第15話 おれが勝たせます<4>
「出来損ないの前に、テメェを潰すッ」
「まぁ……おまえと対戦できて助かるよ」
正直おれはこの対戦を望んでいた。
わからせるとか内心言ってはいたが違う。
別におれがソアレの代わりに成敗するとか、そんなことのためではない。より確実にソアレを勝たせるために――《《必要な対戦だ》》。
(ただ……この世界の対戦のルールはぶっちゃけ欠陥レベルだ)
そもそも一ラウンド先取のみで、一本先取とか終わってるやろ。いくらなんでも運ゲーすぎる。二先でもやばい思ってるのに……。
そりゃあ実際、これが命を賭けた戦いならば一度の敗北で命を失ってしまう。
ソアレ曰く痛みを受けるだけで死なないとは言っているが、もし命がかかっているなら二本目はないと考えるべきだ。
この世界は確かに格闘ゲームすぎるが、完全にルールが反映されているわけではない。これに関してはおれも慣れない。
そして噴水をバックにおれとスティルが互いを睨む。
「そもそもなんで首輪つけてねぇんだよ」
「ああ……それはたしかに……」
ってかまだおれの正体が何なのかおれ自身がわかってないし、おれは無害だと言いたいが《まほうしょうじょ》なのか《荒使》なのかは答えがでていない。
それなのにいちばん強くてえらいらしいフルカノンのパイセンは手枷もつけないし、そのままソアレに一任して放置されてるし、
(絶対ここの世界、危機管理低すぎるよねぇ~)
おれだったらそんな怪しいやつ厳重に檻の中に閉じ込めるぞ。
だがいまはお言葉に甘えて自由に行動させてもらえてることに感謝しつつ、そもそもソアレのために動いているのでこの世界に対して迷惑をかけるつもりはない。むしろ対戦させてくれ。
しかしスティルとの対戦に今は集中しよう。
「トリノちゃん……」
ソアレはギュっと両手を握り締めたまま、スティルに対峙するおれの姿を見守っている。
「なんであんなやつといっしょにいるのか謎だけど、おまえを先に潰せば、ソアレのやつも折れるだろ」
「いいからかかってこい。折るのはおれの方だ」
そう言って、人差し指をクイクイと曲げて先に動けと言わんばかりに挑発したが、
「そうかい、だったら……なら、もう逃がさねぇ」
スティルがその場から一歩も動かずに、右腕を大きく振り翳す。
対戦が起きていないときはあまりの速さに何も見えなかったが、どうも対戦が始まるとおれの五感は強化されるようで。
「なるほど、糸か……」
スティルの放った糸が、おれの顔面にめがけて飛ばされる。
おれは避けることはせずそのままガードを固める。
「あめぇ!」
しかしガードした瞬間、おれの身体は糸が絡みつきそのまま引き摺 られるようにスティルの元へと運ばれる。
「だめ、あれは……」
ソアレはそれを知っているのか、焦燥したような表情を見せているが――別に特に思うことはない。なにせ見慣れている。
「ほらよぉ!」
そして胸倉を掴まれるが、
「へい」
くっそ情けない声を出したまま、おれはスティルの掴みを外した。
(投げ抜けの仕様もちゃんとあるな……中段とか撃たれたらモーションわかんねぇから初見は諦めてくらうつもりではいたけど)
格闘ゲームには打撃と投げがあるが、相手が投げを行い成立した場合――こちらも投げを行うことでそこから脱出することができる。
「どうした?」
「どうなってやがる」
おれがあまりにも呆気なくスティルの投げを抜けたことに、仕掛けた本人も何が起こっているのかわからない様子だった。
「そらまぁ……」
ってかお前らも出来るはずでは?
いや、そもそもどの程度の知識を持ってるんだ?
銀色なんだろう? おれの世界とかならそのランク帯はだいたいの基礎は頭に入ってる状態だとは思うのだが――
(マジか……)
投げ抜けとか格闘ゲームにおける基本中の基本だろうに。
いや、昔の格闘ゲームは実装されてなかった。おれがハマってた格闘ゲームの一つも無かったから地上投げはむちゃくちゃ強かったけどさ。
「テメェ!!」
そして、再度掴んで投げようとするのだが、もちろんおれはそれをホコリを掃うように投げ抜けする。
「なんで投げが外れるんだよ」
「いや投げ一択はさすがに……」
もう投げが来ると分かってるなら別にジャンプしてそのままフルコンとか、無敵技ぶっ放してもいいんだけど、いまはあえて受け側に回る。
たぶんこれだけで勝ってたんだろう。糸をガードさせて、引き寄せるという追加攻撃で相手を投げの間合いまで引っ張る。ぶっちゃけめちゃくちゃ強い。
ガードして引き寄せられるまではおれも完全に動けなった。
しかしそこからしてくるのが投げだけなら怖くない。いや、むしろ何をやってるんだと頭を抱えるレベル。
「え? ええ??」
そして遠くから見てるソアレはおれがあまりに冷静にスティルの投げを抜けたので何が起こっているのかわからない様子だった。
「いや、そっちが有利やのになんで離れてんねん……」
読み合い的に引き寄せてるスティルの方が遥かに有利だ。おれは受け側だったからな。打撃か投げか、別に他の方法でおれのガードを崩すこともできるだろう。
しかしそれもせずにスティルは、何を警戒しているのかいちばん端まで離れていく。
「じゃあ、とりあえず試させてもらうか……」
だが勝手に仕切りなおしてくれたし、おれもそろそろ動くことにした。




