エクストラエピソード 第八章:観察官と学園温泉旅行・秋編
十月半ば、蒼城学園の掲示板に新たな告知が貼り出された。
「秋季特別研修:高地における能力変化の研究」
陽太は告知を読みながら、夏の海辺での合宿を思い出していた。あの時の様々な出来事—水着姿の美咲と香織、温泉でのハプニング、浴衣での花火大会...。
「また合宿だって」
香織が隣で告知を見ながら言った。
「今度は山奥の温泉らしいよ」
「紅葉の季節ね」
美咲も加わった。二人とも、どこか期待に満ちた表情をしている。
「綾瀬には、また特別任務がある」
藤堂先生が現れた。
「高地での能力観察。特に温泉環境下での変化を詳細に記録してもらう」
「はい、承知しました」
陽太は頷いたが、内心では不安が募っていた。前回の合宿での数々のハプニングを思い出すと...。
「ねえ、今回の宿ってどんなところ?」
香織が興味深そうに尋ねた。
「山奥の秘湯と聞いています」
藤堂先生は資料を確認しながら答えた。
「かなり古い温泉宿で、昔ながらの造りらしい」
その言葉に、陽太は嫌な予感がした。
2
出発当日、バスに揺られること三時間。一行は深い山の中にある温泉宿に到着した。
「わあ、風情があるね」
香織が感嘆の声を上げた。確かに、築百年以上という木造の建物は、歴史を感じさせる佇まいだった。
「ようこそ、蒼城学園の皆様」
女将が出迎えた。
「当館は小さな宿ですので、色々とご不便をおかけするかもしれませんが...」
陽太たちは荷物を持って中に入った。廊下を歩いていると、女将が説明を始めた。
「当館の温泉は、混浴が基本となっております」
「え?」
陽太は聞き返した。
「ただし、タオル着用可能ですので、ご安心ください」
女将は微笑んだ。しかし、その「タオル」を見て、陽太は愕然とした。薄手の小さなタオル一枚だけだった。
「これで...隠れるんですか?」
「伝統的なスタイルでございます」
女将はあっさりと答えた。
部屋に案内されると、さらなる問題が発覚した。
「すみません、手違いがありまして...」
女将が申し訳なさそうに言った。
「三人部屋しか空いておりません」
「三人部屋?」
美咲が聞き返した。
「はい。綾瀬様と、お二人で一部屋ということに...」
陽太は凍りついた。まさか、また同室なのか。
「大丈夫です」
意外にも、美咲があっさりと受け入れた。
「陽太くんなら、信頼できますから」
「そうそう、前回も一緒だったし」
香織も同意した。
結局、三人は同じ部屋に泊まることになった。
3
部屋に入ると、そこは十畳ほどの和室だった。大きな窓からは、紅葉に染まった山々が見える。
「景色はいいね」
香織が窓際に立った。
「でも、布団が...」
部屋の隅には、布団が三組用意されていた。しかし、部屋の大きさを考えると、かなり密着して敷くことになりそうだ。
「浴衣に着替えましょう」
美咲が提案した。宿の浴衣が用意されているが...。
「これ、サイズが...」
香織が浴衣を広げて困惑した。明らかに小さい。
「すみません、手違いで子供用しか...」
仲居さんが謝った。
「大人用は明日になります」
仕方なく、三人は小さめの浴衣に着替えることにした。
「ちょっと狭いから、順番に着替えよう」
美咲の提案で、陽太は廊下で待つことにした。しかし...。
「陽太くん、ちょっと手伝って」
香織の声がした。
「帯が結べなくて...」
陽太が部屋に戻ると、香織が浴衣姿で困っていた。確かにサイズが小さく、前がはだけそうになっている。
「あ、あの...」
「お願い、後ろで結んで」
香織は背中を向けた。浴衣の襟元から、白い肌が覗いている。
陽太は震える手で帯を結んだ。小さいサイズのせいで、身体のラインがくっきりと出ている。
「私も...」
美咲も同じように困っていた。紺色の浴衣だが、やはりサイズが合わない。丈が短く、太ももが見えそうだ。
