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《まほうじょうじょ》は『魔法使い』~TS転生した格ゲーおじ、この異世界が『格闘ゲーム』すぎるので荒らしをガン処理する~  作者: 待雪 妥当
第1章 望まぬ転生

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 第3話 異世界の始まり

「なんでやねん!!」


 おれは幼女(おんなのこ)になっている。


 まったく知らない異世界(ところ)にいる。


 そんなおれの理解の範疇(はんちゅう)を超える非現実の連続に耐えかねて叫んでしまった。感情が昂るとこうして西の言葉(かんさいべん)が漏れてしまう。


 なのにおれの声はやけに高くて、おっさんの声とはあまりにも遠いかわいらしい声だった。おれの喉からそんな声が出ていると思うと気持ち悪い。殺してくれ。


 そして突然、発狂するおれにビクリと肩を震わせるソアレと名乗る少女。


 しかしこの子には何の罪もない。むしろ助けてくれたのが彼女なら感謝の一つもしないのは社会人(おとな)として終わってる。そもそもおれの存在は終わっているが。


「はぁ、はぁ……ふぅ……」


 トラックに()ねられて、目を醒ませば繭の中に閉じ込められてるし、溺れ死にそうになるし、ついには女の子にされてしまいこの怒りは誰にぶつけたらいいのかもわからない。


 ぺたりと座り込んだまま、大きく息を吸っては吐いて少しずつ冷静さを取り戻していく。ようやく呼吸が落ち着いてきた。


「あの……ありがとう、ございます……」


 なんとか振り絞って出たお礼の言葉をソアレに伝えた。


 素直にぺこりと頭を下げて、そう言った。


 さすがに初対面でしかも中身こそ遥かにおれの方がおっさんで年上だが、ソアレの腰元ぐらいしかないこんな小さな背丈でイキることもできない。おっさんはいい歳してコミュ障である。


 ゲーセンにいたときだって殆ど喋ってたことはない。


 だがそこは実力至上主義(つよければいい)。強ければ別に無口マンでも許された。おれは強かったので。そう、おれは強かったのでコミュ障でも許されたのだ。


 おれは地面に手をついたまま肩で息をする。まだ身体が思うように動かない。しかしさっきまでの窒息しそうな息苦しさはもうない。空気うめぇ。


「よかった……間に合って……」


 おれの様子を見て、ほっとしたようにソアレが胸に手を当てた。柔らかな笑みを浮かべるその表情につい見惚れてしまった。


 現状、全裸の状態なのでもし今の姿かたちがおっさんのままだったらただの変態で即逮捕だ。


 今だけは幼女になってしまったことに救いを感じるのだが、さっきからそれが気になって仕方がない。


「ねぇ……なんで体力ゲージが見えるの? 体力ゲージの下の小さいゲージも気になる……下に見えるのは大技を出すためのゲージかな? すっっっごっっっ……これってもしかして格ゲー??」


 しかし好奇心というものは心底恐ろしい。


 それがおれの興味を最もそそるものならなおさらだ。


 自分の変貌(へんぼう)した身体よりも、転生した場所よりも、おれの目に映っているUIユーザーインターフェースが気になって仕方がなかった。


(もしかしてこれってVR的な? おれが生きてる時代にもあった気がするがここまでエグい完成度のものはなかったよな??)


 あたりを見渡せば森のようなフィールドだった。空を覆い尽くすほど巨大な森林に囲まれたそれはもはや3Dグラフィックではなく実写である。


 おれの住んでいた世界では見たことの無い景色が広がっている。こんなクオリティで格闘ゲームができるなら最高すぎないか?


「か、かく、げー? なにそれ??」


「………………………………はい?」


 きっと目を爛々と煌めかせておれは理想の世界に転生したのだと弾む気持ちでソアレに問い掛けたのだが、言葉が通じても意味は通じないようで。


「格闘ゲームは?」


「かくとう……げーむ? ごめん、聞いたことないや……」


「あ、はい」


「で、でも……そ、その頭の上に体力ゲージが見えてるんだけど……」


「え? そ、そんなの見えないよ……」


 指差しては奇妙なことを発言するおれにソアレは頭を抱えて、キョロキョロと辺りを見渡している。


 おれにしか見えていない……どういうことだ?


 しかしどう見てもそれは格闘ゲーム特有のゲージである。


 ゼロになれば負けになる体力ゲージと、溜まった分だけ強力な技が使えるゲージ。だが見えているのはおれだけだ。


 でもおれの言葉が通じないのでどうやらこの世界は格闘ゲームではないらしい。


 間違いなく異世界だけど、やはり剣と魔法の世界であって格闘ゲームという文化そのものが存在しない世界のようだった。


 ……じゃあ、この子(ソアレ)の格好はなんなんだ――?


