第三話 「ポンコツの、初めての役目」
その日、空はよく晴れていた。
源三はいつものように畑に出て、鍬を振るっていた。
腰は痛むし、汗もすぐに流れるが、長年の習慣はやめられない。
「これくらい、まだまだわしの仕事じゃ……」
背後で聞こえるガタガタという音。
振り返ると、アリスが大きなジョウロを抱えてぎこちなく歩いてくる。
「Watering plants…」
「こら、そんな持ち方じゃこぼれる!」
案の定、彼女は途中でバランスを崩し、ズボンに水をざぶりとかけてしまった。
源三は頭を振って笑うしかなかった。
しかしその数分後――。
胸の奥に鋭い痛みが走った。源三の体ががくりと傾き、畑の土に崩れ落ちる。
「う、ぐ……」
視界が揺れ、息が詰まる。
アリスが慌てて駆け寄ってきた。
「Master! Alert! Master down!」
彼女は両腕で源三を支え、機械音声で叫んだ。
「Emergency call! Calling ambulance!」
アリスの目の奥が青く光り、通信回線が自動でつながる。
英語での状況説明に、
電話口の救急オペレーターは一瞬戸惑ったが、
すぐにシステム翻訳に切り替わり、
場所と症状が伝わった。
「Ambulance is coming, Master. Please stay awake!」
源三は息苦しさの中で、かすかに聞き取れた。
いつも意味不明にしか感じなかった英語が、
この瞬間だけは不思議と「安心」に聞こえた。
サイレンの音が遠くから近づいてくる。
源三はうっすらと目を閉じながら、アリスのぎこちない声を最後に耳にした。
「Don’t worry… I am here, Master…」