六章 6. 認められた価値
あらすじ
能力者がひしめく名門・蒼城学園。
そこに入学した綾瀬陽太には致命的な問題があった。
——能力が、何もない。
特別な力を持たない「無能力者」である陽太は、なぜかこの学園に「記録係」として入学を許される。
役割は、天才的な能力を持つ美少女たちの戦いを観察し、記録すること。
それだけ。
誰からも期待されず、ただ見ているだけの存在。
そんな彼が記録することになったのは、学園最強と名高い二人の少女だった。
倉田美咲—— 空間を支配する「絶対領域」の使い手
若林香織—— 万物を創造する「千変万化」の能力者
圧倒的な才能を持つ彼女たちの戦いを、陽太はただ見守り、記録していく。
しかし、学園を狙う謎の組織「虚無」の脅威が迫る中、
「最弱」であるはずの陽太の観察眼が、思わぬ力を発揮し始める。
見ることしかできない。
記録することしかできない。
でも——それこそが、誰にも真似できない彼だけの「才能」だった。
作品紹介
本作は「無能力者」の主人公が、圧倒的な才能を持つ美少女たちと共に成長していく学園異能バトル作品です。
- 能力を持たない主人公ならではの視点で描かれる異能バトル
- 最初は「ただの記録係」だった主人公が、徐々に重要な存在になっていく成長物語
- 二人のヒロインとの心温まる交流と、少しずつ深まっていく絆
- 「観察」と「記録」という地味な行為が、やがて戦局を左右する鍵となる展開
- 能力がなくても、誰かの役に立てることを証明していく主人公の奮闘
「見ること」の大切さ、「記録すること」の価値。
そして何より、能力がなくても誰かの力になれるということ。
最弱の少年と最強の少女たちが織りなす、新感覚の学園異能バトルストーリーをお楽しみください。
リーダーは最終形態となり、時間操作能力を解放する。過去・現在・未来を同時に支配する力で、美咲と香織は自分たちの過去の攻撃に襲われながら、まだ行っていない攻撃の残像にも苦しめられる。陽太にも影響が及び始めるが、彼は諦めず観察を続ける。
「矛盾している。過去と未来が、矛盾している」
リーダーの能力には論理的な矛盾点があることに気づいた陽太は、護衛の制止を振り切って戦場に飛び出す。
「ここだ!」
陽太が矛盾点の中心に立ち、自分が標識となって攻撃ポイントを示す。危険な賭けだが、陽太は二人の力と自分の観察眼を信じていた。
「陽太くん!」
香織と美咲が陽太の位置を認識し、「絶対領域・時空断裂!」「千変万化・因果律崩壊!」二人の能力が矛盾点で激突する。時間の歪みが崩壊し始め、リーダーの能力が内部から瓦解していく。
「ぐあああああ!」
絶叫と共に、影の怪物が崩れ去った。リーダーは元の人間の姿に戻り、地面に倒れ伏す。
長い戦いが、ついに決着した。
霧が晴れ、戦場に静寂が戻った。美咲と香織が、陽太の元に駆け寄る。
「陽太くん、無茶しすぎ!」
香織が涙目で叱る。
「でも…」
美咲も安堵の表情を見せた。
「あなたのおかげで勝てた」
陽太は照れくさそうに笑った。体中が痛み、意識も朦朧としていたが、不思議と満足感があった。
「僕は…ただ見ていただけです」
「違う」
美咲がきっぱりと言った。
「見ることの価値を、今日改めて知ったわ」
香織も頷く。
「陽太くんの観察がなければ、私たち、絶対に勝てなかった」
司令部から、歓声が聞こえてきた。各地の戦闘も、リーダーの敗北と共に終息に向かっているようだった。
医療班が到着し、陽太たちの手当てが始まる。リーダーも拘束され、連行されていった。
「綾瀬」
藤堂先生が近づいてきた。その表情は、いつになく柔らかい。
「よくやった」
短い言葉だったが、そこには確かな賞賛が込められていた。
学園長も姿を現した。
「綾瀬くん」
学園長は深々と頭を下げた。
「君の勇気と観察眼が、学園を救った。心から感謝する」
陽太は戸惑った。学園長が頭を下げるなんて。
「いえ、僕は…」
「誇っていい」
学園長は顔を上げ、微笑んだ。
「君は立派に、自分の役割を果たした」
数日後、学園の大講堂で式典が開かれた。
