第5話 衝突は、悪くない
次の競技エリアは、駅前だった。
人通りが多く、ゴミの量も種類も多い。
点数を稼げる場所――同時に、判断を誤れば事故にもつながる場所だ。
「人、多いな……」
ユウタが、軽く息を吐く。
前回より、明らかに観客の数が増えている。
スマホを構える人の中には、あの侍の姿を探している者もいた。
「スリー・ノイズ、来ると思う?」
ユウタの問いに、カナエは即答しなかった。
「来る」
代わりに答えたのは、ゴウだった。
「こういう場所を、あいつらは逃さない」
ブザー。
競技開始。
ユウタは、合図と同時に走り出した。
――速く。
――もっと速く。
昨日よりも、
あの侍よりも。
「ユウタ、待って」
背後から、カナエの声。
だが、足は止まらなかった。
軽量ゴミを次々と拾い、袋に放り込む。
点数表示が、リズムよく増えていく。
「いいぞ……」
胸が、高鳴る。
そのときだった。
――カァン。
あの音。
視線を向けると、駅前広場の中央。
人の輪の中心で、侍が“抜刀”していた。
歓声。
拍手。
ポイント表示が、一気に跳ね上がる。
「……っ」
ユウタは、無意識に歯を食いしばった。
「ユウタ!」
ゴウの声。
「危険区域、近い!」
足元に、割れたガラス。
気づくのが、半拍遅れた。
ユウタは、強引に方向を変え、転びそうになる。
「無茶するな!」
ゴウが追いつき、腕を掴んだ。
「離せ!」
思わず、声が荒くなる。
「今、いけるんだ!」
「いけない」
ゴウの声は、低く、しかし強かった。
「今のお前は、周りが見えてない」
ユウタは、振り払おうとして――止まった。
カナエが、二人の間に割って入る。
「一旦、停止」
短い命令。
「ユウタ、焦ってる」
「……当たり前だろ」
ユウタは、息を荒げた。
「あいつら、目立って、点取って、観客も全部持ってく」
視線の先では、
スリー・ノイズが、派手な回収を続けている。
「俺たち、このままで勝てるのか?」
沈黙。
ゴウが、静かに言った。
「勝ちたいのか?」
ユウタは、即答できなかった。
「……勝ちたい」
絞り出すように言う。
「でも、それだけじゃない」
ゴウは、ユウタの正面に立つ。
「前回、お前が止まった理由、忘れたのか」
黒い袋。
未確認廃棄物。
ポイントにならない仕事。
「お前は、走れなくなるって言った」
ゴウの声は、責めていなかった。
「今は、どうだ」
ユウタは、唇を噛んだ。
速くなりたい。
勝ちたい。
でも――
「……俺、怖いんだ」
ぽつりと、漏れる。
「このままじゃ、埋もれる気がして」
カナエが、そっと言う。
「だからこそ、役割」
ユウタを見る。
「全部を背負わなくていい」
ゴウが、頷いた。
「前に出るのは、お前だ」
「……だったら」
ゴウは、続ける。
「俺が、止める」
ユウタは、顔を上げた。
「危険も、無茶も」
ゴウは、少しだけ笑う。
「支える役は、嫌いじゃない」
ブザーまで、残り時間は少ない。
「……分かった」
ユウタは、深く息を吸った。
「信じる」
再開。
今度は、違った。
ユウタは走る。
だが、無理はしない。
危険は、ゴウが先に処理する。
ルートは、カナエが即座に修正する。
三人の動きが、噛み合い始める。
ポイントは、派手には伸びない。
だが、確実に積み上がっていく。
競技終了。
順位は――中位。
歓声は、相変わらずスリー・ノイズに集まっていた。
「……勝ってないな」
ユウタが言う。
「でも」
カナエが続ける。
「崩れてない」
ゴウは、短く頷いた。
「衝突した分、強くなった」
ユウタは、拳を握った。
派手な侍の背中を、遠くに見る。
「……次は、もっと先まで走ろう」
衝突は、悪くない。
それは、チームが前に進んだ証拠だった。




