第12話(最終話) CLEAN RUNNERS
大会が終わって、数日が経った。
商店街の朝は、以前と同じようで、少し違う。
シャッターを上げる音。
配達トラックのエンジン音。
そして――道端に、ゴミが少ない。
「……減ったな」
ハルは、立ち止まって周囲を見渡した。
「統計的にも確認できてる」 ミナが端末を見せる。 「大会後、清掃協力の申請が増えてる。個人も、店舗も」
「流行り、か」 ゴウが言う。 「悪くない」
三人は、あのスタートラインだった場所に集まっていた。
もうブザーは鳴らない。
競技は、終わった。
だが――
「ねえ」 ハルが、言葉を探しながら口を開く。 「俺たち、どうする?」
ミナは、少し考えてから答えた。 「運営から、正式に話が来てる」
「協力チーム、だろ?」 ゴウが言う。
「うん」 ミナは頷く。 「競技外の対応。 未確認ゴミの調査、街との連携。 ……要するに」
一拍置いて、言う。
「“続き”」
ハルは、思わず笑った。 「だよな」
ニュースモニターに、クリーンランの特集が流れている。
《競技を超えたムーブメント》
《街と走る、新しいスポーツ》
画面には、走る選手たちと、
ゴミを手渡す観客の姿。
そして一瞬だけ、
CLEAN RUNNERSの三人が映った。
「有名人だな」 ゴウが言う。
「困る」 ミナは即答した。 「調子に乗ると、ろくなことにならない」
「でもさ」 ハルは、空を見上げる。 「俺、楽しかった」
二人が、ハルを見る。
「勝てなかったし、 大変だったし、 正直、怖いときもあった」
それでも。
「走って、 拾って、 考えて、 街と一緒に変わっていくの――」
ハルは、胸に手を当てる。
「これ、やめたくない」
ゴウは、少しだけ目を伏せてから言った。 「俺もだ」
「数字的にも、合理的」 ミナは、微笑む。 「続ける理由しかない」
三人は、顔を見合わせる。
答えは、もう出ていた。
新しい貼り紙が、商店街の掲示板に出ている。
《次回クリーンラン 体験回 開催》
《参加自由/年齢不問》
その下に、小さく書かれた文字。
《協力:CLEAN RUNNERS》
ハルは、その名前を見て、少し照れた。
「……俺たちの名前だ」
「チーム名は変えない」 ミナが言う。 「走る人が増えても、意味は同じ」
「拾うために、走る」 ゴウが言う。
「走りながら、考える」 ハルが続ける。
三人は、並んで立った。
スタートラインは、もう一本じゃない。
街のあちこちに、無数に引かれている。
「行こうか」 ハルが言う。
「いつもの?」 ゴウが聞く。
「うん」
ミナが、小さくカウントする。
「――3」
「2」
「1」
ブザーは、鳴らない。
それでも、三人は走り出す。
拾うために。
守るために。
そして、次の誰かが走り出せるように。
CLEAN RUNNERS。
それは、チームの名前であり、
この街に残った、新しい習慣だった。
――完。




