六章 1. 虚無の襲撃と罠
あらすじ
能力者がひしめく名門・蒼城学園。
そこに入学した綾瀬陽太には致命的な問題があった。
——能力が、何もない。
特別な力を持たない「無能力者」である陽太は、なぜかこの学園に「記録係」として入学を許される。
役割は、天才的な能力を持つ美少女たちの戦いを観察し、記録すること。
それだけ。
誰からも期待されず、ただ見ているだけの存在。
そんな彼が記録することになったのは、学園最強と名高い二人の少女だった。
倉田美咲—— 空間を支配する「絶対領域」の使い手
若林香織—— 万物を創造する「千変万化」の能力者
圧倒的な才能を持つ彼女たちの戦いを、陽太はただ見守り、記録していく。
しかし、学園を狙う謎の組織「虚無」の脅威が迫る中、
「最弱」であるはずの陽太の観察眼が、思わぬ力を発揮し始める。
見ることしかできない。
記録することしかできない。
でも——それこそが、誰にも真似できない彼だけの「才能」だった。
作品紹介
本作は「無能力者」の主人公が、圧倒的な才能を持つ美少女たちと共に成長していく学園異能バトル作品です。
- 能力を持たない主人公ならではの視点で描かれる異能バトル
- 最初は「ただの記録係」だった主人公が、徐々に重要な存在になっていく成長物語
- 二人のヒロインとの心温まる交流と、少しずつ深まっていく絆
- 「観察」と「記録」という地味な行為が、やがて戦局を左右する鍵となる展開
- 能力がなくても、誰かの役に立てることを証明していく主人公の奮闘
「見ること」の大切さ、「記録すること」の価値。
そして何より、能力がなくても誰かの力になれるということ。
最弱の少年と最強の少女たちが織りなす、新感覚の学園異能バトルストーリーをお楽しみください。
春の静けさを打ち破る警報が、蒼城学園に響き渡った。前代未聞の警戒レベル5が発令され、「虚無」が総力を挙げて襲撃してきたのだ。陽太は司令部となった大会議室で、モニターに映し出される戦況を見つめていた。観察記録用の装備を身に着け、ノートとペンを握りしめる。
「綾瀬、状況を記録しろ」
藤堂先生の指示に従い、陽太は刻々と変化する戦況を書き留めていく。
『14時32分、南東防衛ラインに「虚無」の主力出現。能力者数、推定50名以上。従来の襲撃規模を大幅に超過』
美咲と香織は既に最前線に向かっていた。モニターに映る二人の姿が、陽太の視線を引き付ける。指揮官の声が響き、二人は即座に応じる。美咲の「絶対領域」が青い光となって展開し、香織の「千変万化」が次々と武器を具現化していく。しかし、「虚無」の攻撃は激しかった。能力者たちが次々と押され始める。
「第二防衛ラインが突破されました!」
「医療班、負傷者を後方へ!」
混乱する司令部。陽太は必死に状況を記録し続けた。
『14時45分、第二防衛ライン崩壊。「虚無」側に新型能力者を確認。影を実体化する能力と推定。通常攻撃が通用せず』
陽太は記録しながら、違和感を覚えた。「虚無」の攻撃パターンが、これまでとは違う。まるで何かを誘導しているような…。
「おかしい」
陽太は呟いたが、誰も彼の言葉に耳を貸さない。皆、目の前の戦況に追われていた。
戦闘は膠着状態に入った。学園側は必死に防戦しているが、「虚無」の攻撃は計算し尽くされていた。まるでチェスの名人が駒を動かすように、彼らは学園の能力者たちを誘導していく。
陽太は過去の記録を引っ張り出した。これまでの「虚無」の襲撃パターン、使用された能力、撤退のタイミング…。
「これは…」
陽太の目が見開かれた。全ての攻撃が、ある一点に向かって収束している。それは研究棟ではなく、別の場所だった。
「先生!」
陽太は藤堂先生に声をかけた。
「今は忙しい」
「でも、これは罠です!」
陽太は必死に説明した。「虚無」の攻撃パターンが示す真の狙い。それは学園の中枢システムへの侵入だった。
「憶測で騒ぐな」
指揮官の一人が苛立った声を上げた。
「みんな命がけで戦っているんだ。無能力者の戯言に付き合っている暇はない」
陽太は言葉を失った。また同じだ。誰も信じてくれない。
しかし、モニターの中では美咲と香織が懸命に戦っている。このままでは、二人も罠に嵌る。
『15時12分、「虚無」の主力が西側に移動開始。防衛ラインの再編成が必要。しかし、これは陽動の可能性が高い』
陽太は記録を続けながら、焦燥感に駆られた。どうすれば伝わるのか。どうすれば信じてもらえるのか。
「美咲、香織、西側に増援を!」
指揮官の指示が飛ぶ。二人は即座に反応し、西側へと移動を開始した。
「待って!」
陽太は叫んだ。しかし、通信は既に切られていた。
西側は罠だ。過去の記録から導き出された結論。「虚無」は二人を誘い込もうとしている。
陽太は必死にデータを整理した。証拠を示さなければ。客観的な分析を…。
その時、モニターに異変が起きた。美咲と香織が到着した西側で、突然地面が陥没したのだ。
「何だ!?」
二人は地下空間に転落した。そこには既に「虚無」の精鋭部隊が待ち構えていた。
「しまった!」
美咲の焦りの声が通信から聞こえる。
「完全に読まれてた…」
香織も動揺を隠せない。地下空間は特殊な結界で覆われており、二人の能力が制限されている。
「倉田、若林、応答しろ!」
司令部が必死に呼びかけるが、通信も不安定だ。
陽太は歯を食いしばった。予想通りだった。自分の分析は正しかった。でも、誰も聞いてくれなかった。
「くそ…」
陽太は拳を握りしめた。見ているだけしかできない自分が、悔しかった。




