第1話 異世界の終わり
俺にとって異世界は転生する前からあった。
けれどそこは剣や魔法も使えない。
無双もできないしハーレムを築くこともない、残酷だけど誰にでも同じルールの世界だった。
その異世界はゲームセンターと呼ばれていた。
俺にとってゲームセンターは異世界そのもので――そこで遊ぶ格闘ゲームは俺の全てだった。
年齢も学歴も職業も何もかもそこでは問われない。
あるのは勝つか負けるか。
強さこそが全てだった。
勝った者が偉くて、負けた者が悪い。そんな酷い異世界を、俺が知っている。
そんな世界が今日、終わりを迎える。
日付が変わっているというのにまだ商店街の一角は騒がしかった。
そこには大勢の人たちが集まっている。
他の店舗は電気が消え、眠るように静まり返っているというのにたった一つの建物だけが昼のように眩しくて――
シャッターがゆっくりと降りていく。建物の中には店長や従業員たちが頭を深々と下げている。
降りていくシャッターの動きを俺はただぼんやりと眺めていた。看板の電気が消え、薄暗いネオンの下でかろうじて文字だけが見えた。
今日、学生時代からずっと通っていたゲームセンターが閉店する。
二十年近く通っていた老舗のゲーセンだった。全国大会の予選にも選ばれた店舗だった。そのときの熱気は今でも覚えている。
全国から強者が集まる。別に金が貰えるわけでも、何か自慢できるわけでもない。ただその場所は、自分の強さを証明するだけの場所だった。
それで十分だった。
対戦台には列が出来て、負けたやつが席を立ち、勝ち続ければ席を譲ることなく遊び続ける。
ただ筐体の向こう側にいる相手を殺す勢いでレバーとボタンを叩き込むように動かしている。
レバーとボタンの感触は、もう今では身体の一部のようなものだ。
いつも格ゲーのことしか考えてなかったせいで自分の操作するキャラを頭の中でレバーとボタンで操作していたことだって日常茶飯事だった。
殺伐としたあの空間が、命のやり取りでもしてるのかってぐらいの真剣さ、勝っても負けても何もない。
それでも――自分がここでいちばん強いのだと、わからせるためだけに意志と意地をぶつけ合う。
最高の居場所だった。
俺の世界はここだった。
だからそれを異世界と呼んで間違いではないだろう。
いつもギリギリの状況から、たった一つのチャンスをモノにして勝利を掴む――あの興奮は日常では得られない。
だから俺は剣も魔法もいらなかった。
ハーレムだって、無双だって、チートも、スローライフも、なにもいらない。
この場所で得られる快感だけが全てだった。
対戦というコンテンツに、俺は一生毒されている。
プロゲーマーを目指したわけでもなく、そもそもなれるわけもなく。
ただゲーセンに通って勝ったり負けたりを繰り返すだけでいい。叶うならずっと勝たせてくれ。それだけだった。
そんなことを繰り返して――仕事とゲーセンだけを見ていたら、もう四十手前まで生きてしまった。
昔はいつも立っている場所もないぐらい人が集まっていたこのゲーセンも今じゃ常連客もほとんどいなくなってしまった。
気付けばまた一人と通う者がいなくなる。
出世や結婚、いろんな理由でゲーセンに足を運ぶことはなくなって――
俺だけは……どうして、通い続けたのだろうか。
シャッターが完全に閉まり、全ての電気が消えた。
こうして俺の異世界での物語は幕を閉じた。
なら別のゲーセンを探せばいい。
しかし年々閉店の報告は絶えず、老舗のゲーセンすら閉店してしまう。
ネットで「絶対につぶれない」と言われていた有名なゲーセンすらも閉店している。もう俺の居場所はないのかもしれない。
「このまま死ねたらどんだけ楽か……」
なんて、それはいつもの口癖。
そんな夢は叶わなくていい。痛いのも怖いのも嫌だから。
そのくせ四十近くまで生きてきた。
でも何も変わらない。変えようとしない。
そんな浅い人生を送り続けている俺はいつものようにコンビニに寄って――
俺は信号を渡ろうとして――
振り向けばそこにはトラック。
クラクションの音は聞こえない。
死ぬ瞬間はスローモーションになるって本当だったんだ。しかも冷静に避けられないと受け入れている自分がいた。
ただ、一つだけ言いたい。
(こっちの信号、青やったやん)
身体が宙に回転しながら吹き飛んでいるのにまるで他人事のよう。
そして視界が暗くなる。
生まれ変わったら好きなことをずっと続けたい。
そんな願いを抱いたまま――――――俺は死んだ。
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