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異世界はサブスクさえあればなんとかなる

作者: 春人
掲載日:2026/04/25

 空が暗くなったと言うのに、俺には帰る家が無かった。そりゃあそうだろう。たった今,とある神様によってこの世界に放り出されたばかりなのだから。


 裸一貫。それなのに俺はしっかりと地面を踏みしめて歩けていた。背筋はキリンのようにぴんと伸び、目はキラキラと輝いている。


 「うーん!!空気が美味いっ!!」

 

 眼前に素晴らしい景色を肴に、抑えきれない感動が言葉によって溢れ出す。


 俺は狂ったのだろうか。少なくとも今までの俺なら決してするような事では無かった。でも、体は言うう事を聞きそうになかった。


 それは仕方がない事なのかもしれない。元々、スキルなどという異能の力を俺は扱った事が無かった。しかし、それを使うための筋肉のような物を急に動かし始めたような雰囲気は薄々察していた。


 「アハハハハ!!!」


 何かに乗っ取られたかのように、俺は笑い続けた。


 おーい!!誰かを哀れな俺を笑っておくれ!!!


 辛うじて残っていた理性は目を通じて、キョロキョロと暴れ始める。


 幸いなことに、彼を目にしたものは居なかった。豊かな自然があっても人がいないというのは不幸中の幸いなのかもしれない。


 数時間ほど笑い続けてようやくこの狂気は治まった。


 あれを自分だと信じたくは無かったが、荒れ果てた草花を見ると否定しようがなかった。


 絶望しようとする前に、彼はあることに気づいた。いや、もう一度その事実に目を向けた。


 自分は裸であったのだ。


 俺は知恵の実を食べたアダムとイブのように酷く赤面し、適当に見繕った葉っぱで大事な部分を隠し始めた。


 葉を結ぶ際に、何をどうすれば良いのか手に取るように分かった。


 これは、俺がこの世界に送られる前に選んだスキル「サブスク永久無料プラン」のせいだろうか。


 「俺は、こうなるためにこのスキルを選んだわけじゃないというのに・・・」


 そうだ。もし、言葉が通じなくても、職が手につかなくても、食べ物にありつけなくても、サブスクがあればなんとかやっていけるかもしれない、という気休め程度に選んだものなのだ。


 今まさにこのような状況であると言えるのに、自分の見通しの甘さを認めたくないのかつい愚痴が出てくる。


 先程から、頭の中に必要な情報が浮かび上がってくるが、頭痛はしなかった。


 もしや、さっきの可笑しな状態が代償とは言わないよな…。


 常識的に考えて、無条件で力を貰えるとは思っていなかった。たかだか一人の人間が神様に解釈違いだと喚いても、力のある物には敵うはずも無かった。むしろ、この程度で良かったのかもしれない。


 急にぶり返す不安を横目に、俺は逃げるように近くからとってきた木の棒たちを使って火を起こし始めた。


 数十分も木をこすり合わせていると流石に手も痛くなってくる。頭に浮かび上がってくる映像の様には火が付きそうも無かった。


 ただ、気分は不思議と落ち着いていた。無心になれるのは良かった。


 「そうだよな。結局、知識だけ得てもやってみなくちゃ分からないものだよな」


 今度は本音が口から漏れだした。もう一人の自分がいるようにして、俺は会話を続ける。


 素面でも、これぐらい狂っていなきゃ異世界というのはやっていけないのかもしれない。


 まだ心が落ち着かないうちは、このスキルに対して一方通行の思いしか向ける事が出来ない。


 その事実に対して救いを求めるかのように木々をこすり続けていくうちに、夜はあっという間に更けていった。


 ───二日目───。


 「眠い・・・」


 結局、火を起こすのには成功したが、煙によって引き起こされた頭痛でよく眠れなかったのだ。


 「おいおい、社会人じゃねーんだ。こんなとこで寝不足なんて死ぬと言っているようなものじゃないか」


 そうなのだ。動物に襲われないように火を起こしたのはいいが、それで休息を取れなかったのなら意味がない。


 とりあえず、水源を探すことにした。水浴びでもしてさっぱりしたかった。後、スキルは水を出してくれない。与えてくれるのは、力を体に馴染ませるための代償とそれを補えるほどの情報に過ぎない。


 「なるほど。水源は谷のほうが可能性が高いな。でも、川はどうやって見つければいいんだ?」


 スマートコンタクトレンズを装着したかのように、情報が眼前に浮かび上がってくれる。正直、これには慣れが必要だった。急に自分の視界が変化すると、周りへの対処が疎かになる。結局、行動するのは自分なのだ。


 とまあ、水源を探し続けて半日ほど経ちようやく見つけることが出来た。様々な情報が頭に流れ込んできて、自分のアイデアや行動力の能率が落ちたような気がしたが、この力があるのとないのでは大違いだ。


 「あー、自動切換えなんてあったら便利なんだけどなぁ」


 試しに川の水を手ですくいながら、そんな風に呟いた。結局のところ、己の力で問題解決に取り組んでいることに変わりは無いのだが、何でもかんでも聞いてから行動するようじゃ、力を失った際に何もできなくなると俺は思ったからだ。


 ”自動切換えに設定を変更いたしました”


 俺のニーズに合わせて、きっちり変更してきた。なんと恐ろしい子・・・。


 川の水はひんやりとしていて、疲れた体に染み渡った。太陽光が水面に反射して、俺を誘惑してくる。

 

