第6話 汝、屈伸煽りを×せよ<2>
「ええ……? 魔導技!!?」
俺の手から撃ち出された光の弾で吹き飛んだ《荒使》ラグリガンの様子を見て、ソアレは興奮したように叫んでいた。
この世界では《必殺技》のことそう言うんか?
格闘ゲームにおけるキャラクターは誰もが決まった専用に技がある。それが《必殺技》だ――レバーを決まった方向へ動かしながらボタンを押すことで発動する。
だがどうやらこの世界ではそれを魔導技と呼んでいるようだ、
「し、しかも……無詠唱で魔導技を!? そんなの初めて見たっ!!?」
どうも興奮冷めやらぬ様子のソアラだが、おれからすれば常識を利用しているだけにすぎない。
それは通常攻撃から必殺技をキャンセルして出すのは挨拶ことだからだ。
いまどきの格闘ゲームは親切やから通常攻撃から必殺技を入力すれば連続して繋がって発動するように設計されている。
この世界が格闘ゲームすぎるが、その点はどうかと思ったが、やはりおれの思った通りにスムーズにモーションが繋がっていた。
「すごい……トリノちゃん、すごいよ……」
ソアレはただ尊敬のまなざしをおれに向けている。
「まるで……本物の《魔法》みたい!!!」
両目をキラキラと輝かせて、おれを見ているようだが――《魔法》て……ソアレだって自分のこと《まほうしょうじょ》と名乗っているが?
「さて……」
しかしまだ戦闘が終わっていない。
おれは怪物を見下したまま、不敵な笑みを浮かべて、
「おれはこのままタイムアップでもいいんだが?」
そのまま攻撃を続けることはせず、あえて後ろに下がり続け、棒立ちのまま立ち尽くした。
後ろに下がり続けたが、目には見えない透明の壁に背を合わせておれは不敵な笑みを浮かべる。
やはりあった――そう、画面端である。
格闘ゲームは限られたスペースの中でしか動けない。ここが広い森の中であったとしても遠くまで逃げることはできない。
よって可能な限り敵との距離を離せば、やがて見えない壁に阻まれる。行動可能領域が存在している。そしてその限界が画面端である。
体力ゲージは明らかにおれが満タンで、相手が半分近く削れている状態だ。このまま攻めて倒せばいいはずだが、おれはあえてそれをしない。
なぜなら、
「何も体力をゼロにするのが格ゲーじゃない。ましてやおまえはクソプレイで相手を煽るクソ野郎だ。おれはこのままタイムアップまでジっとさせてもらうぜ」
おれの目には、はっきりと映っている。おれと相手の体力ゲージの間に挟まれるように表示されている時計が。
格闘ゲームは体力をゼロにした方の勝利だが、時間制限が設けられている。99カウント――このカウントがゼロになるまでに体力ゲージがゼロにならなければ、その体力ゲージが多い方の勝利となる。
《荒使》ラグリガンは幾度と無くおれに攻撃を放ったがおれはそれをガードすることしかしない。
ガード不能の攻撃も、中段攻撃だろうがなんだろうがモーションが解っている以上何も恐れることはない。
(投げてすら来ない……CPUとやってる気分んだ……つまらねぇ)
おれの体力は依然変わらず、《荒使》ラグリガンの体力ゲージは半分に削れたまま。そして、いまはもうおれと相手との体力ゲージはおれの方が圧倒的に多い。
体力ゲージをあえてゼロにはしない。
おれはそんなことするつもりはない。
迷惑行為で対戦相手を不快にする者など、こうして不快な負け方をすればいい。
今度はおれが待つ番だ。
「さぁ、どうする? カウントは残り30を切ったぞ? ゼロになればおれの勝ちだが??」
画面端からしゃがんだままおれは一切動かない。そして《荒使》ラグリガンもまた動かない。しかし動かなければ盤面は決して動かない。格闘ゲームとはそういうものだ。
そして体力ゲージの残量は一ミリとて減っていないおれと、もう三分の一しかない相手――動かねば結果は変わらない。
「gaaaaaaaaaaaaaaAAAAAAaa!!!!!」
ついに耐え切れず《荒使》ラグリガンが動く。
おれは画面端でジッとしているから逃げ場はない。
だが、何一つ焦ることはなかった――
→↓↘とレバーは既に動かされていた。
そしてしっかりと強攻撃を入力することで、
「AAAAAAAAAAaaaaaaaaaaa!!!!」
巨大な蟻の顔の怪物が戦車のようにおれに向かって突進している。
しかし何をしてこようが、おれのやることはたった一つだ。
自分が使える魔導技とやらの特性を理解していないが、正直もう何が使えるのか予想はできていた。
「まぁ……236で弾が出るなら、そらそっちが出るよな」
大きな腕を振り上げて、おれに掴みかかってくる《荒使》ラグリガンに対しておれが行うのはたった一つの冴えたやり方。
「スターマイン・エッジ!!」
やっぱり技名が勝手におれの口から出るのだけは恥ずかしいんだが……格ゲーでキャラクターが技名叫ぶのはいつものことだからそこは受け入れる。
そしてコマンドが成立した瞬間、おれの身体が花火のように虹色に発光したまま上空に向かって飛んだまま蹴り上げ、《荒使》ラグリガンはおれの身体に確かにその腕を伸ばし掴もうとしていたが、それは叶うことなく空中へと吹き飛ばされる。
完全無敵――必殺技……いや、ここではもう魔導技と呼ばれるようだが、その技の中には発動と同時に全身を無敵状態にしたまま攻撃する強力な技が存在してる。
それがガードされたり空振りしたりすれば間違いなく痛い目にあう諸刃ではあるのだが、読みが通れば全て正義だ。
「おわりだ」
そのままカウントは無常にも過ぎていく。
そして――いつかカウントは0になり、タイムアップと同時におれも《荒使》もそれ以上は動けない。
(この場合どうなるんだ?)
