第6話 拾われる側の事情
その路地は、競技エリアの外れにあった。
人通りは少なく、商店街の賑わいも届かない。
それでも、ルート上から完全に外れてはいない場所。
「……また、だ」
カナエが、足を止めた。
壁際に置かれた袋。
黒く、くたびれている。
だが、競技用の認証タグはない。
未確認。
ユウタは、自然と拳を握った。
「最近、多くないか?」
「多い」
ゴウが短く答える。
「しかも、同じ地区」
三人は、無言で周囲を見渡した。
人気はない。
だが、完全に死角というわけでもない。
「……誰かが、ここを使ってる」
カナエが言った。
「“見つかる前提”で」
競技を一時中断する判断は、もう迷わなかった。
ゴウが距離を取り、
ユウタが周囲を確認し、
カナエが中身をチェックする。
袋の中は、家庭用の廃棄物だった。
壊れた小型家電。
電池。
処理に手間のかかるもの。
「違法、だけど……」
カナエは、言葉を選ぶ。
「悪意だけじゃない」
そのとき、背後で足音がした。
「……それ」
三人が振り向く。
立っていたのは、中年の男だった。
作業着姿。
顔色は、どこか疲れている。
「それ、俺のです」
沈黙。
ユウタは、思わず前に出そうになり、ゴウに止められた。
「聞かせてください」
カナエが、穏やかに言う。
男は、少し戸惑ってから口を開いた。
「店、やってたんです。ここで」
シャッターの閉まった空き店舗を指さす。
「でも、去年で畳んで」
廃棄物。
処分費用。
時間。
「全部、余裕がなくて」
言い訳のようでもあり、事実のようでもあった。
「捨てちゃ、いけないのは分かってる」
男は、視線を落とす。
「でも、どうしたらいいか分からなかった」
ユウタは、言葉を失った。
ゴミは、ゴミだ。
拾うべきものだ。
だが――
「競技の人たちが来るって、知ってた」
男は、苦笑する。
「だから……ここに置けば、誰かが」
拾われることを、期待して。
ゴウが、低く息を吐いた。
「……都合がいいな」
責める声ではなかった。
「でも」
カナエが、男を見る。
「危険です。これは」
男は、頷いた。
「分かってます」
短い沈黙のあと、男は言った。
「引き取ります。正式な手続きで」
運営ドローンを呼ぶのは、簡単だった。
袋は回収され、
路地は、再び静かになる。
競技再開のブザーが、遠くで鳴った。
ユウタは、しばらく動けなかった。
「……正しいこと、したのかな」
ぽつりと漏れる。
ゴウは、即答しなかった。
カナエが言う。
「“簡単な正解”は、ない」
タブレットを閉じる。
「だから、競技だけじゃ足りない」
ユウタは、路地を振り返った。
拾われたゴミ。
拾われるまでの事情。
「……白黒じゃ、ないな」
ゴウが、短く言う。
「街は、もっと複雑だ」
三人は、再び走り出す。
点数のために。
でも、それだけじゃなく。
拾うという行為が、
誰かの事情に触れてしまうことを、
知ってしまったから。
そして――
この街の問題は、
もう“競技の外”だけの話ではなくなっていた。




