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『CLEAN RUNNERS(クリーン・ランナーズ) ――走って拾って、街を守れ』  作者: 幻灯(gento-aria)
【第1章:スタートライン】(1〜3話)
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第1話 走れ、拾え、街は待っている

ブザーが鳴った瞬間、

街が競技場に変わった。

朝の商店街。

シャッターの隙間から漏れる光と、人々のざわめき。

その足元に散らばるのは――

ペットボトル、空き缶、破れたビニール。

制限時間、六十分。

回収エリア、半径五百メートル。

拾い、

運び、

仕分けて、

点に変える。

それが、この街で最も人気のスポーツ。

《クリーンラン》だ。

「……始まったな」

朝霧ユウタは、スタートラインで小さく息を吐いた。

心臓が、うるさいほどに鳴っている。

隣では、宮本ゴウが腕を組んだまま、静かに前を見ていた。

その体格は、この競技場ではひときわ目立つ。

後方、少し離れた位置で、

久瀬カナエがタブレットを確認している。

周囲全体を見渡す、その視線だけが、やけに落ち着いていた。

三人一組。

即席のチーム。

名前だけは、もう決めてある。

――CLEAN RUNNERS。

「ユウタ」

カナエが、視線を上げずに言った。

「最初は飛ばしすぎないで。

今日は“初陣”」

「分かってる」

口ではそう答えたが、

足は前に出たがっていた。

走りたい。

拾いたい。

結果を出したい。

ブザーが、再び鳴る。

「――行くぞ!」

ユウタは、地面を蹴った。

風を切る感覚。

視界が流れ、足元のゴミが一気に情報として飛び込んでくる。

軽量。

軽量。

中量。

判断は、速い。

拾い上げ、背中の袋に放り込み、次へ。

最初の十分で、ポイントは悪くない。

だが――

「……?」

ユウタは、路地の奥で、違和感に気づいた。

黒い袋。

無造作に置かれているが、タグがない。

競技用の認証マークが、見当たらない。

「カナエ!」

呼ぶと、すぐに返事が来た。

「見えてる。

……未確認ゴミ」

声が、少しだけ硬くなる。

ゴウが、遅れて合流した。

「触るな」

短いが、はっきりした声。

「ポイントにならない可能性がある」

ユウタは、拳を握った。

「でも、このまま放置は――」

「競技だ」

ゴウは言った。

「ルールの外だ」

カナエが、二人の間に入る。

「……一旦、離れる」

判断は、早かった。

三人は、その場を離れ、競技を続ける。

だがユウタの視線は、

何度もあの路地へ戻った。

拾われないゴミ。

誰の点にもならないもの。

ブザーが、再び鳴る。

中間結果が、街頭モニターに映し出された。

CLEAN RUNNERS――

順位は、下位。

ユウタは、唇を噛んだ。

「……俺が、迷ったからだ」

「違う」

カナエは、即座に否定した。

「今日、迷ったのは“正しい”」

ゴウが、静かに言う。

「競技の外に、問題がある」

三人の視線が、自然と同じ方向を向いた。

あの、黒い袋のあった路地。

拾えば、点にはならない。

放置すれば、街は汚れたままだ。

競技と、現実。

その境界線に、

彼らは立っていた。

そしてそのとき――

運営用のドローンが、

三人の前で静止した。

『CLEAN RUNNERSの皆さん』

無機質な声が、響く。

『未確認廃棄物について、

協力を要請します』

ユウタは、思わず笑った。

「……街が、俺たちを呼んでる」

ゴウは、肩をすくめる。

「やっかいだな」

カナエは、静かに頷いた。

「でも――

これが、スタートライン」

三人は、再び走り出す。

競技のためだけではない。

街のために。

そしてまだ名前もない問題の、

その中心へ向かって。

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