六章 2. 信頼と指揮権限
あらすじ
能力者がひしめく名門・蒼城学園。
そこに入学した綾瀬陽太には致命的な問題があった。
——能力が、何もない。
特別な力を持たない「無能力者」である陽太は、なぜかこの学園に「記録係」として入学を許される。
役割は、天才的な能力を持つ美少女たちの戦いを観察し、記録すること。
それだけ。
誰からも期待されず、ただ見ているだけの存在。
そんな彼が記録することになったのは、学園最強と名高い二人の少女だった。
倉田美咲—— 空間を支配する「絶対領域」の使い手
若林香織—— 万物を創造する「千変万化」の能力者
圧倒的な才能を持つ彼女たちの戦いを、陽太はただ見守り、記録していく。
しかし、学園を狙う謎の組織「虚無」の脅威が迫る中、
「最弱」であるはずの陽太の観察眼が、思わぬ力を発揮し始める。
見ることしかできない。
記録することしかできない。
でも——それこそが、誰にも真似できない彼だけの「才能」だった。
作品紹介
本作は「無能力者」の主人公が、圧倒的な才能を持つ美少女たちと共に成長していく学園異能バトル作品です。
- 能力を持たない主人公ならではの視点で描かれる異能バトル
- 最初は「ただの記録係」だった主人公が、徐々に重要な存在になっていく成長物語
- 二人のヒロインとの心温まる交流と、少しずつ深まっていく絆
- 「観察」と「記録」という地味な行為が、やがて戦局を左右する鍵となる展開
- 能力がなくても、誰かの役に立てることを証明していく主人公の奮闘
「見ること」の大切さ、「記録すること」の価値。
そして何より、能力がなくても誰かの力になれるということ。
最弱の少年と最強の少女たちが織りなす、新感覚の学園異能バトルストーリーをお楽しみください。
その時、会議室のドアが開いた。
「失礼する」
入ってきたのは田中教授だった。彼は険しい表情で戦況を見渡した。
「綾瀬くん」
教授は陽太に近づいた。
「君の分析を聞かせてもらえるかな」
陽太は驚いた。まさか教授が…。
「でも、僕の話なんて…」
「聞かせてほしい」
教授の目は真剣だった。
陽太は意を決して、自分の分析を説明し始めた。「虚無」の攻撃パターン、過去の記録との比較、そして導き出された結論。
教授は黙って聞いていたが、次第に表情が変わっていった。
「なるほど…確かに君の言う通りだ」
教授は振り返り、指揮官たちに向かって言った。
「諸君、この分析を聞くべきだ」
「田中教授、今は…」
「今だからこそだ」
教授の声には有無を言わせない迫力があった。
「綾瀬くんの分析によれば、西側への攻撃は陽動。真の狙いは中枢システムへの侵入だ」
司令部がざわめいた。
「まさか…」
「証拠はあります」
陽太は記録を示した。過去の襲撃データ、敵の行動パターン、そして現在の状況。全てが一つの結論を示していた。
「確かに…辻褄が合う」
指揮官の一人が認めた。
「すぐに中枢システムの防御を固めろ!」
「西側の部隊を一部引き戻せ!」
司令部が慌ただしく動き始めた。陽太の分析が、ようやく受け入れられたのだ。
「中枢システムに敵の侵入を確認!」
警告が響く。やはり陽太の予測通りだった。
「防衛部隊を向かわせろ!」
しかし、遅かった。既に「虚無」の工作員が潜入していた。
「美咲と香織は?」
陽太が尋ねると、通信士が首を振った。
「まだ地下で交戦中です。通信も不安定で…」
陽太は考えた。二人を助けるには、正確な情報が必要だ。地下空間の構造、敵の配置、脱出ルート…。
「学園長」
蓮見学園長が司令部に入ってきた。
「状況は?」
田中教授が説明する。陽太の分析、そして現在の危機的状況。
学園長は頷き、陽太を見た。
「綾瀬くん、君にお願いがある」
「はい」
「リアルタイムで戦況を分析してほしい。君の観察眼が必要だ」
陽太は驚いたが、すぐに頷いた。
「指揮権限の一部を与える」学園長は続けた。「君の分析を基に、戦術指示を出してほしい」
司令部がどよめいた。無能力者に指揮権限を与えるなど、前代未聞だった。
「学園長、それは…」
「今は形式にこだわっている場合ではない」
学園長の言葉は断固としていた。
陽太は深呼吸をして、モニターに向き直った。これまでの全ての観察、記録、分析。それらを総動員して、二人を救い出す。
「了解しました」
陽太の目に、強い決意が宿った。