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『CLEAN RUNNERS(クリーン・ランナーズ) ――走って拾って、街を守れ』  作者: 幻灯(gento-aria)
【第3章:街の影】(7〜9話)
8/13

第8話 競技は、誰のためにある

運営本部の会議室は、ガラス張りだった。

街が一望できるその場所は、本来「透明性」の象徴のはずだったが、

今はただ、居心地の悪い沈黙が漂っていた。

「未確認ゴミの件ですが――」

若いスタッフが切り出すと、

テーブルの向こう側に座るスポンサー担当が、わずかに眉をひそめた。

「公式には“調査中”で統一しているはずだ」 低く、抑えた声。

「ですが、同様の報告が複数のチームから上がっています」 「危険物の可能性も――」

「だからこそ、慎重に、だ」

慎重。

その言葉が、何を意味しているのか。

部屋にいる全員が、分かっていた。

クリーンランは、街のイベントであり、競技であり、ショーだ。

テレビ中継、配信、スポンサー。

“クリーンで楽しい”イメージは、何よりも重要だった。

「大会を止める理由にはならない」 スポンサー担当は言った。 「今週末が山場なんだ。視聴数も、寄付額も」

運営責任者は、黙ったまま資料をめくった。

ページの端に、小さく書かれた文字。

――違法投棄の可能性。

一方、現場。

CLEAN RUNNERSは、次のスタート地点で待機していた。

観客の声援は、いつも通り明るい。

「ねえ、ハル」 ミナがヘルメット越しに言う。 「運営、何も言ってこないね」

「……うん」

ハルはコースを見つめていた。

派手なバナー、カメラ、ドローン。

街は“きれいになるイベント”として、完璧に演出されている。

「本当に、知らないのかな」 ミナの声は、疑っていた。

ゴウが首を振る。 「知ってるよ。たぶん」 「でも、止められない」

止めれば、失うものが多すぎる。

信用、契約、期待。

“良いことをしている”という物語。

スタートの合図が鳴った。

走りながら、ハルは考えていた。

自分たちは、誰のために走っているのか。

街のため?

自分のため?

それとも――誰かの都合のため?

コース脇で、別チームが未確認ゴミを見つける。

一瞬、迷い。

そして、拾う。

観客は拍手した。

実況が叫ぶ。

「素晴らしい判断! クリーンラン精神ですね!」

その言葉に、ハルの胸がざらついた。

「……これでいいのか」

夜。

運営から、非公式の連絡が入った。

「危険物の可能性があるゴミは、今後“特別回収扱い”とする」 「競技ポイントには影響しないが、大会は続行する」

つまり、拾っても、拾わなくても、

大会は止まらない。

「責任は、誰が取るんですか」 ハルは、思わず聞いていた。

通信の向こうで、一瞬の沈黙。

「……それは、我々が」

その言葉が、どこまで本気なのか。

ハルには分からなかった。

通話が切れたあと、チームは静かだった。

「競技は、守られたね」 ミナが言う。 「でも、街は?」

ゴウは腕を組んだ。 「クリーンランは、もう“目的”じゃない」 「手段になってる」

何のための手段か。

誰のための競技か。

ハルは、拳を握った。

「このまま走り続けたら」 彼は言った。 「俺たちも、同じ側に立つことになる」

外では、ライトに照らされたコースが、まだ輝いている。

観客は笑い、音楽が流れ、街は“きれいになっている”。

けれどその裏で、

何か大事なものが、静かに歪み始めていた。

それでも、明日の競技は予定通り行われる。

――止まる理由は、まだ、公式には存在しなかった。

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