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その令嬢、元魔王につき  作者: Mel


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7.三者面談(本人不在)

 こんな茂みに潜ませておくのも、少々気が引けたのだが――。


「なんと堂々たる宣戦布告。これは両国の関係を軽んじた反逆と捉えても良いのではないでしょうか、父上」


 姿を現した一人目は、氷の王子の仮面をきっちり被り直したアイン。

 声色は冷ややかで、いつもの駄犬の面影はどこにもない。


「まだまだ手のかかる時期ではあるが……学園で扇動めいたことまでしているとあらば、子どもの戯言では済まされぬやもしれんな。なあ、そうは思わんか?」


 二人目は、アインの父であるこの国の王。

 呆れたように苦笑を漏らしながらも、その声音にはどこか愉しげな響きが混じっている。


 そして、言葉を投げかけられた三人目が――。


「……不肖の息子が、まこと申し訳ない……。昔はもう少しマトモだったのですが、その……学園生活で随分と羽目を外しているようでしてな……」


 エントリヒの父である皇国の現皇帝が、言葉を選びながら必死に取り繕っていた。

 その様は滑稽に見えなくもないが、学園の騒動が国際問題を通り越して、未曾有の戦争にまで発展しかねない状況とくれば、当然の反応であろう。


「皇国として、その意思はないと?」

「当然でありましょう。アイン殿下の婚約者殿に横恋慕した挙げ句に戦を起こそうとするなど……情けないにもほどがある」

「それだけ私の婚約者が魅力的ということなのでしょう。……ですが、鳶のように攫うつもりと聞かされては、私としても面白くはありませんね」


 珍しく氷の王子モードが冴え渡っている……。

 

 氷点下の視線を投げつけるアインに、皇帝陛下は冷や汗をダラダラと流す。周囲に控えていた両国の護衛兵たちにも緊張が走った。


「それに勇者などと語っていたが、皇国にそのような存在がいたとは初耳だな」


 国王の皮肉が炸裂する。皇帝陛下は耳まで真っ赤に染まった顔を両手で覆った。


「恥ずかしながら……ある日から人が変わったように『自分こそ勇者の生まれ変わりだ』と吹聴するようになったのです。前世がどうだと喧しいので、同年代の生徒たちに囲まれればそのうち目も覚めると思ったのですが……」

「なるほど。まぁ、私にも身に覚えがないとは言わないが……妄想と恋心を拗らせ、安易に国へ攻め込もうなどとは。皇太子としての資質すら問われるのではないかな?」

「本当に……返す言葉もございません……」


 がっくりと項垂れる皇帝陛下と、からかうように肩を叩く国王陛下。

 国際問題とは言ったものの、この二人は幼馴染でもある。互いの見解を通わせた以上、大事には発展すまい。……あの馬鹿皇太子が再び暴走しなければ。


「子育てとは大変なものだな。どうだ。せっかく来たのだから、しばらく羽根を伸ばしていくか?」

「皇太子の再選定を始めねばなりませんが……今日くらいは飲みたい気分です。お言葉に甘えましょう」

「非公式の会談と洒落込もうではないか。……アイン、後始末は任せたぞ」

「仰せのままに」


 深々と頭を下げるアインに満足げに頷き、国王陛下は私に視線をよこした。


「君がランスター家に引き取られた従者、か。当主から話は聞いていたが……皇太子を相手に堂々と渡り合うとは、なかなかに優秀ではないか。資料も確認させてもらったが、見事に要点がまとめられていたな」

「お褒めに預かり光栄にございます。ですが、此度の件はアイン殿下が心を砕かれた結果と言えましょう」

「謙虚な姿も申し分ない。……ふむ、悪くないな」


 頭を垂れていたので顔色までは窺えないが、どうやら好感触を得たらしい。これもまたランスター家の評判に繋がる。こちらとしても悪くない収穫だ。


 おっさん二人は軽く手を挙げ、護衛に囲まれて去っていく。

 残された私たちは同時に息を吐き、どちらともなく吹き出した。


「……いやぁ、流石は嫌がらせ上手のツヴァイ様だ。こんな形で丸く収めちまうなんてな」


 失礼な。私は大したことはしていない。

 皇帝陛下との会談予定日を調べ、国王陛下への根回しはアインに任せた。半信半疑の二人にはアインと共に裏庭に潜んでもらい、私はエントリヒを呼び出しただけだ。奴の行動記録をまとめ、側近を買収し、唆された連中の証言も一通り確認して資料にまとめたが――前世での魔王様の無茶ぶりを思えば、なんとも軽い任務である。


 それに少しくらいは煽るつもりでいたが、勝手にベラベラ喋りだす途方もない阿呆で手間が省けた。


「使える駒が揃っていたのだから、これが一番手っ取り早い。……ふん。何の障害も無いなどとほざいていたが、国の庇護を失った皇太子に、一体何が出来るというのだろうな」


 答えは簡単だ。何もできない。何せこの世界には魔法も特殊能力も存在しないのだ。妄想狂が騒いだところで待っているのは幽閉コースだろう。

 

「貴族社会というものに適合できず、甘く見た時点で勇者殿の負けだ。元々は異世界から召喚されたと聞いていたが……恐らく無縁な暮らしをしていたのだろう」

「あっちじゃ『勇者』の肩書きで持ち上げられてたんだろーけど、こっちじゃただの人間だもんなぁ」

「終わった前世に縋るとは愚かな話だ。皇太子であろうと、国の庇護を失えば何の価値もないというのに」


 環境に適応できないものは、いずれ淘汰される。それは人間も魔族も同じこと。かつては勇者と持ち上げられた男は、この生温かい世界で居場所を見失ったのだろう。

 

「前とは違う立場を楽しめばいいのにな。……まあ、どうでもいいけどさ。アイツが生徒を煽ってたって話だし、いなくなりゃ平和ってことだ」

「今回に限ってはそうなるだろう。現皇帝が存命のうちは奴も軽率には動けんはずだ。あとはお前が今まで通り、フィオナ様を支えて差し上げればいい」

 

 こんなことで万事解決するとは。まったく、平和な世の中万歳である。

 

 エントリヒが排除されたことで、学園における平穏はほぼ確約された。これで、私の役目もひとまずお終い――というわけだ。

 副産物として国王陛下の覚えが良くなったことで、多少は動きやすくなるかもしれない。ランスター家の領地で実績を積めば、いずれは王城に顔を出す機会も訪れるだろう。

 

 ……そうなれば、たまにはお目にかかれるかもしれない。 

 あの日、無様に命を散らし、最後までお仕えできなかったことを思えば……それで十分だ。


「さて。俺は卒業式典の手配もあるから、糞勇者の後始末は任せてもいいか?」

「そのくらいなら構わん。卒業式典の準備とやらは取り巻きを上手く使うことだ」

「取り巻き、ねぇ。お前と違って勝手知ったる仲間ってわけでもねぇし、意外と気を遣うんだぜ? ……まあいいか。――引き続きよろしく頼んだぞ、ツヴァイ」


 最後に氷の王子の顔を覗かせて、アインが私に後始末を命じる。

 私も姿勢を正し、「承りました、殿下」と深く一礼して応える。


 ――これが、この世界における、私たちの本来の距離感だった。

 

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