第11話 おれができること
おれはフルカノンのパイセンに引率してもらって修練場に来た。
最初こそ興味本位で行きたかったのだが、それよりもソアレのことが気になった。
いかにもガラの悪そうな《まほうしょじょ》とその取り巻きみたいなのに絡まれているソアレが見えて、下を向いて小さくなっていたと思っていたら、
「対戦してやる」
いきなりバッチバチで燃え始めてそんなことを言うもんだから、なんかおれが逆にテンション上がってた。
いい。すごくいいよね。やっぱソアレの意識の高さはおれを奮い立たせる。
きっと気に入らないことを言われたのだろう。それに我慢できなくて「戦え」って言ってしまう短気さに、おれは同類を見つけた喜びを抱いていた。
だからついつい、今にも爆発しそうな二人の間に割って入ってしまった。
これが百合 (ちがいますごめんなさい)の間に入るおっさんならば間違いなくおれは今すぐこの場で死刑だろう。しかしいまは幼女だから許しておくれ。
「ちょっとおれも混ぜてくれよ」
「ああん? なんだこのチビ……」
ガラの悪い《まほうしょうじょ》……ソアレがスティルと言ってたか――まぁ、幼女と化したおれは確かにチビだ。しかし中身は《おじ》なので、どれだけ睨まれようがちっともこわくない。
「なぁ、パイセン……おれの対戦相手を用意するのは後にしてもらっていいか?」
「どうするつもりだ? それだと信頼を勝ち取ることはできないが?」
「いやぁ、賭けをしようぜ」
それもとびきりおもしろい賭けだ。
「ソアレが、そこの銀色に負けたらおれもそのまま焼くなり煮るなり好きにしてくれってことだ。おれの正体は《荒使》ってことでいい――」
おれができなかったこと。
元いた世界でやろうとすらしなかった。
だから、いまわかる。
ただ強いだけじゃ意味がない。対戦は、相手がいて初めて成立する。
「だから時間をくれ。一日でいい。ソアレ……おれが、教えてやる」
おれがこの異世界で、できることを。
おれができること、を。
(ソアレには、勝つ喜びを……楽しいって気持ちを教えてやりたい)
勝ち負けのあるゲームで、負けてばかりじゃおもしろくないだろう。
「おいおい、なに勝手なことを……ってか、マジで誰だよテメェは」
そらスティルからすれば正体不明の幼女がいきなりワケのわからないことを言っているから困惑して当然だが、逆にパイセンは腕を組んだまま、
「言葉に二言はないな?」
「ああ、ソアレが勝ったら……いや、ちがうな。対戦相手は用意してくれ。やっぱおれも戦いたい」
ぶっちゃけおれも戦いたい。
だけど今はおれよりもソアレに恩を返したいのもある。だから今だけはおれのことよりもソアレに注力したい。
「ってか、おれはパイセンと戦いたいな。どうだ?」
その発言に周囲の《まほうしょうじょ》は戦慄していた。何と恐れ多いことを言っているのだと、気は確かかと――しかしなかなかどうして、おれはいたって正常だ。
いや、格ゲーしてるやつなんてみんなその考えだ。強いヤツが目の前にいて、対戦できる環境がある。なら戦う以外の選択肢があるか?
「おい、チビ……フルカノンさんはよぉ、金色の《まほうしょうじょ》だ。おまえなんかが勝てるわけないだろ」
だがおれはそんなスティルの言葉を無視したまま、
「それで、パイセン……どうするよ?」
「正面から堂々と挑戦する者を無下にできるか。もちろん戦おう……しかしソアレが敗北すれば、対戦はするが――わかっているな?」
それさえ聞ければ安心だ。
パイセンは了承してくれたと、思っていい。
「ま、待てよ! なに勝手に話を――――」
しかし言葉の途中を遮るようにパイセンがスティルに向かって、
「ソアレのランクは最低の黒色だ。しかもあと一敗で引退。銀色のお前とは明らかな実力差がある……一日ぐらい猶予を与えてやってもいいだろう?」
そもそも一日で何も変わらないときっと周りは思っているだろう。
しかし、それでも何も知らずに戦っているソアレをそのままにはしておけなかった。
「引退までのカウントダウンってことにしといてやるよ。おい……いくぞテメぇら」
なんかもうほんとわかりやすいムーブで、そのままスティルと取り巻きは遠くへ行ってしまう。
「トリノ、お前の命運もこの一日に掛かっていることを忘れるなよ」
「わかってるって。ってか、むしろ寛大な配慮に痛み入るわ」
「言っただろう?」
そう言って、パイセンはソアレを見て、
「挑むことから逃げぬ者を……私は無下にしないと」
そしてマントを翻し、パイセンは去っていく。
いや、おれって一応正体不明のやばい存在扱いなのにいいのかこれ?