そもそも格闘ゲームは基本的に二本先取だ。
だがソアレは一本取られただけで決着となった。
ここだけは唯一今までしてきた格闘ゲームとは違うルールだった。
(運ゲーすぎるな……10先前提やろこんなん――)
だがこの勝敗は一回の対戦で結果は出た。
おれの勝ちで、《荒使》の敗けだ。
「Ga……ga、gaa、a、aaa……」
敗北した《荒使》ラグリガンは自身の敗北を受け入れられずにそのまま頭を抱えているが放置する。
ってかバケモノのくせにちゃんとルール遵守してんのおもろいな。
そして対戦が終われば、どうやら画面端の概念も消えて、おれはそのまま更に後ろへ下がって距離を取るのだが、
「トリノちゃんっ!!」
そして後ろからガバっとソアレに抱き着かれていた。
おれの小さくなった幼女の身体に、ソアレの柔らかい胸が頭の上に乗っかって、
「な、なに? あれ……すごい、すごいよ……トリノちゃんめちゃくちゃ強いんだね。わたし、いまもドキドキしてる――どうやったの???」
目を輝かせて、おれを見つめるソアレ。
「あー、あれは……」
おれはそれを隠すことはしない。
少しでもおれの知識や経験がソアラの役に立つなら教えてあげたい。
しかし、
「まだ、ほかの《荒使》が残ってる……やっつけないと」
「あ、そ、そうだね……」
しかし《荒使》ラグリガンが負けると思っていなかった人型の三体の《荒使》は腕を組んで観戦していたくせにおれがそのまま一歩前に進むと、蜘蛛を散らすように逃げ出しやがった。
「逃げんなよ」
そのまま森の奥へと消えてしまう《荒使》だったが、まだラグリガンとかいう屈伸煽りのカスはそのまま頭を抱えたまま膝を地について動かなくなっていた。
「これ、どうする?」
「ど、どうしよう……」
おれが石のように動かない《荒使》ラグリガンを前に眉をひそめてソアレにどうすればいいか尋ねたが、ソアレは眉を八の字にして困った顔をしている。
いやソアレが対応に困ってしまわれると、おれはどうしようもないのだが……。
「待って!」
ソアレが指差すと、パキパキと音を立てて蟻のような頭にひびが入っていた。なんかそのまま身体の真ん中から真っ直ぐ亀裂が入って、
「えっぐ……」
しかしそんな二つに割れた《荒使》ラグリオンの身体の中には女の子が四肢を取り込まれたまま、ぐったりとして目を閉じて眠るように動かない姿が見えた。
おれよりは少し年齢を重ねているが、ソアレよりは幼く、髪は雪のように真っ白だった。
おれとは真逆の髪の色――いや、それよりもなんで裸なんだよ……。
「きゃーーーー!!!」
なので、視界に入った瞬間におれが叫んだ。
両目を両手で塞いで、下を向いてしまう。
「トリノちゃん? なにしてるの……??」
「い、いやね、おんなのこのはだか……」
「なに言ってるの? さっきトリノちゃんだってはだかだったし、そもそも同じ女の子なんだから見ても怒られないよ」
でもね、おれはね……身体は女の子になってしまったけど、中身はおっさんなの。
女の子の裸なんて元の世界でも見たことないのに……いや、いい歳してみたことないのかよって言われたらショック死するけど――
「これ、どうする……?」
「わたしにも……わかんないよ……」
バケモノの身体の中から裸の女の子が出てくるけど、これ思えばおれも繭の中にいたから――下手したらおれもこんな風になってたと思うとゾっとする。
しかしどうしていいかわからずソアレと顔を見合わせたまま長考するも、ソアレが困ってる時点でこの異世界に対して知らないことだらけのおれにはどうすることもできない。
「そこを動くな」
そして困り果てた、おれとソアレの前に現われたのは――
赤い髪のおれやソアレよりもだいぶお姉さんな感じの高圧的な女性が立っていた。
カッチカチの甲冑みたいな見た目。
《まほうしょうじょ》っていうより騎士って感じだ。目元も鋭くて、おれもソアレもその視線を逸らすことができなかった。
「これは、いったいどういうことだ?」
望まぬ転生だった。
しかし、この異世界がおれの好きだった格闘ゲームと同じ仕様なら、おれはなにが来てもぶっ飛ばせる……そう信じているから、何が来てもこわくはなかった。
もしこの後の続きも読んで頂けるのでしたら
下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援をお願いします。
良ければ星5つ、いま一つなら星1つ――評価してもらえると嬉しいです。
ブックマークも追加してもらえるとモチベが上がります。
それでは次回もよろしくお願いします。




