第9話 ソアレ<1>
主人公以外の視点のみ三人称になりますご容赦ください。
これはソアレがトリノと出会う直前の話。
――無能。
――役立たず。
――出来損ない。
ソアレは《まほうしょうじょ》の中でも《まほう》を使えぬ《まほうしょうじょ》だった。いや、使い方は――
《首輪》の色は最底辺である灰色だった。
最低ランクから浮上することなく、負け続ければ《まほうしょうじょ》を引退することとなる。弱い者は要らないというこの世界の方針だそうだ。
《まほうしょうじょ》は《荒使》の王を倒すべく存在している。
そして最強の《まほうしょうじょ》を決め、樹海の果てにいる王を倒すために日々戦い続けている。
だが、ソアレは最弱――このままあと一度も勝つことなく、負ければいつかソアレは《まほうしょうじょ》を引退せざるを得ない。
弱い《まほうしょうじょ》は戦うことすら許されない。
だから無謀にもソアレは森へ向かった。
誰もがソアレを見下している。
《荒使》の一体や二体、勝てなくてどうする。
見返してやる――だからソアレは勇気を出して、森へと進み――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そしてソアレは運命と出会った。
《荒使》が生まれると言われる繭から現われた長い黒髪の少女。
何も思い出せないと記憶を失くしているようで――トリノという名前だけが唯一残っている記憶。
そして現われる《荒使》ラグリガン。
ソアレは(わたしがこの子を守らないと)と《まほうしょうじょ》として無能で、役立たずで、出来損ないだとしてもそれが戦わない理由にはならない。
だけど、やっぱり勝てなかった。
呆気なくソアレは《荒使》ラグリガンに負けてしまい、敗者であるソアレを貶めるように身体を上下に揺らしていたのだが――
それがトリノの感情を爆発させていた。
地に伏せるソアレを庇うように《荒使》に立ち向かっている。
(わたしよりずっと小さくて、記憶もなくて不安なのに……)
トリノは拳をギュっと握って、
「殺す」
その冷たい刃のような視線と、熱を帯びた殺意の言葉。
ソアレの身体の半分しかない幼い容姿だというのに、怪物に恐れることなく構えるその姿に、ソアレは衝撃を受けていた。
そして虹色に光り、その光の中から白いコートと赤い手甲と脚甲を着飾ったトリノが現れたとき――ソアレはただただ驚愕していた。
(か、かっこいい……)
ソアレは頭を鈍器で殴られたようなショックを受けてしまった。そしてそのまま自分よりずっと小さな女の子にあこがれを抱いてしまうほどに。
だって――
まるでダンスを踊るかのように《荒使》の攻撃を回避し、そのまま流れるように殴り、蹴り、そのまま虹色の光の弾を撃ち出し圧倒していた。
それはまさに《魔法》のようだった。
「すごい……すごい、すごい……」
怪物を前に傷つくことなく、今まで見たことの無い乱打からの《魔導技》を前にしたソアレは夢でも見ているのかと錯覚した。
《魔導技》を使える《まほうしょうじょ》はいくらでみる。だけど、打撃からまるで行動を瞬間で飛ばしていきなり《魔導技》を撃ちこむ技術は初めてだった。
《魔導技》を撃つには何かしらの準備や詠唱が必要とされる。
そんな《まほうしょじょ》の切札を――いともたやすく無詠唱に技の名を叫ぶだけで撃ち出していた。
虹色の光の弾を投擲し、直撃した《荒使》ラグリガンは吹き飛んでいた。
(なりたい、わたしも……トリノちゃんみたいになりたい――)
そのままトリノの圧倒的な勝利を前にしたソアレは、やがてトリノに対して羨望の眼差しを向けていた。
いつか、トリノのように自分も戦えるようになりたい。
ソアレの憧れが、折れかけていた心を繋ぎ止めていたのだ。