「ソアレ、今日だけはお前が面倒を見ろ」
背を向けたままパイセンはそう言って、ソアレは無言で頭をペコリと下げていた。
「絶対いいヒトだよな?」
「うん、フルカノン様は……強くて、こわいけど、みんなの上に立つ《まほうしょうじょ》の中でいちばんかっこいいヒトだよ」
「わかる。ありゃ人気もありそうだわ」
なんかこうカリスマ的な、すでにおれがファンになってるわ。だから親しみこめてパイセンって呼んじゃうぐらいだし。
そしてそのまま無言。
「と、ところで……トリノちゃん……」
しかし耐えられなくなったソアレが先に口を開いた。
「どうして、わたしのこと……かばってくれるの?」
別にそんな大層なことをした覚えはない。
「勝ちたいって気持ちが、めちゃくちゃ伝わってきたから」
ただ、それだけに尽きる。
「ううん、わたし……あたまからっぽで、後先考えずにあんなこと言っちゃって――」
そしてソアレはおれから逃れるように下を向いたまま、
「じゃあ、おまえはなんのために戦うんだ?」
「そ、それは……」
《まほうしょうじょ》は《荒使》とかいう怪物と戦っているのはわかる。だけど、おれはもうわかっている。小さく震えるソアレが、ゆっくりとおれに向き合って、
「……い」
おれは、ソアレが喋るまでジっと腕を組んだまま待っていた。
「わ、わたしのことバカにしてるあいつら……みんな、めちゃくちゃにしたい」
負けたら悔しい。負けたままが気に入らない。
だから強くなりたい――強くなって、見返してやりたい。
いや、見下してやりたい。見下しきたやつを、上から眺めてやりたい。
「勝ち負けがある世界で、負けてばっかじゃいられねぇよなぁ」
右も左もわからないまま、おれだって何もわからなかったときはカモにされていた。そんなやつらを見返したくて強くなった。
ソアレを見ていると、おれも自分のことのようにおもしろくて――あと一回負ければ終わるところまで追い詰められているのに、まだ諦めていないその姿が嬉しくて、
「勝つまで、やめない」
おれはソアレの手を取る。小さな手でソアレの手を握って、
「おしえてやる、おれが……ソアレが勝てるようにぜんぶ」
「トリノちゃんが? で、でも、わたしなんか……きっと……」
「勝ちたくないか?」
その言葉に、ソアレはおれの手を両手で握り返して、
「勝ちたい――そのためだったら、なんだってする」
「ソアレ……おまえ、おれの欲しいセリフで全部返してくるのやめろ」
おれの脳が溶けるわ。おもっきり立ち眩みをしたし。
ソアレの強い意志を前にしたおれはこの世界に来た意味を見つけた気がした。
(ん……? これ、どこかで……)
「トリノちゃん?」
トリノは身を屈めて、ソアレの両手を握り締めたまま上目遣いでおれを見ている。
おれより背が高いというのに、不安で小さくなっているようで頼れる者もいなくて、どうしていいかわからなくて、それでも現われた最初で最後の道しるべ。
(いや、ソアレ……おまえは勝てるよ)
おれは、もうそこまでのプランを立てている。
一日で、どうにかしてみせる。
(だってお前は…《まほう》をつかえる)
使い方さえわかれば、勝機がある。
それを教えてやる。
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