隊長・・・!」
さっきまで泣いていた男性の顔が、みるみる明るくなる。
「ところで、水差すようで悪いんだけど・・・」
おずおずとサンド・ワームが去ろうとする二人を制止する。
「あ?」
「『隊長』って何?カイ君、軍隊か何かの隊長なの?」
「あ?言ってなかったか?」
「隊長は我々ハイヨトの長、カイリエル様ですよ。サンクトゥスを怠った天使達を、取り締まるのが主な役目です」
「え!?カイ君の『カイ』って『アカイライ』の略じゃなかったの!?」
「おーい、井戸女!コイツにありったけの水ぶっ掛けろ!」
アカイライ・・・オウムの様な顔に四本の足を持った、体高四・五メートル程の怪物。娯楽として他生物を殺戮するという、ドS鳥野郎だぞ☆
某ゲームセンター。
「シャーっ!!いけぇっ!決めろ、パイルドライバー!!」
「ぐあーっ!!ズリィー!!」
ボイコットをした天使達が、格ゲーで白熱した戦いを繰り広げている。
「しっかし、ハイヨトっつっても、カイリエル以外は大したことねぇのな!こんなあっさり抜けられるとはな!」
「カイリエルがいなくてラッキーだったな!」
「ああ!正直、あの場にカイリエルがいたかと思うと、ゾっとするわ」
一人の天使が「ハハハ」と気楽に笑う天使のバックに、いつの間にか佇んでいるカイリエルを見付ける。
「うん・・・。俺、今ゾッとしてる・・・」
「?」
この後、ゲームセンターは暫く営業停止になった。
「あれ~?ここのゲームセンター、営業停止になってる~」
サンド・ワームはドーナツをサンドイッチを頬張りながら、ゲームセンターの前を通り過ぎる。
「いつからだろう?カイ君、知ってた?」
「ああ。乱闘で店内が荒れて、暫く商売できねぇんだってよ」
「そーなんだ。新しいUFOキャッチャーがあるっていうから、やってみたかったんだけどなぁ」
「お前、人形なんか集めてたっけ?」
「ううん。ソフィアちゃんがグラシャラボラスの人形が欲しいって言ってたから」
「また女か」
グラシャラボラス・・・グリフォンのような翼を持った犬の様な見た目で、とってもキュートだぞ☆
「あー!いた、カイ!」
急に後ろから女性の声が掛かる。
「あ?」
「あ!ソフィアちゃん!」
「あ、サンちゃんもいたんだ!久しぶり~!」
この女、知恵の天使、ソフィア。
「もう!カイ!どーして昨日、帰ってこなかったの!?おばさん凄く心配してたんだよ!?」
「あ?何、お前――」
「――カイ君の裏切者ーーーーっ!!」
被害妄想、発動。
「コイツ、俺の近所に住んでんだよ」
正確には越してきた、と親指でソフィアを指す。
「・・・ホントに?」
「疑りぶけぇな。こんなペチャパイ、俺が相手にする訳ねぇだろ」
「ヒドイ!気にしてるのに!」
ソフィアは頬を膨らませて、カイリエルへ文句を言う。その様子を見ていたサンド・ワームもプクーッ、と効果音を立てる。
「待て、お前それはどこが頬だ」
身体全体がパンパンに膨らんでいました。
数日後。
「ソフィアちゃん!」
「?あ!サンちゃん!どーしたの?」
「あ、あの・・・コレッ!」
ソフィアを呼び止めたサンド・ワームは、犬の人形を差し出す。
「あ!グラシャラボラス!どーしたの?コレ?」
「あ、あの、そこのゲームセンター、もう営業してたから・・・。ソフィアちゃん前に欲しいって言ってたでしょ?」
「ありがとー!嬉しい!カイが好きなんだー!コレ!」
「・・・え?」
カイリエル、モテモテなう。
おわり
夏は食欲が無くなるから痩せるだろうと高を括っていたら、ズボンが入らなくなった。Why!?