 こうもっとファンタジーな世界なら冒険者――みたいな? だがソアレの格好はファンシーすぎて世界観が合っていないのである。


「その……教えて欲しいんだけど、名前はある?」


 ある?――ってへんな聞き方だな。


「……えーっと」


 しかしおれは実際の名前を名乗るべきか迷った。


 思えばゲーセンですら素性を隠していた。他の人間だってそうだ。


 あそこは日常と乖離した世界だった。戦う以外どうでもいい。だからこそ名を変えて戦っていた。そのせいか、


「――と、トリノ……だ、よ?」


 おれは本名を名乗らなかった。


 ノリトという本当の名を持っていながらおれはついゲーセンでいたときのクセをここに持ち込んでしまった。


 もう一つの名前(プレイヤーネーム)はゲーセンで戦うなら必要なものだった。


 だが洒落た名前も思いつかず本名を反対から呼んだだけだ。


 しかしゲーセンこそがおれの異世界(せかい)だった。あの場所で名乗っていたもう一つのおれの名だった――だから、ここでも使うことにした。


 でも格闘ゲームの無い世界に転移した時点で、おれの転生は失敗だ。


「どうして、あんなところに……いたの?」


 あんなところ――白い繭の中だろうか。


 そんなの、おれが聞きたいぐらいだ。


 しかし上手い言い訳も浮かばないので、


「うう……」


 おれはわざと頭を抱えて、くぐもった声を出す。我ながら酷い演技である。


「なにも……おもいだせない」


 そら思い出す記憶がそもそもないからな――と、心の中でツッコミを入れながら、震えてみせる。こんな大根演技で他人を騙そうとしているなんてどうかしてる。


 しかし、チラリとソアレを見てみれば――そんなソアレは目を潤ませていた。


「もしかして記憶が……? かわいそう……」


 記憶以前にこの世界のことは何一つ知らないんですけどね。


 でも、ソアレはそんな下手くそな演技をするおれを微塵(みじん)も怪しまずに、大きく両手を広げて、


「こわくないよ……わたしは味方だから……」


 ギュっと抱き締められて、泣きそうなソアレは自分の頬をおれの頬にすりすりと触れているんですが。


 ってかたわわな胸が押し付けられて息ができないのに、柔らかくて、いい匂いがするし……前世でこんなこと――いや、やめよう。


 とにかく言葉に出来ない素晴らしい幸福感。おれここに住みたい。ずっとここにいる。ここをおれの異世界とする。


「任せて、すぐに助けを呼ぶから――」


 そしてソアレは身に着けていたボロボロのマントですっぽんぽんのおれを包む。このマントだけはやけに年期が入っている。


「だいじなもの……じゃ?」

「ううん、風邪ひいたらダメでしょ? 貸してあげる」


 めちゃくちゃ優しい。そういや元の世界でこんな優しくされたことあったっけ? なんて思い返しても一度として遭遇したことはない。


 そのソアラの優しさにおれはいまにも泣いてしまいそうだった。ギュっとソアレの肩を両手で掴んて「ありがとう」と小さくもう一度、感謝した。


 そしてソアレがおれの手を握って、立ち上がらせてくれた。


 服を着てないまま、マントだけの状態のおれ――目線を下へ向ければ、ほんとうに女の子になってしまった事実だけがおれに突き付けられている。


 はずかしい……裸マント……服……だれか、服を……。


「町に戻ろっか」


 口をすぼめて顔を赤くしているおれを見たソアレがそのままおれの手を引いて町とやらに付き添ってくれる。何から何まで世話になってばかりだ。いずれ何かお返しができれば――


「止まって!」


 だが、急にソアレの声が鋭いものへと変わった。おれはその言葉に足を縫い付けられたようにピタリと止まった。

 

 音がする。


 木と木の間から黒い影が見える。赤い光が、一つ、二つ……だめだ。数えられない。


 ソアレの握る手が強くなった。おれは何もわからずそんなソアレの手を握り返すことしか出来ない。こわい。ここが異世界なら良からぬものが現れるに決まっている。


「あ、あれは……???」


 そしておれの不安は見事に的中してしまう。


 ゆっくりと現われたのは異形の怪物だった。


 待って、マジでここ異世界やん……蟻みたいな顔をして、両腕だけが肥大化して前のめりなって立っている黒いバケモノがおれとソアレの前に現われる。


 不気味なその姿に震えるおれとは裏腹に怯えることなく立ち向かうソアレ。


「まさか……こんなところに現われるなんて……」


 しかも何か知っている様子である。


「《荒使(あらし)》はここで倒さないと」

「んんっ……? 荒らし???????」


 きっと意味が違うのかもしれない。だがおれはソアレの言葉を反芻(はんすう)していた。


「あれは《荒使》ラグリガン……」

「ラグ??? え? なにそれは……」


 なんか聞き覚えのあるワードに過敏(かびん)に反応してしまう。


 そんなおれの反応を見て、安心させようとソアレは目の前の怪物を凝視(ぎょうし)したまま、


「でも、だいじょうぶだよ」


 ソアレの手が離れる。


 そしておれを安心させるようにウィンクして、


「《()()()()()()()()》のわたしが……やっつけるから――」

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