「すみません、お願いします」
陽太は美咲の帯も結んだ。二人とも、普段より肌の露出が多い。
4
夕食前に、三人は温泉の下見に行くことにした。
「混浴露天風呂」の看板を見て、陽太は緊張した。
「一応、時間で区切られているみたいだけど...」
美咲が説明書きを読んでいる。
「基本は混浴推奨って書いてある」
「面白そう!」
香織は興味津々だった。
「でも、タオル一枚でしょ?」
脱衣所で、例の薄いタオルを手に取る。透けそうなほど薄く、サイズも小さい。
「これ、隠れるかな...」
美咲も不安そうだった。
その時、他の宿泊客が入ってきた。
「あら、若い人たち」
年配の女性たちだった。
「ここの温泉はね、混浴が醍醐味なのよ」
「タオルなんて、形だけよ」
女性たちは笑いながら、あっさりと服を脱ぎ始めた。
陽太は慌てて外に出た。
5
夕食後、いよいよ入浴時間となった。
「じゃあ、一緒に入ろうか」
香織があっけらかんと言った。
「えっ?」
陽太は驚いた。
「だって、混浴でしょ?」
「でも...」
「観察のためなら、仕方ないわね」
美咲も覚悟を決めたようだった。
三人は脱衣所に入った。陽太は隅の方で、背を向けて着替え始めた。しかし、鏡に映る光景が...。
美咲と香織が、浴衣を脱いでいく。白い肌が露わになっていく様子が、鏡越しに見えてしまう。
「きゃっ」
香織が小さく声を上げた。タオルを巻こうとして、上手くいかないようだ。
「このタオル、小さすぎる...」
確かに、胸元か下半身、どちらかしか隠せないサイズだった。
「工夫するしかないわね」
美咲は器用にタオルを巻いていたが、それでもギリギリのラインだった。
陽太も覚悟を決めて、タオルを巻いた。恥ずかしさを押し殺し、露天風呂へと向かう。
6
露天風呂は、予想以上に幻想的だった。
紅葉した木々に囲まれ、月明かりが湯面を照らしている。湯気が立ち上り、あたりは白く霞んでいた。
「わあ、きれい...」
香織が感嘆の声を上げた。タオル姿のまま、湯に入っていく。
「本当ね」
美咲も続いた。
陽太は二人から少し離れた場所で湯に浸かった。しかし、湯気で見え隠れする二人の姿が、どうしても視界に入ってしまう。
濡れたタオルは身体に張り付き、かえって曲線を強調していた。
「気持ちいい...」
香織が伸びをした。その拍子に、タオルがずり落ちそうになる。
「きゃっ」
慌てて押さえる香織。しかし、一瞬、白い肌が月光に照らされた。
「香織、気をつけて」
美咲が注意したが、彼女自身もタオルの位置を直していた。薄いタオルは、濡れると透けて見える。
陽太は必死に視線を逸らしながら、観察記録をまとめようとした。
『高地での温泉入浴による能力への影響...』
しかし、集中できない。湯気の向こうで、二人が会話している声が聞こえる。
「このお湯、すごく効きそう」
「うん、能力の回復も早い気がする」
真面目な会話をしているのに、タオル一枚の姿では...。
7
三十分ほど入浴した後、三人は部屋に戻った。
「あー、いいお湯だった」
香織は上機嫌だった。浴衣に着替えたが、やはりサイズが小さく、裾が短い。
「でも、あのタオルは...」
美咲が苦笑した。
「ちょっと小さすぎるわよね」
陽太は黙っていたが、内心では同意していた。薄くて小さいタオル一枚では、ほとんど隠れていなかった。
布団を敷く時間になった。予想通り、三組の布団を並べると、かなり密着することになった。
「真ん中、誰にする?」
香織の質問に、一瞬沈黙が流れた。
「じゃあ、ジャンケンで」
結果、陽太が真ん中になってしまった。両側に美咲と香織が寝ることになる。
「えっと...」
陽太は困惑したが、二人はあっさりと受け入れた。
「大丈夫よ」
「信用してるから」
