この世界で生きるということ
「どうして……どうして兄さんがここにいるの?何でこんな最前線に?」
信じられないというような口調でそういうシオン。
確かにシオンたちからしてみれば無理もないことなのかもしれない。シオン達はこの世界においてはトッププレイヤー中のトッププレイヤーで、攻略の最前線にたっている奴らだ。もちろん、最新の攻略情報もシオン達がだしているし、モンスターの攻撃パターンも調べている。そうして自分達の命をかけてここまできたのに目の前に俺が、しかもたった一人でボスを倒したところをみたら、俺だって自分の目を疑う。
「どうしてっていわれてもな。ま、レベルあげってやつだ」
「ボスでレベルあげかよ。しかも40層の?もう少しマシなこといえよ。おおかた仲間と一緒に俺たちより先に功績をあげようとしたんだろ」
知らないやつがバカにするような口調でいってきた。だけどバカなのはこいつの方じゃないか?俺が一人なのはみればわかるだろ。
そう思い俺が黙っていると、そいつは怒鳴り始めた。
「無視かよ!いい度胸してんなぁ」
その時俺の見知った顔が静止をかけた。
「やめろ!こんなところで争うな」
「コウセイじゃねえか。久しぶりだな」
「俺もいるぞ」
「ユウ!」
「マイカもカエデもレイもみんないる。同じギルドだからな」
「知ってるよ。この世界でお前らを知らないやつなんていないっての」
「そうかもな。で、お前はそこまで行っているんだ」
「っ!」
さすがはユウだ。俺が40層より先に行っているのに気がついている。
「45だ」
「45だと!」
「ははは。さすがのユウもそこまで行っているとは思ってなかったのか」
「ちょっと待って」
マイカが呼び止めた。
「ちょっと話を整理させてくれない。まずさっきの話からするとアキサメは私たちより先に進んでるってこと?」
「まあそうなるな」
周りからは、そんなバカなと聞こえてくるが実際にそうなんだし仕方がない。
そして次のマイカの質問が波乱を呼び起こすこととなる。
「……じゃあなんで攻略情報を出してないの?」
本人にとってはただ純粋に情報をださない理由を聞きたかっただけという質問だったのかもしれない。だがそれはこの世界において命に関わってくる問題だ。一瞬にして周りから俺への目つきが鋭くなったと思ったのは間違いじゃないだろう。
「なぜ情報を出さないのか……か」
「そうだな。なぜお前は俺たちに情報を提供しなかったのか、ききたいな」
そういってユウが鋭い目つきで聞いてきた。
周りのやつらの中には今にも俺に飛びかかってきそうなやつまでいる。
「だって情報をだしたら、面白くないだろ?」
俺がそういった瞬間、俺以外の全員がフリーズした。
「面白くないって、どういうことよ、それ」
いち早くフリーズ状態からなおったレイが聞いてきた。
「どういうことって言われてもな。そのままの意味だよ。ゲームをしている時に攻略をみるほどつまらないものなんてないだろ」
「本気でいってるの、アキサメ君」
冷たい目をしながらカエデが聞いてきた。
「本気も本気。大真面目さ」
「人の命がかかってるのよ、兄さん。それをわかっているのに情報を出さないなんて、見殺しにしているようなものよ」
冷たい口調で言われ、攻略組全員からまるで人殺しを見るような目を向けられた。ため息をつきたくなった。お前らは何もわかってないと。
「逆に聞きたいんだが、なぜ情報を出さなきゃならないんだ?」
「なぜって……そりゃ他のプレイヤーが死ぬ確率が高くなるから…」
「そう、そこだよ。情報がなければ死ぬ確率は格段に高くなる。そして俺は一人だ。新しい層に行く時にこれほど死ぬ確率が高いものはない。なんでそうまでして手にいれた新しい情報を赤の他人に、しかも無償で手渡さなきゃいけないんだ」
「赤の他人?俺たちも赤の他人だってのかよ!」
コウセイが怒鳴る。それに対して俺は冷たく答えた。
「赤の……他人だろう?」
「なっ!」
その言葉に全員が驚いていた。
「なんでそんなに簡単に切り捨てられるんだ、お前は」
振り絞るような声で言うユウ。
「お前は間違ってる」
「おいおい。だったらこの世界において何が間違いで何が正解なんだ?人を助ければ正しいのか?」
「そ、それは…」
「いいか。よく聞けよ。人は死ぬ時は死ぬ。それはどんな世界でだって変わらないことだ。」
「それでも少なくとも私はこんなところで死にたくはない」
「レイ、お前はわかってないな」
「何をわかっていないっていうの」
「ここはゲームであって現実なんだ。俺たちの新しい人生なんだ。逃げることなんてできないんさ。なら楽しめよ。よくいうだろ。人生楽しまなきゃ損ってよ」
全員が絶句する。
「アキサメ。お前はなんでそんなに簡単に割りきれるんだ」
「違うな。俺はただ傲慢なだけだ。俺は俺のしたいようにしているんだ。だからお前らもしたいようにしろよ」
「……そうだな。そうするよ」
何かを考えた後にユウが覚悟を決めた表情でそういった。
「決闘だ。その情報をかけて決闘しろ」
幼馴染であるシオン達を含め、攻略組は驚いた表情でユウを見つめていた。ユウは基本的に争いごとを好まない性格だからだ。
「ははははは。それでいいんだよ。お前はお前のしたいようにしろ。だがユウ。その決闘で俺が勝ったら何をくれるんだ?俺に見返りがないならその決闘、断るぜ」
俺は戦えれば良かったし、初めての対人戦だ。本当は断るつもりなんて微塵もなかったが、俺はユウの覚悟のほどを確かめたかった。
「お前の言うことを一つだけなんでもきこう」
「本当に何でもか?ギルドを解散しろとか誰かを殺せとかでもか?」
堪えきれなくなったのだろう。攻略組の奴らが叫び始めた。わかってない。こいつらはまだこの世界で生きるってことをわかってない。
「うるせぇ!俺は今ユウに聞いてんだ。お前らは黙ってろ」
俺が怒鳴って睨みつけると全員が静まった。
「ああ。なんでもきこう」
そうユウはいった。意外だった。もっと考えて悩むと思っていたから。俺は笑いそうになった。
「ならその決闘。俺は受けよう」
「決まりだな。決闘についての詳しい取り決めは俺たちのギルド、【聖魔騎士団】でしよう。案内するよ」
「ああ。頼む」
そんな話をして始まりの町に向かっていると、何時の間にかシオンが俺の横にきていた。
「本当に決闘を受けるんですか?」
「ああ。なんだ心配でもしてるのか?」
「心配などしていませんよ」
「そっか」
久しぶりの兄弟のような会話は少し懐かしく短いものであったが、この3年の間にできた大きく深い溝を感じるのには十分すぎる長さだった。
自分の文章力のなさがうらめしい今日この頃の一影刹那です。3話目で初あいさつというのもおかしいですが、この後もこの拙い文章で書かれたこの物語を読んでもらえたら嬉しいです。
いよいよ次回は決闘!!!ではなく説明回のようなものになるかもしれません。