第四話 「頑固じいさんの心境」
消毒液の匂いが漂う病院の病室。
白い天井を見上げながら、
源三はしばらくぼんやりしていた。
点滴の管が腕に繋がれており、
心拍計の電子音が一定のリズムを刻んでいる。
「まったく……情けないもんじゃな」
小さく呟いた声に、隣からぎこちない返事が返ってきた。
「Master… awake?」
振り向くと、そこにいたのはアリスだった。
メイドロボットのくせに、
椅子にちょこんと座り、両手を膝の上に揃えている。
まるで看病をする孫娘のようだ。
「なぜお前がここに」
「Because… I called ambulance. I save Master.」
源三は眉をひそめた。
確かに畑で倒れた時、
真っ先に駆け寄ってきたのはこのポンコツだった。
英語で叫んで、救急車を呼んだのも覚えている。
「ふん……ポンコツのくせに、やるじゃないか」
「ポンコツ?」
アリスは首をかしげた。意味がわからないのだろう。
だが次の瞬間、彼女はぎこちなく笑みを作り、
胸に手を当てて言った。
「If… ポンコツ means… helping Master… then I am… ポンコツ!」
片言の日本語に、源三は思わず吹き出した。
笑いながらも、胸の奥が温かくなる。
このロボットは確かに失敗ばかりだが、
必死に自分を守ろうとした。
そのとき、病室のドアが開き、孫のさやかが飛び込んできた。
「おじいちゃん! 大丈夫!?」
「……まあ、こいつのおかげでな」
源三はちらりとアリスを見やる。
アリスは不器用な仕草で、
胸を張っているように見えた。
頑固じいさんとポンコツロボット。
二人の距離が、ほんの少しだけ縮まった瞬間だった。