電気を消すと、月明かりだけが部屋を照らした。静寂の中、お互いの呼吸音が聞こえる距離。
「ねえ」
香織が小声で話しかけてきた。
「さっきの温泉、よかったよね」
「ええ」
美咲も応じた。
「でも、やっぱりタオルは小さすぎたわ」
「だよね。陽太くん、どう思った?」
急に話を振られ、陽太は慌てた。
「あ、えーと...」
「もしかして、見ちゃった?」
香織がクスクス笑った。
「み、見てません!」
「本当?」
美咲も加わった。二人の声には、からかうような響きがあった。
陽太は布団の中で縮こまった。両側から、二人の体温が伝わってくる。浴衣の隙間から、かすかに石鹸の香りが漂う。
眠れない夜になりそうだった。
8
翌朝、陽太は寝不足で目を覚ました。
隣を見ると、香織の寝顔があった。寝相が悪いのか、浴衣がはだけている。白い肩が露出し、胸元も危うい状態だった。
反対側では、美咲が陽太の方を向いて寝ていた。整った寝顔だが、やはり浴衣が乱れている。
陽太は慌てて目を逸らした。そろそろ起きる時間だ。
「ん...」
香織が目を覚ました。寝ぼけた表情で陽太を見る。
「おはよう...」
「お、おはようございます」
香織は自分の浴衣の乱れに気づいていないようだった。大きく伸びをすると、さらに露出が増える。
「きゃっ」
ようやく気づいた香織が、慌てて浴衣を直した。
「ご、ごめん!」
「いえ...」
その騒ぎで、美咲も目を覚ました。
「ん...朝?」
寝起きの美咲も、普段の凛とした雰囲気とは違って無防備だった。髪が乱れ、頬に枕の跡がついている。
三人は順番に身支度を整えた。
9
朝食後、能力の測定を行うことになった。
「高地での能力変化を確認します」
陽太は記録の準備をした。場所は宿の裏にある小さな滝の前。紅葉した木々に囲まれ、神秘的な雰囲気だった。
「じゃあ、始めましょうか」
美咲が「絶対領域」を展開する。青い光が広がるが、昨日とは少し様子が違う。
「空気が薄いからかな」
香織も「千変万化」を発動した。光の粒子が舞い上がるが、海辺の時とは輝きが違う。
陽太は詳細に記録していった。
「ねえ、滝行してみない?」
香織が突然提案した。
「滝行?」
「そう、修行みたいな」
「能力の浄化作用があるかもしれませんね」
美咲も興味を示した。
宿で白装束を借り、三人は滝行に挑戦することになった。
白い装束は薄手で、水に濡れると...と陽太は不安を感じたが、観察のためと自分に言い聞かせた。
10
滝の水は予想以上に冷たかった。
「つ、冷たい!」
香織が声を上げた。白装束はすぐにずぶ濡れになり、身体に張り付く。薄い布地が透けて、下着のラインがうっすらと見えてしまう。
「が、頑張りましょう」
美咲も震えながら言った。彼女の白装束も同様に濡れ、身体の曲線が露わになっている。
陽太は滝の横で観察を続けたが、視線のやり場に困った。二人とも真剣に滝行に取り組んでいるが、濡れた装束は...。
「能力が...安定してきた」
美咲が呟いた。確かに、彼女の「絶対領域」の光が、より澄んだ色になっている。
「本当だ」
香織の「千変万化」も、より繊細なコントロールができているようだった。
観察を終えた後、三人は急いで宿に戻った。
「さ、寒い...」
香織が震えていた。濡れた白装束から、水が滴っている。
「早く着替えないと」
しかし、部屋に戻ると問題が発生した。
「着替えが...」
荷物の中に、着替えが入っていない。
「とりあえず、タオルで...」
またもあの薄いタオルだけで過ごすことになってしまった。
11
午後、三人は貸切風呂を利用することにした。
「時間制だから、順番に」
しかし、時間を勘違いしていた陽太は、美咲が入っている時間に入ってしまった。
「きゃあ!」
「す、すみません!」
扉を開けた瞬間、湯船に浸かる美咲の姿が目に入った。慌てて後ずさりした陽太だったが、濡れた床で足を滑らせてしまう。
