第13話 おれが勝たせます<2>
ソアレは申し訳なさそうにおれを見ている。
「使い方がわからないってことは、出すことはできるんだな?」
「う、うん……」
「じゃあ見せてくれ」
だがこれまですんなり動いてくれたソアレだったが首を左右に振って、
「きっと見たらトリノちゃんも……わたしのこと、見てられないとおもう」
幻滅される――と、そのまま動こうとしない。
不安げに、かすかに身体を震わせてソアレの表情に影が見えた。
「勝ちたいんだよな」
だが、おれはそんな話を聞きたいわけじゃない。
「おれはソアレのことバカにしたりしない。いっしょに考えよう」
悩みがあるなら、いっしょに答えを見つければいい。
「トリノちゃん……」
おれの言葉にソアレは顔を上げる。
「ってか早く見せてくれ。めっちゃわくわくしてる」
本音はこっち。どんな性能か楽しみでならない。
「トリノちゃんみたいに虹色の光ったりもしないの……でも……」
おれの言葉に少しの勇気がわき上がったのか、ソアレは人形に向かって手を伸ばした。
ただ手を、伸ばしただけだ。
手を伸ばしただけで、何も起きなかった。
「いまのが、そうか?」
「……………………うん」
腕を伸ばしただけで、何も起こらなかった。
「ごめんね、やっぱりわたし……」
いまにも泣きそうなソアレだが、
「だいたいわかった」
もう答えは出ている。だからおれはそのまま人形に近づいて、
「攻撃はガードできるのはわかってるよな」
ソアレはコクリと首を縦に振り、
「んで、投げがある」
通常の攻撃は剣や拳で直接触れるのがそう。
それは立ちとしゃがみでそれぞれガードが可能だ。ならガードを固めればすべて対処できるというのはまた違う。
おれは人形の両肩を掴んで、そのままおもっきり巴投げをする。
「しかし投げはガードできない。ガードを固めてるやつには投げるのが有効なんだが――」
そこまではソアレも理解できているようなのでコクコクと首を何度も縦に振ってくれているのでそのまま続けることにする。
「ソアレの《魔導技》だが……人形はガードしていた。たぶんそれは打撃投げだ」
「だげき、なげ?」
初めて聞く言葉のようでソアレの頭にはクエスチョンマークが浮かび上がって見えた。しかしこれはもう口で説明するより、見た方が早い。
「この人形って攻撃をガードする設定になってるんだよな?」
「そ、そうだね……」
「ガードしない設定に変えてくれるか?」
おれにはそのやり方がわからないので。ってかスタートボタンとかないんかこれ。
「え? う、うん……」
そして言われたとおりにソアレは人形の前で手を広げて、念じている。念じてできるのか……おれもできるかな?
「で、できたよ?」
「じゃあもっかい」
そしておれはソアレにもう一度さっきの技を出すように言う。ソアレはおずおずと人形に近づいて、そして――
「え、えい……っ!」
おれが《魔導技》を出した時はくっそ恥ずかしい技名をぶっぱさせやがったのに、ソアレはめちゃくちゃかわいらしい掛け声と共に、人形の首を掴んでそのまま地面に叩き潰していた。
人形がへの字になって動かないし、地面がえぐれている。ソアレも何が起こったのかわからず口をパクパクさせている。
「え、あれ? なんでぇ……??」
「打撃投げってのはガードできる投げだ」
ソアレの《魔導技》は確かに他の《まほうしょうじょ》たちと違って地味かもしれない。
周りを見ていて思ったが、《魔導技》はわかりやすい飛び道具とか派手なエフェクトが出たまま武器を振るとか視覚的にもわかりやすいものがほとんどだ。
ソアレはただ腕を伸ばすだけ。しかも打撃投げってのは通常の投げと違ってガードができる。そりゃあ仕様がわからなければ全ての《まほうしょうじょ》の中で地味に見えるし、弱くも見える。
「でもそれじゃあ普通の投げより弱いよね……?」
投げはガードできない。しかし打撃投げはガードができる。
文字に起こすと確かに弱く思えてしまうのは当然だろう。
「いやぁ、ちゃんと意味はある」
だが、違う。
「暴れを潰したり、コンボの締めに使える」
「え、え? ん??」
おれの言葉にソアレは困惑しているが、確かに説明が足りないので続けて話す。
「人形がソアレの攻撃をガードした後に反撃する設定に変えてくれ」
ソアレは再び手を広げて念じ、設定を変える。
「ソアレ、さっきの拳で殴ったあとにちょっと遅らせ気味にその打撃投げを使ってみろ」
そしてソアレはボディーブロウを人形にぶつけるが、人形はしっかりガードしている。そしてそのまま人形が手を広げ、反撃しようとしたとき――
「えいっ!」
ソアレの打撃投げが反撃しようとした人形を吸い込むように首を掴んで、またそのまま地面にめり込むように放り投げた。
「す、すごい……こんなことができるの?」
