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紅い瞳の少女は静かに微笑んだ

掲載日:2025/09/01

紅い瞳の少女

【あらすじ】

悪魔狩りを生業とする青年・拓海は、天使を名乗る美少女アカネと出会う。彼女との危険で甘美な共同生活が始まるが、アカネの愛情は次第に常軌を逸した形で表現されるようになる。愛撫と捕食の境界が曖昧になった時、拓海は彼女の真の正体と、自分が置かれた状況の恐ろしさを知ることになる。

【タグ】

#堕天使ヒロイン #ヤンデレ #現代ファンタジー #悪魔狩り #危険な恋愛 #カニバリズム #ダーク #異種間恋愛 #破滅的恋愛 #サイコホラー


深夜の渋谷。ネオンが織りなす光の帳の向こうで、異形たちが蠢いている。

私は瓦礫に紛れて潜む下級悪魔を、慣れ親しんだ銀のナイフで仕留めた。返り血が頬を濡らす。この仕事を始めて三年、もはや悪魔の血の匂いは日常と化していた。

「お疲れさま」

声に振り返ると、制服姿の少女が佇んでいた。年齢は十七、八といったところか。端正な顔立ちに似合わぬほど鮮烈な紅い瞳が、暗闇の中で妖しく光っている。

「悪魔が見えるのか、君は」

「ええ。私はアカネ。天使よ」少女は無垢な微笑みを浮かべた。「あなたのような人間がいるなんて、知らなかった」

天使。確かにそのような存在がいるという話は聞いたことがある。だが目の前の少女からは、聖なるものというより、どこか危険な気配を感じた。まるで美しい毒花のような。

「俺は拓海。別に正義感でやってるわけじゃない。ただの仕事だ」

「素敵。私も一緒に戦いたい」

アカネは私の腕に軽やかに腕を絡めた。制服越しに感じる柔らかな体温と、花のような甘い香り。だが同時に、氷のような冷たさも感じ取った。

それが始まりだった。

アカネとの共闘は、想像以上に効率的だった。彼女の戦闘能力は異常なほど高く、光の翼を展開して空中戦をこなし、聖剣で悪魔を瞬殺する。ただ、戦闘中の彼女の表情だけが気にかかった。敵を斬る瞬間に浮かべる、あの恍惚とした笑み。天使らしからぬ、何かを貪るような目つき。

「アカネ、君は本当に天使なのか?」

ある夜、コンビニ弁当を突きながら私は尋ねた。

「疑ってるの?」アカネは箸を止めて私を見つめた。「ひどいなあ、拓海くん」

その時の彼女の表情には、一瞬だけ何か別のものが宿った。まるで獲物を値踏みするような、冷徹な眼差し。だがすぐに無垢な微笑みに戻る。

「天使は人間を愛するものだろう?」

「もちろん。私、拓海くんのこと愛してる」

アカネは私の隣に座り直し、頬に軽くキスをした。唇は甘く、吐息は熱い。だがその奥に、何か苦いものを感じた。

日が経つにつれ、アカネの行動は徐々にエスカレートしていった。

朝起きると枕元に座っている。学校では窓の外から私を見つめている。夜は一緒にベッドで眠りたがる。最初は断っていたが、彼女の寂しそうな表情に負けて、ついに同じベッドで眠ることになった。

「拓海くんの寝顔、とても美しい」

深夜に目を覚ますと、アカネが私の顔を見つめていた。紅い瞳が暗闇の中で爛々と輝いている。

「眠れないのか?」

「拓海くんを見てると眠れないの。ずっと見ていたい」彼女は私の頬に手を添えた。「この肌も、この匂いも、全部私のもの」

彼女の指先が私の首筋をなぞる。爪が軽く食い込んで、小さな傷ができた。

「あ、傷つけちゃった。ごめんね」

アカネは私の首に顔を寄せ、舌で血を舐めとった。丁寧に、愛おしそうに、まるで高級料理を味わうように。

「拓海くんの血、とても甘い」

その囁きに、私は背筋に悪寒を覚えた。

三ヶ月が過ぎた頃、決定的な出来事が起きた。

その夜、私たちは廃ビルの屋上で巨大な悪魔と対峙していた。これまでで最強の敵。私のナイフでは歯が立たない。

「アカネ、頼む!」

だが彼女は動かなかった。ただ私を見つめている。

「アカネ?」

「拓海くん、怪我しちゃうかも」彼女は楽しそうに言った。「でも大丈夫。怪我したら、私が舐めて治してあげる」

悪魔の爪が私の胸を裂いた。激痛に倒れ込む私を見て、アカネは手を叩いて喜んだ。

「きれい!拓海くんの血、夜空に映えるね」

その瞬間、全てが繋がった。

「君は...」

「そう、私は堕天使アカネル」彼女はついに仮面を脱いだ。背中から生えた翼は漆黒に染まり、瞳は血のように赤く輝いている。「昔は天使だったの。でも人間を愛しすぎて、愛し方を間違えちゃった」