「わっ!」
バランスを崩した陽太は、そのまま湯船に落ちてしまった。大きな水しぶきが上がる。
「きゃっ!」
美咲は反射的に身を隠そうとしたが、狭い湯船では逃げ場がない。二人は至近距離で向き合う形になってしまった。
「ご、ごめんなさい!」
陽太は目を閉じたが、湯の中で身動きが取れない。美咲の柔らかな身体が、すぐ近くにあることを感じてしまう。
「わ、わざとじゃないのはわかってます」
美咲の声も震えていた。
「でも、早く出て...」
陽太は必死に湯船から上がろうとしたが、また滑ってしまう。その拍子に、美咲につかまってしまった。
「あっ...」
一瞬、柔らかな感触が手に伝わる。慌てて手を離したが、顔が真っ赤になった。
なんとか湯船から出た陽太は、逃げるように脱衣所へ向かった。
12
夕方、紅葉狩りに出かけることになった。
山道を歩きながら、三人は色づいた木々を楽しんだ。しかし、小さいサイズの浴衣は、歩くたびに裾が開いてしまう。
「きれいな景色ね」
美咲が立ち止まって写真を撮っていた。しゃがみこんだ拍子に、浴衣の裾が大きく開く。白い太ももが露わになった。
「こっちも素敵!」
香織は崖の近くまで行って景色を眺めていた。風が吹くと、浴衣の裾がめくれ上がる。
「危ないですよ」
陽太が注意しようとした時、香織がバランスを崩した。
「きゃっ!」
反射的に陽太が支えたが、その際に香織の身体に密着してしまう。浴衣越しに、柔らかな感触が伝わってきた。
「あ、ありがとう...」
香織は陽太の腕の中で、顔を赤らめていた。
夜になり、三人は再び温泉に向かった。今度は時間をずらすはずだったが...。
「あれ?誰もいない」
露天風呂には誰もいなかった。
「せっかくだから、一緒に入っちゃう?」
香織の提案に、美咲も頷いた。
「前回よりは慣れたし...」
結局、また三人で入ることになった。タオル一枚の姿で湯に浸かる。
月明かりの下、湯気に包まれながら、三人は他愛ない話をした。
「この旅行、楽しいね」
「うん、夏とはまた違った感じで」
「陽太くんも、そう思うでしょ?」
陽太は曖昧に頷いた。確かに楽しいが、刺激が強すぎる気もする。
13
最終日の朝、陽太は早起きして一人で温泉に入っていた。
これまでの観察データをまとめながら、静かな時間を過ごす。すると...。
「おはよう、陽太くん」
美咲と香織が現れた。まだ朝早いというのに。
「一緒に入ってもいい?」
二人はためらいなく湯に入ってきた。朝日が差し込む露天風呂は、幻想的な雰囲気だった。
「最後の朝だね」
香織が寂しそうに言った。
「また日常に戻るのか」
美咲も物憂げな表情を見せた。
三人は並んで湯に浸かった。もはやタオル一枚という状況にも慣れてしまっていた。
「ねえ」
香織が口を開いた。
「この旅行で、距離が縮まった気がしない?」
「そうね」
美咲も同意した。
「陽太くんのこと、もっとよく知れた気がする」
二人の言葉に、陽太は照れくさくなった。
確かに、この数日間で三人の関係は変化していた。単なる観察官と被観察者という立場を超えて、特別な絆が生まれていた。
エピローグ
帰りのバスの中、陽太は窓の外を眺めていた。
紅葉した山々が遠ざかっていく。あの小さな温泉宿での出来事が、まるで夢のようだった。
「また行きたいね」
香織が隣でつぶやいた。
「ええ、でも次は...」
美咲が苦笑した。
「もう少し大きいタオルがいいわね」
三人は顔を見合わせて笑った。
陽太の手元には、分厚い観察記録がある。高地での能力変化、温泉の効果、様々なデータが詰まっている。
しかし、それ以上に大切なものもあった。この記録には書けない、特別な思い出。
最弱記録係の秋の温泉旅行。それは、予想外のハプニングに満ちた、忘れられない経験となったのだった。
完




