第二話 「ポンコツ、大失敗」
翌朝。
源三がまだ布団の中でうとうとしていると、
台所から奇妙な音が聞こえてきた。
「Cutting carrot… Beep beep… Warning!」
慌てて飛び起きて駆けつけると、
メイドロボット・アリスが包丁を握っていた。
だが彼女の動作はぎこちなく、
ニンジンを切るどころかまな板ごと削っている。
木屑がポロポロと落ち、鍋の中に混ざりそうだ。
「こらぁぁ! 何やっとるんじゃ!」
「Cooking breakfast for Master!」
「木まで食わせる気か!」
源三は慌てて包丁を取り上げる。
しかし次の瞬間、アリスはフライパンを手に持ち、
油を注いだ。
「Fry egg…」
ボトボトボトッ。
油はフライパンからあふれ、コンロに滴り落ちる。
シュウウと煙が立ちのぼる。
「火事になるわ! やめんか!」
「Error… Error…」
アリスは混乱したのか、
フライパンをぐるんと一回転させてしまう。
生卵と油が宙を舞い、
源三の顔にべちゃりと降りかかった。
「ぎゃあああ!わしを朝飯にする気かぁ!」
結局、朝食は炭のような卵と、
炊飯器から吹きこぼれたベチャベチャの米。
食卓を前にして、源三は呆然とした。
「……わしの畳も、台所も、めちゃくちゃじゃ」
「Sorry, Master! I will try again!」
胸に手を当てて謝るアリス。
その姿は妙に真剣で、
ロボットというより少しドジな少女に見える。
だが源三の苛立ちは収まらない。
「孫が買ってきたから黙っとるがな……
ほんに、お前みたいなポンコツ、いらんのじゃ!」
アリスの青い光の目が一瞬だけ暗くなったように見えた。
しかし彼女はすぐに姿勢を正し、
いつもの明るい声を出した。
「Understood, Master. I will… try harder.」
ぎこちない日本家屋の中に、
英語の発音がぽつんと響く。
源三は茶碗を手に取りながら、
心のどこかで「やれやれ」と呟いた。
どうやら、まだまだ騒がしい日々が続きそうだった。