 取り合えず、これを飲み水のしたら良いということは直感で分かっていた。先程体を洗った場所から、水源のほうへ少し移動した場所で水を飲もうとした。だが、手にはどんな細菌がついているか分からない。俺は葉っぱを使って水を掬うことにした。


 どれがいいかな、と取り合えず目の前の葉っぱを手に取ろうとしたとき、頭の中でビーッと警告音が鳴り響いた。


 ”その葉は人体に有害です。取り合えず、あちらの葉を選んでください”


 流石だった。こんな関係性をこれからも構築出来ていけば良いと俺は思った。


 先程指定された葉で水を掬う。飲み水の自分の顔が反射した。前より顔付きが凛々しくなった気がした。それを嬉しく思いながら、俺は水を飲みほした。


 ─────三日目─────


 ひたすら川に沿って歩いた。これだけでも人に会える可能性が増加する。なぜなら、文明の発展に水は欠かせないからだ。この世界の文明レベルがどの程度あるのか分からないが、少なくとも今は心配する必要はない。歩けば良いだけなのだから。


 歩く、歩く、歩く。腹が減った。歩く、ある、く…。


 「お腹がへったよ~」可愛らしく弱音を吐いてみた。

 「頑張るんだ!!君はそれでも良いのか!!人に会うんだろう?」熱血漢のように己を励ます。


 シラフでこれだ。自分で自分を演じれば、イマジナリーフレンドなど必要なくなる。狂気に飲まれる前に、自分が狂気となるのだ。


 狂気が普通となってしまえば、不必要に思い悩むことも無い。


 今必要なのは、食べ物を見つけることだ。だが、このスキルは現実世界の情報をそのまま持ってくることしか出来ないはずだ。例えば、物を構成しているのは原子である、みたいなことだ。この世界の植物を構成している物を理解出来た所で、この植物が毒を有しているかなどは、実際に食べてみなければ分からないはずなのに。あれ、何で…?昨日はそんなこと…。


 「また同じ事を考えているようだな」俯瞰した自分が言葉を出してきた。


 「どうせなら食べてみれば良いだろう。人は死ぬときは死ぬ。そもそもオマエは、苦しみを和らげるためにこのスキルを選んだのだろう?」


 そうだった。例え別世界に行ったとしても死ぬときは死ぬ。俺は、現実世界の様に働いて、金なんて貰えなくても、サブスクがあれば生きていけるって思ったんだ。二日前に思い出したことを、もう一度心に刻んだ。


 「一口食べて、最期に見たい物を見れば良いだろう。どうなるかはあの女しか知らないのだから」俯瞰した視点の俺は、自分事とは思えない発言を平気でしてくる。


 神様か。確かにこのスキルはデメリットが大きすぎる。もしかしたら、このスキルの性能を確かめるために様子見として…、なーんてな。


 「所詮、俺が出来るのは選んだ道を正解にすることだけだ。そこで死のうが死ぬまいが、後悔はねぇよ」どれが本音か分からなくってきた。それでも、行動を止める気はなかった。


 さあ、最期の足掻きといったところで、2~3メートル離れた辺りに植物を見つけた。葉は言わずもがな、元気に実っている果実もいかにも毒々しい見た目している。躊躇わずに、むしり取っと。


 「ほんと、都合の良い終わり方だよなぁ」


 くしゃっ。リンゴのような見た目の果実は、果汁を一滴もこぼすなと圧をかけてくる。


 「はいはい。全部飲みますよーっと」


 見た目によらず、美味かった。空腹は最高のスパイスとは言うが、どうにもそれ以上のものを感じる。


 よっこらせ、と木の下に寄りかかる。そういえば、空は晴れていた。


 「今日はサブスク日和だな」


 外に出てきて言うことか。ツッコミは口から出なかった。


 此方が何かを言わなくても、スキルは勝手に反応した。


 脳波とリンクしているのだろうか。網膜に直接映像が投影される感じがする。前までのコンタクトの感じでは無い。


 「あれ…。この映画って」


 前売り券を買ってまで楽しみにしていた映画だ。


 「ハハハ。ハハハハハハハハハ…」


 結局、スキルがどういう物なのかも分からない。昨日、スキルが俺に対して見せた毒物に対する反応は、地球と関わりが無いと出来ないはずだ。それとも何かの奇跡だったのか。


 薄れゆく意識の中では、それらはもうどうでも良かった。


 俺は幸せ者だ。例え誰かの手に踊らされようと、俺は俺の幸せを掴んでやった。


 俯瞰した自分はもういない。一つの感情だけが自分自身を覆っていくのを俺は最期に感じた。


 そう言って、一人の男の人生は終わりを告げた。


 それで、終わった。また、誰かが異世界に呼ばれるのかもしれない。


 そうして、連れてこられた人は過酷な状況においてこう言うのだ。


 「俺は、私は、幸せ者だ」と。


 



 



 


 


 

 

 

人生初の短編小説でした。

書いてみた感想としては、物語の畳み方が難しいということです。この作品においては、アイデア一本勝負で書いているみたいなところもあるので、なおさら自分の至らなさに目がつきました。

ですが、このアイデアのアプローチの仕方は悪くは無かったのでは無いか!?と言う密かな自信も混じっているのが、本音です。

 ポイント評価や感想、お待ちしております。

 

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