第4話 まほうしょうじょ
《まほうしょうじょ》は《まほう》を使って《荒使》と呼ばれる怪物と戦う存在らしい。
まるで最初から知っていたみたいにおれの頭の中にそんな情報が引き出される。だったらこの世界がなんなのか教えてくれ。
「わたしが相手だよ!」
戦いは始まっていた。
自分よりも倍以上ある巨大な怪物に勇敢に立ち向かうソアレ。
あんな蟻みたいな顔の黒光りのバケモノに怯えることなく剣を構えるソアレの姿を見て、おれには無理だと――尊敬した。
中身はおっさんだというのに何も出来ずに中学生ぐらいの女の子に守ってもらっていることは大変恥ずかしいことだ。とりあえず応援しておく。
(ってかソアレとバケモノの頭の上に体力ゲージっぽいの表示されてるぞ?)
お互いの頭上に緑色のバーのようなものが見えている。見たまんま体力ゲージっぽい。これがゼロになったらどうなってしまうのか……。
(ってかやばくないか……?)
両者は構えたまま攻めるタイミングを探しているのか動かない。
しかしそれよりも気になるのは《荒使》ラグリガンとかいうバケモノの後ろに人のような姿をした黒い甲冑を来た騎士のような見た目のバケモノがいる。
しかも三体もいる。 あれも《荒使》とかいうヤバいやつなのだろうか。
(にしても、あの立ち方……見覚えあるなぁ……)
三体の人型の《荒使》は背筋を伸ばして両腕を前で組んで立っている。ゲーセンでいる筐体の順番待ちとか観戦してるときのアレに似ている。
(いっせいに襲いかかればいいのに、なんで?)
その人型の《荒使》が三体まとめていっしょに襲って来られたらきっと勝ち目はないというのに一対一で戦いは行われていた。
タイマン……ギャラリー……。
(やっぱこれ見覚えあるな――)
とんでもない既視感がおれを困惑させている。
「そっちが来ないなら……わたしから!!」
そして未だ動かないソアレと《荒使》ラグリガンだったが、先に動き出したのはソアレだった。
ソアレは地の上を走っているのではなく滑らかスライドしていた。一気に《荒使》ラグリガンとの距離が縮んでいくのだが、
「――aaaaaaA!!!!」
咆哮と共に、《荒使》ラグリガンは屈んでいた。
そして、
「え……?」
《荒使》ラグリガンの肥大した腕が前方に伸ばされ、ゴムのように伸びきって二本の拳がソアレに直撃していた。ソアレは小さな悲鳴を上げてその場に転がってしまう。
(……いまので体力ゲージの半分ぐらい減ってるな)
ソアレの緑色だった体力ゲージがゴリっと半分減って黄色になっている。
だがよく見ればもう一本体力ゲージが表示されているのでまだ大丈夫そうだが、たった一つの被弾でこの減り方だとかなりシビアである。
「うう……」
被弾して転がったソアレはそのまま苦しそうな声を上げるが、すぐに態勢を立て直し再び《荒使》ラグリガンに向かって走り出そうとしたが、
「……ち、近づけない」
《荒使》ラグリガンの肥大した両腕は伸縮自在で、ソアレが動いた瞬間だけ吸い付くように伸ばされる。
驚いたソアレは剣を盾のように構えてガードするが、間に合わずにまた吹き飛ばされる。
(ん……?)
しかしいまの光景を前におれは違和感を覚える。
(ソアレはガードしてたよな?)
しっかり剣を前にして攻撃を防ごうとしていた。
ソアレは立ったままガードしていた。《荒使》ラグリガンは身体を屈めたまま両腕を伸ばして攻撃している。ならそれは下段属性だ――立ってガードしても、しゃがんだまま放たれる攻撃は防げない。
(……立ちガード?)
格闘ゲームなら確かにダメだ。それだと被弾する。
ならあのバケモノのゴムゴムパンチがしゃがんで撃ってるから――
(しゃがみガードしなかったから、被弾したってことか??)
