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『CLEAN RUNNERS(クリーン・ランナーズ) ――走って拾って、街を守れ』  作者: 幻灯(gento-aria)
【第3章:街の影】(7〜9話)
9/13

第9話 止まるという選択

朝のスタートエリアは、いつもより騒がしかった。

観客の数が多い。

カメラも、ドローンも、報道用のクルーも。

「大会後半戦」「佳境」という言葉が、あちこちで飛び交っている。

だが、CLEAN RUNNERSの三人は、準備をしながらも、どこか噛み合っていなかった。

「……ねえ」 ミナが小さく言う。 「今日も、未確認ゴミが出ると思う?」

ゴウは即答しなかった。 「出るだろうな」 「昨日までが偶然なら、もう終わってる」

ハルは、スタートラインの白線を見下ろしていた。

踏み出せば、いつも通り走れる。

拾って、ポイントを重ねて、順位を上げる。

それが“正解”だ。

ピストルの音が鳴った。

序盤は順調だった。

街路樹の下、歩道脇、橋のたもと。

軽量ゴミを次々と回収し、スコアも悪くない。

観客の声援が背中を押す。

「いいぞ、クリーンランナーズ!」 「きれいだ! 早い!」

だが、四つ目のエリアに入った瞬間――

空気が変わった。

「……あれ」

ミナが足を止めた。

路地裏の奥。

黒いシートに包まれた、不自然な塊。

表示タグは、付いていない。

未確認ゴミ。

「来たな」 ゴウが低く言った。

周囲を見回すと、

少し離れた場所で、別チームも同じものを見つけている。

一瞬の迷い。

そして、別チームは走り去った。

「ポイントにならない」 「危険かもしれない」 「運営が処理するだろう」

そう判断したのだろう。

ハルは、動けなかった。

無線が鳴る。

「CLEAN RUNNERS、対象は特別回収扱いです」 運営の声は、事務的だった。 「競技続行を推奨します」

推奨。

命令ではない。

だが、流れは明確だった。

「……行こう」 ミナが言った。 「次のエリア、まだ間に合う」

ハルは、未確認ゴミを見つめたまま、唇を噛んだ。

「これ、誰が拾うんだ」

誰かが拾わなければ、残る。

残れば、また捨てられる。

連鎖は、止まらない。

「俺たちが止まったら」 ゴウが静かに言った。 「大会が止まるかもしれない」

その言葉に、ミナが目を見開いた。

「……本気?」

「本気だ」

観客席から、ざわめきが届く。

他チームが次々と通過していく。

時間だけが、進んでいく。

ハルは、深く息を吸った。

「俺、走り始めた理由」 彼は言った。 「街を、きれいにしたかった」

それは、単純で、子どもじみた動機だった。

でも、今も変わっていない。

「競技を壊したいわけじゃない」 「でも、見ないふりはできない」

ミナが、一歩前に出た。 「じゃあ、一緒に止まろう」 「三人で」

ゴウは、うなずいた。

三人は、未確認ゴミの前に立ち、

その場にしゃがみ込んだ。

拾わない。

走らない。

ただ、そこにいる。

最初に気づいたのは、実況だった。

「……あれ?」 「CLEAN RUNNERS、動きが止まっています」

カメラが寄る。

観客の視線が集まる。

「トラブルでしょうか?」 「それとも、戦略?」

無線が鳴り続ける。 「続行してください」 「安全は確保されています」

だが、ハルは答えなかった。

代わりに、立ち上がり、

カメラの前に向いた。

「これは、競技のゴミじゃない」 彼は、はっきり言った。 「街の問題です」

会場が、静まり返る。

「このまま続けたら」 「きれいにしてる“ふり”になる」

一瞬の沈黙。

そして――拍手が、ひとつ。

誰のものか、分からない。

だが、それは確かに、始まりだった。

運営本部は、混乱していた。

中断か、続行か。

スポンサーの顔。

世論。

リスク。

だが、映像はすでに流れている。

止めることは、できなかった。

「……一時中断を宣言します」

その言葉が出た瞬間、

会場はざわめき、そして、大きな拍手に包まれた。

ハルは、ゴミの前で、深く頭を下げた。

走ることを、やめた。

でも――逃げなかった。

それが、CLEAN RUNNERSの選択だった。

競技は止まった。

だが、街は、初めて本当に、動き始めた。

そして、誰もが気づき始めていた。

この大会は、

ただのスポーツでは終われない、と。

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