「虚無」との戦いで功績のあった者たちへの表彰式だ。美咲と香織も、その勇敢な戦いぶりを称えられた。
そして、最後に学園長が壇上に立った。
「本日、特別な称号を授与したい者がいます」
会場がざわめく。
「綾瀬陽太くん、前へ」
陽太は驚きながらも、壇上に上がった。足は完治していなかったが、なんとか歩けるようになっていた。
「君には『主席戦略観察官』の称号を授与する」
会場から大きな拍手が湧き起こった。
「これは、能力者と無能力者の架け橋となる、重要な役職です」
学園長は続けた。
「観察し、記録し、伝える。その重要性を、君は証明してくれた」
陽太は感無量だった。自分の役割が、正式に認められたのだ。
「さらに」
学園長が付け加えた。
「今回の戦いにおける君の功績を讃え、『銀星勲章』を授与する」
会場がどよめいた。銀星勲章は、学園最高位の勲章の一つだった。
「能力を持たない者への授与は、創立以来初めてのことです」
学園長自ら、陽太の胸に勲章を着けた。
「君は、新しい可能性を示してくれた。能力がなくても、人は誰かの力になれる。そのことを、身をもって証明してくれた」
涙が、陽太の頬を伝った。
式典の後、陽太は学園長室に呼ばれた。そこには、一冊の古い記録簿があった。
「これは?」
「君の曽祖父、綾瀬総一郎の記録だ」
学園長は説明した。
「そして、これが君の新しい記録簿」
真新しい革表紙のノートが手渡された。表紙には金文字で刻まれている。
「蒼城学園主席戦略観察官 綾瀬陽太」
「君の記録も、いずれ歴史となる」
学園長は微笑んだ。
「誇りを持って、その仕事を続けてほしい」
陽太は深く頷いた。
エピローグ
夕暮れ時、陽太はいつもの屋上にいた。
手には新しい記録簿。最初のページに、今日の日付を記入する。
「5月15日。『虚無』との全面対決に勝利。自分の役割を改めて認識する」
ペンを走らせながら、陽太は思った。
この数週間で、多くのことがあった。挫折、苦悩、そして気づき。能力への憧れも、劣等感も、全てが今の自分を作っている。
「あ、いた」
香織の声がして、美咲と二人で屋上に上がってきた。
「また記録?」
「うん」
陽太は笑った。
「これが僕の仕事だから」
三人は並んで、夕焼けに染まる街を眺めた。
「ねえ、陽太くん」
香織が言った。
「今日の戦い、どう見えた?」
陽太は少し考えてから答えた。
「美しかった」
「美しい?」
「うん。二人の連携、能力の輝き、そして何より…諦めない心が」
美咲が微笑んだ。
「それを記録してくれるのね」
「もちろん」
陽太は記録簿を開いた。
「二人の成長も、これからの戦いも、全部記録する」
「じゃあ」
香織が悪戯っぽく笑った。
「もっとかっこいい技、開発しなきゃ!」
三人の笑い声が、夕暮れの空に響いた。
陽太は改めて思った。
自分には能力がない。でも、それでいい。自分にしかできない大切な役割があるから。
記録簿に新たな文章を書き加える。
「美咲と香織の成長は続く。そして僕も、彼女たちと共に成長していく。観察者として、記録者として、そして一人の人間として」
ペンを置き、陽太は空を見上げた。
最弱記録係は今日も天才美少女たちの戦いを見守るだけ。
でも、それでいい。それが自分の誇りある仕事なのだから。
「さあ、戻ろう」
陽太が立ち上がると、二人も続いた。
「明日も訓練でしょ?ちゃんと記録してよね」
香織が言う。
「新しい技術理論の授業もある」
美咲も付け加えた。
「わかってる」
陽太は記録簿を抱えて歩き始めた。
「全部、記録するよ」
三人の影が、夕日に長く伸びていく。
能力者と無能力者。戦う者と記録する者。違う立場にいても、同じ目標に向かって進んでいく。
陽太は確信していた。これからも、多くの戦いがあるだろう。困難も、挫折も、きっとある。
でも、大丈夫だ。
見ることができる。記録することができる。伝えることができる。
それが、綾瀬陽太の役割なのだから。
最弱記録係は今日も天才美少女たちの戦いを見守るだけ。
しかしそれが何よりも重要なのだ。