それだど話は変わって来る。
格闘ゲームには立ちガードとしゃがみガードと二つの防御手段がある。足元をすくうような攻撃はだいたいしゃがんでガードするのが鉄板だ。
だから、もし、そうなら――
「ソアレ!! しゃがんでガードや!!!」
わからない。でも、教えてあげないと――おれは叫んでいた。
「え? ええ?? う、うん!! わかった!!!」
おれの大きな声にびっくりしたように身体を震わせたソアラだったが、言われたとおりにしゃがんで剣を盾にしている。
「nnnnnnN……」
三発目の攻撃が通らなかったことに不満そうにくぐもった息を吐く《荒使》ラグリガン。
「ふ……防げた?」
当の本人も攻撃をガードできたことが信じられなかったようだ。
(ソアレが初心者なら、ちゃんと教えてあげないと……)
仕様が格闘ゲームすぎる。だがそれならんとかなる。
教えられることなら今すぐにでも教えてあげたい。ここがどんな世界かわからない。それでもおれを助けてくれたソアレの役に立ちたい。
「……Nnnnnnn」
《荒使》ラグリガンは同じようにしゃがんだまま、しかし今度は両腕の力を溜めている――そして遅れて両腕を後方に伸ばし、再びソアレに向かって二つの腕が遅いかかる。
「え……なんで?」
おれに言われたとおりソアレはしゃがんでガードしていたはずなのに、ソアレは《荒使》ラグリガンの攻撃を防ぎきれずそのまままた地面を転がった。
(しまった……あれ、ガード不能か?)
ガードは立ちとしゃがみの二種類があるが、実は三種類目があるのだ。
それが立ちでもしゃがみでもガードができないガード不能攻撃である。文字通りガードが成立せず、その攻撃に触れてしまえば強制的にダメージとなる。
「gAaaAAAAAAAAAA!!」
倒れたままのソアレはなんとか立ち上がるが、追い打ちをかけるように《荒使》ラグリガンの攻撃が放たれている。
ソアレは再びしゃがんだままガードの体勢を取っていたのだが、
「違う! それは――」
わかりやすい振り上げられた腕を地上に向かった振り下ろす大振りの攻撃。あれはきっと中段属性だ。
これが格闘ゲームの良くないところの一つだ。ガード一つに置いても立つかしゃがむか、攻撃そのものを受けてはいけないといった違いがある。
「かはっ…………そん、な……」
ソアレは後頭部に大きな衝撃を浴び、そのまま圧し潰されていた。
そしておれの目の前に表示された無情すぎるK.O.の文字。見たことも無い世界のくせに見覚えのあることばかり映し出される。
「うう……」
ソアレはその場にうずくまり、動けない。
ソアレの首に巻かれていた灰色のチョーカーがドス黒く変色したように見えた。
「わたし……こんな、ところで……やだ、負けたく、ない……」
ドンっと地面を強く叩き付けるソアレの姿を見ておれは心が躍った。
「なんで、勝てないの――」
知っている。
怒り、苦しみ、悔しさ――敗北は心を蝕む。おれもそれは知っている。
「やっぱ……」
ソアレの姿を見て、おれはつくづくそう思った。
負けたら腹が立つ。
殺したいほどに、やり場のない怒りがわき上がる。
勝ちたい――たかがゲーム。それでも、勝ちたい。
「格ゲーやんこれ」
求めていたやりたいことをこの身で体験できる。
おれの望んだ異世界がここにある。
なら、おれは――
そのときだった。
「は?」
《荒使》ラグリガンが行ったクソ行為をおれは見逃さなかった。
上下に揺れている。
ただその場でカクカクと動いている。
《荒使》ラグリガンは倒れて動けないソアラに向かって舐め腐ったように立ちとしゃがみを繰り返し屈伸している。
知っている。
おれはその行為の意味を――
「……待てや」
だからおれはソアレの前に立ち、《荒使》ラグリガンを睨みつける。
――Here Comes A New Challenger !
そして親の顔より見た文字列がおれの目に映り込んでいた。