アカネルは片手で巨大悪魔の頭を握り潰した。まるで果物を潰すように、あっけなく。

「人間を守るために悪魔を殺していたら、いつの間にか殺すことの方が好きになっていた。そして気がついたの。人間を愛する最高の方法は、食べることだって」

彼女は私の元に歩いてきた。足音が妙に重い。

「拓海くん、怖い?」

私は首を振った。恐怖はあった。だが同時に、妙な納得感もあった。彼女の異常さは、最初から感じていたのだから。

「君が堕天使でも、俺の気持ちは変わらない」

アカネルは目を見開いた。

「本当?」

「本当だ。ただ、もうウソはつかないでくれ」

彼女は私に抱きついた。その体は氷のように冷たく、同時に炉のように熱かった。

「ありがとう、拓海くん。でも私、もう止められないかもしれない」アカネルは私の首筋に顔を埋めた。「拓海くんへの愛が、どんどん歪んでいく」

彼女の舌が私の首を這った。愛撫のような、下準備のような、曖昧な行為。

「最初は守りたかった。次に独占したくなった。そして今は...」

歯が軽く皮膚に触れる。

「食べたい」

私は彼女の頭を撫でた。

「でも我慢してるんだろう?」

「うん...でもいつまで我慢できるかな」

アカネルの牙が私の首筋に食い込んだ。痛みと快感の境界が曖昧になる。彼女は血を啜りながら、恍惚とした表情を浮かべていた。

「美味しい...」

そのまま彼女は私を押し倒した。馬乗りになって、私の首筋を舐め回す。

「ねえ、少しだけなら食べてもいい?ちょっとだけ」

彼女の瞳が異様に輝いている。理性と本能の狭間で揺れているのが分かった。

「どこを?」

「ここ」アカネルは私の鎖骨を指でなぞった。「ここの肉、柔らかそう」

私は彼女の頬に手を添えた。

「俺が死んだら、君は一人になる」

「...そうね」アカネルは寂しそうに笑った。「でも拓海くんを食べれば、私の中でずっと生きていられる」

「それは愛じゃない」

「分かってる。でも止められない」

彼女の牙が再び私の首に触れた。今度はより深く。血が滴り落ちる。

「拓海くん、私を殺して」

「何?」

「このまま一緒にいたら、いつか我慢できなくなって、拓海くんを食べちゃう」アカネルは涙を流していた。「それなら今、拓海くんの手で殺されたい」

私は彼女を抱きしめた。

「殺さない。一緒に方法を探そう」

「でも—」

「君は俺を愛してくれてる。その愛情が歪んでいても、俺は嬉しい」

アカネルは私の胸で泣いた。堕天使の涙は、なぜか人間のそれより熱かった。

半年後。

私たちの関係は、綱渡りのような均衡を保っていた。アカネルは相変わらず私を食べたがり、私は相変わらずそれを受け入れていた。

「今日も血を飲ませて」

「ああ」

私は腕を差し出し、アカネルは慎重に牙を立てる。血を啜る彼女の表情は、至福に満ちている。

「拓海くんの血だけで我慢してる私、偉いでしょ?」

「偉いよ」

私は彼女の頭を撫でた。彼女の本能を抑え込むのは、私の存在だった。私がいる限り、アカネルは完全には堕ちない。私がいなくなれば、彼女は制御を失う。

この共依存的な関係が健全でないことは理解していた。だが同時に、これが私たちなりの愛の形でもあった。

「ねえ、拓海くん」

アカネルは血で濡れた唇で微笑んだ。

「私たち、きっと一緒に地獄に堕ちるのね」

「かもしれないな」

私は彼女にキスをした。血の味がする唇は、どんな甘い果実よりも美味だった。

愛と破滅が同義語になった世界で、私たちは今日も生きている。明日、彼女が私を食い殺すかもしれないと知りながら。

それでも構わないと思えるほど、私は彼女を愛していた。

アカネルの紅い瞳に映る私の姿は、きっと美味しそうに見えているのだろう。

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