第14話 おれが勝たせます<3>
「今日いちにちわたしがトリノちゃんの面倒みるから!」
「いや、でもぉ……」
「おねがい、トリノちゃんのおかげで自信がついたの。お礼もしたいし、ね?」
修練場を終えて、なんか半分白目むいてたソアレも復活して、おれはいまソアレに手を引かれて町を歩いている。
ほんとまんま異世界転生でよく見る西洋チックな町並みで、そこにいる人たちの衣装とか食べ物とかおれの住んでる世界とは全然ちがう。
「ってか今更だけどおれってまだ何者かわかってないんだがソアレは平気なのかよ」
おれは《荒使》が生まれるはずの繭から出て来たわけだから、この世界の敵って認識されてもおかしくはない。
そんな敵かもしれない存在といっしょにいればソアレの印象も悪くなるかもしれない。
「ふふ、おかしなこと言うねトリノちゃん」
でもソアレはおれの言葉を聞いて笑って、
「こんなちっちゃくてかわいいおんなのこが敵なわけないもん」
そのままソアレはおれと向き合い、スルっとおれの身体が浮いた。
「おーい、やめろぉーい!」
両脇を持ってそのまま持ち上げられていた。そのままくるくる回されている。目が回る。しんどい。たすけて。
「すっごいかるい……こんなちっちゃくてかるくて……」
ぴたりと、止まってそのままおろしてくれた。
「ふぅ……ふぅ……」
なんか息が荒くないか?
「ソアレ、おまえ……さっきからやばいって、キャラちがうって……」
「ご、ごめんね。トリノちゃん見てると、なんだかドキドキして」
「ひぇ」
こわいぃ。
ここでおれがソアレを対戦てしまった方がよくないか?
ってか全然振り解けなかった。おれ……もしかしてよわい?
対戦のとき以外はもしかして――
「おい」
しかしそんなおれの背中から誰かの声がする。
「一日死ぬの遅らせてどんな気分だ?」
噴水の近くでスティルとその取り巻きがおれとソアレを見るなり、わかりやすい挑発を仕掛けてくるが、
「まぁ、いい気分かな。これまでのソアレだと思って舐めてかかったら死ぬのはおまえだし」
死ぬのかな?
ふとおもったことがある。対戦するのはいいけど、これ負けたらどうなるんだ?
おれもまだ《荒使》と一度対戦したっきりだが、《まほうしょうじょ》同士が戦って負けたらこいつの言ってるとおり死ぬとかだったらさすがに困るんだけど。
「だいじょうぶだよ、死にはしないから……痛いのは我慢しないとだけど」
そんな不安げなおれに気づいたのかソアレがおれの耳元で小さく囁く。
だがソアレはもう負けられない――負ければ《まほうしょうじょ》としての価値は死ぬ。
「ってかなんで引退って言うんだ?」
「弱いやつは戦っても意味がないから戦うことを辞めさせるんだよ。勝ち負けあるこの世界で、勝てねぇやつは《まほうしょうじょ》を辞める。それだけだ」
俺らの世界でもゲーム一つにしてもその言葉使いがちだけど、次の日には帰って来るけどな。でも、この異世界ではどうも違う。
「《まほうしょうじょ》を引退するとどうなる」
「どうもしねぇさ。ただ、ここでは二度と対戦はできないだけだ」
「……なんてこったい、最悪や」
そんなもん死ぬのと同じじゃねぇか。
「まぁ、結果は明日でわかる。テメェがそこの出来損ないに何を吹き込もうが未来は同じだってことを教えてやるよ」
それにしてもこの噴水……大きくて立派な見た目だが、こういうの見ると対戦するときのステージの背景に見えてしまうんだよな。
なんて、いまのおれは完全にスティルの挑発をスルーしていた。
しかしそれが気に入らなかったのか。
「おい、無視してんじゃねぇ」
シュッと、おれの前を何かが通り過ぎた。前髪の毛先だけがすっと揺れ動いていたが、
「へぇ……まぁ、お互いの対戦の意志が合わねぇと《まほうしょうじょ》同士は攻撃が当たらねぇようになってるからな。わかっててわざと動かなかったな?」
なんか勝手にスティルは納得しているが、当の本人であるおれは何が起こったのかわからないので……、
「お、おお……そりゃ、そうやろ。知ってたし。ぜんぜんこわないし」
とりあえず威勢だけは良くしておいた。
内心はというと、
(あっっっっっっっぶねぇえええええええ……なんも見えんかったぞ……なんか通り過ぎたのだけはわかったけどさぁ――)
格ゲー以外は凡人以下のおれは、幼女の身体になったところで動体視力とか運動能力はそのままのようで――対戦そのものが起きないと、マジでただの幼女のようである。
そりゃソアレに掴まれても剥がすことは出来ずにそのままくるくる振り回されるわけだ……。
「おい、チビ」
誰がチビやねん。そろそろパンパンにするぞ。
「明日と言わずに今日やろうぜ。そこの出来損ないじゃなくて、やっぱアタシはおまえもぶっ潰したいわ」
「いや、べつにいいけど……でもなぁ……」
チラリとソアレを見る。
おれの中ではスティルはソアレに勝ってもらいたい。でも、うずうずしてるのも確か。何せまだおれは一度しか対戦していない。しかも《まほうしょうじょ》と戦えるとなると我慢ならない。
「ソアレ……あのぉ……」
「ううん、わたしトリノちゃん見て勉強するね」
ソアレの了承も得て、おれはスティルの前に立つ。
「お祈りはすんだかよ?」
「あ? おまえが昇天すんのか??」
おれの煽りにスティルは青筋を立てる。
対戦さえ成立すれば、おれも戦える――さんざんソアレをバカにし続けたのもある。ここでわからせてやっても……。
いや、ソアレを勝たせるために――少し、見てやるか。