「ソアレ、おまえは弱くなんかない。どうして使わなかったんだ?」
森で《荒使》と戦ってた時も使わなかった。十分に戦える技だ。だからこの技を使わない時点で自分に足かせをつけて戦っているのと同じである。
「使えないと思って……その……自分から、使わないようにしてたよ」
そのままソアレの話を聞けば、自分の《魔導技》が他の《まほうしょうじょ》と違ってあまりに地味で、そしてそれを見た他の《まほうしょうじょ》たちにも笑われ、そのせいで自分に自信を持てなくなっていたせいだ。
スティルとかいうあのいけ好かない《まほうしょうじょ》には特に酷いことを言われていたせいで使うことができずにいた。
「他の《魔導技》は……どうなんだ?」
技が一つしかないわけがない。他の技も早く見たい。
「トリノちゃん、他のも……見てもらっていい?」
しかしおれのアドバイスでソアレは考え方を変えたのか、自らそう言ってくれたので、
「ソアレ、おまえは弱くない。だから、だいじょうぶだ。ぜんぶ教えてやる。おれは絶対に答えを教えてやるから」
「トリノちゃん……ううっ……」
するとソアレは突然、涙を浮かべる。女の子が目の前でいきなり泣き出すとか、そんなもんどう対処すればええんや。
「な、なになに? なんなのなんなの??」
どうしていいかわからずおれはあたふたとソアレの前で飛んだり跳ねたりしていた。頭おかしなるで。
「ち、ちがうの……その、トリノちゃんがやさしすぎて……」
「……ああ」
そこでおれは冷静になった。優しくなんかない。
おれは元の世界で、誰かに教えたり寄り添ったりなんてしなかった。自分が楽しければそれでよかった人間だ。
一度、死んで生まれ変わって、考え方が変わったなんて心を入れ替えましたってかっこつけてるわけじゃない。
ただ目の前で、真剣に勝とうと取り組んでる女の子に少しでも力になれたらいいなってだけだ。
「見返したいんだろ。ほら、泣き止んで……他の技も見せてみろ」
「う、うん! ありがとう、トリノちゃん」
そんな満面の笑みで言われたら、おれもちょっとは誰かの役に立ててると思えてなんだか嬉しかった。
そしてそのままソアレの全ての《魔導技》を確認した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
どれだけ時間が経ったか――十分にソアレの《魔導技》の性能を把握し、必要な情報をすべて教えてやった。これはスティルとの対戦まで秘密だ。
「ふぅ……」
ソアレは肩で息をしながら、しかしその表情は輝いてみえた。
光明が見えたのか、今までずっと不安そうに、自信のなかったソアレはもうどこにもいなかった。
「トリノちゃんのおかげだよ」
「いや、おれはなにもしてないさ」
これはきっとおれでなくても解決できた話だ。
おれじゃなくても、ソアレに教えてあげるだけで――
(衰退するよなぁ……そりゃぁ……)
今はなんとか熱気を取り戻した格闘ゲーム文化も、実は衰退し、滅亡する一歩手前まで落ちていた。
理由はただ一つ。新規や初心者に対してあまりにも優しくなかったからだ。
わからないことは教えてあげればいい。勝てないなら寄り添って助けてあげればいい。それを、おれも含めて経験者たちは自分のためにしか時間を使わなかった。
強ければいい。勝てばそれでいい――負けるヤツのことなんて……と、寄り添うことをしなかった。
なんで弱いやつのために時間を割く必要がある。こっちはわざわざ対戦してやってるんだぞ……みたいな、何様なんだよテメェは。
でも、おれもその考えだった。
だけど、
「でも、ね? その、ありがとう――トリノちゃん……わたし、その、トリノちゃんに会えてよかった」
おれはこの世界に来なければ、きっとそんな考えには至らなかっただろう。
他人に教えるなんて、きっと……だからおれこそソアレには感謝しなければならない。ソアレが何も知らず、わからぬまま、負け続けても――それでも諦めず、前を向いて、立ち向かうその姿に感化されたのだから。
「他はしらねぇけど……おれは味方だから」
だからこれは嘘じゃない。
ソアレがもし明日、負けてしまって全てを失ったときはおれもいっしょに失ってしまえばいい。どうせ死んだ命だ。ここで死んでも別にいいさ。元いた世界では誰かの役に立ったこともなかった。
それなら、ここでソアレのために役立ててやろう。
「きゅう……」
なんだそのへんな声は。
そしてそのままペタンとソアレは座り込んでしまう。
「お~い、ソアレさんや? なにしとるんじゃ……お~い」
目の前で手を振って見せるが、なんか両頬を両手で押さえたまま動かない。
「じゃあ、えーっと、おれも自分の《魔導技》でも調べさせてもらうかぁ」
とりあえず元に戻るまで、おれは自分の使える技の性能を調べさせてもらうことにした。




