六章 4. 対決
あらすじ
能力者がひしめく名門・蒼城学園。
そこに入学した綾瀬陽太には致命的な問題があった。
——能力が、何もない。
特別な力を持たない「無能力者」である陽太は、なぜかこの学園に「記録係」として入学を許される。
役割は、天才的な能力を持つ美少女たちの戦いを観察し、記録すること。
それだけ。
誰からも期待されず、ただ見ているだけの存在。
そんな彼が記録することになったのは、学園最強と名高い二人の少女だった。
倉田美咲—— 空間を支配する「絶対領域」の使い手
若林香織—— 万物を創造する「千変万化」の能力者
圧倒的な才能を持つ彼女たちの戦いを、陽太はただ見守り、記録していく。
しかし、学園を狙う謎の組織「虚無」の脅威が迫る中、
「最弱」であるはずの陽太の観察眼が、思わぬ力を発揮し始める。
見ることしかできない。
記録することしかできない。
でも——それこそが、誰にも真似できない彼だけの「才能」だった。
作品紹介
本作は「無能力者」の主人公が、圧倒的な才能を持つ美少女たちと共に成長していく学園異能バトル作品です。
- 能力を持たない主人公ならではの視点で描かれる異能バトル
- 最初は「ただの記録係」だった主人公が、徐々に重要な存在になっていく成長物語
- 二人のヒロインとの心温まる交流と、少しずつ深まっていく絆
- 「観察」と「記録」という地味な行為が、やがて戦局を左右する鍵となる展開
- 能力がなくても、誰かの役に立てることを証明していく主人公の奮闘
「見ること」の大切さ、「記録すること」の価値。
そして何より、能力がなくても誰かの力になれるということ。
最弱の少年と最強の少女たちが織りなす、新感覚の学園異能バトルストーリーをお楽しみください。
「美咲さん、香織さん、リーダーの位置を伝えます」
陽太の声が緊張で震えた。
「座標X-23、Y-45。黒いローブ、身長約180センチ。護衛が4名」
「了解」
美咲の返答は冷静だったが、その声にも緊張が滲んでいた。
二人は慎重に接近する。陽太は双眼鏡で戦況を追い続けた。
「待って」
陽太が気づいた。リーダーの動きがおかしい。まるで、二人の接近を知っているかのような…。
「罠です!退避を!」
しかし、警告は遅かった。
リーダーが振り返り、その瞬間、地面から無数の黒い触手が噴き出した。美咲と香織は咄嗟に回避したが、完全には避けきれない。
「くっ!」
美咲の左腕に触手が巻きつく。香織も右足を捕らえられた。
「なんて反応速度…」
陽太は息を呑んだ。リーダーの動きは、まるで未来が見えているかのようだった。
「綾瀬、状況は?」
司令部からの問いかけに、陽太は必死に分析を続けた。
「リーダーの能力、おそらく予知系です。二人の動きを完全に読んでいます」
美咲が「絶対領域」を展開して触手を切断する。香織も「千変万化」で剣を作り出し、拘束から脱出した。
しかし、リーダーは既に次の攻撃態勢に入っていた。
「見えているぞ、お前たちの動き」
初めて、リーダーが口を開いた。低く、響く声。
「全て、手に取るようにな」
リーダーの両手から、紫色のエネルギーが放出される。それは空中で形を変え、無数の光弾となって二人に襲いかかった。
「絶対領域・拡張!」
美咲が防御態勢を取る。青い光の壁が光弾を防ぐが、その威力は想像以上だった。
「重い…!」
一方、香織は回避に専念した。しかし、光弾はまるで意思を持つかのように、彼女の動きを追尾する。
「予知だけじゃない」
陽太は観察を続けた。
「攻撃にも何か特殊な能力が…」
その時、陽太は気づいた。リーダーの攻撃パターンに、微かな規則性がある。
「0.3秒…いや、0.35秒」
陽太は記録を取りながら呟いた。
「リーダーの予知能力、0.35秒先まで見えている」
しかし、それだけではなかった。リーダーの攻撃は、その予知に基づいて最適化されている。相手の回避行動を先読みし、そこに攻撃を集中させているのだ。
「美咲さん、香織さん」
陽太は通信機に向かった。
「リーダーは0.35秒先が見えています。単純な攻撃では当たりません」
「わかってる!」
香織が苦しそうに答えた。彼女の左肩から血が流れている。掠った光弾の威力は、想像以上だった。
「でも、どうすれば…」
美咲も苦戦していた。防御に徹しているが、じりじりと押されている。
陽太は必死に考えた。0.35秒の予知。それをどう攻略するか。
そして、一つの可能性に気づいた。
「二人とも、聞いてください」
陽太の声が、決意に満ちた。
「同時攻撃では不十分です。時間差攻撃が必要です」
「時間差?」
「はい。0.35秒の予知なら、それ以上の時間差をつけた連続攻撃で…」
しかし、話している間にも戦況は悪化していた。
リーダーが新たな技を発動する。黒い霧が地面から立ち上り、空間を満たし始めた。
「これは…」
陽太の視界が遮られる。双眼鏡でも、霧の向こうは見えない。
「視界が…!」
「陽太くん、どうなってるの!?」
香織の悲鳴のような声が聞こえる。
「見えません。黒い霧で…」
しかし、完全に見えないわけではなかった。霧の中で、時折光が瞬く。能力の発動による光だ。
陽太は観察を続けた。光の位置、タイミング、強さ。それらから、戦況を推測する。
「美咲さんは北東に移動。香織さんは南に」
完全な視界がなくても、陽太の観察眼は機能していた。
「リーダーは中央で待機。何かを準備しています」
確かに、霧の中心部で強い光が集まっていく。
「大技が来ます!回避を!」
陽太の警告と同時に、巨大な光の柱が立ち上がった。それは螺旋を描きながら、周囲を薙ぎ払う。
「うわっ!」
「きゃあ!」
二人の悲鳴が聞こえる。直撃は避けたようだが、余波を受けたらしい。
「大丈夫ですか!?」
「なんとか…」
美咲の声が返ってくる。
「でも、このままじゃ…」