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第六章 5. 観察者の作戦と決戦

あらすじ


能力者がひしめく名門・蒼城学園。

そこに入学した綾瀬陽太あやせ ようたには致命的な問題があった。


——能力が、何もない。


特別な力を持たない「無能力者」である陽太は、なぜかこの学園に「記録係」として入学を許される。

役割は、天才的な能力を持つ美少女たちの戦いを観察し、記録すること。

それだけ。


誰からも期待されず、ただ見ているだけの存在。

そんな彼が記録することになったのは、学園最強と名高い二人の少女だった。


倉田美咲くらた みさき—— 空間を支配する「絶対領域」の使い手

若林香織わかばやし かおり—— 万物を創造する「千変万化」の能力者


圧倒的な才能を持つ彼女たちの戦いを、陽太はただ見守り、記録していく。


しかし、学園を狙う謎の組織「虚無」の脅威が迫る中、

「最弱」であるはずの陽太の観察眼が、思わぬ力を発揮し始める。


見ることしかできない。

記録することしかできない。

でも——それこそが、誰にも真似できない彼だけの「才能」だった。


作品紹介


本作は「無能力者」の主人公が、圧倒的な才能を持つ美少女たちと共に成長していく学園異能バトル作品です。




- 能力を持たない主人公ならではの視点で描かれる異能バトル

- 最初は「ただの記録係」だった主人公が、徐々に重要な存在になっていく成長物語

- 二人のヒロインとの心温まる交流と、少しずつ深まっていく絆

- 「観察」と「記録」という地味な行為が、やがて戦局を左右する鍵となる展開

- 能力がなくても、誰かの役に立てることを証明していく主人公の奮闘



「見ること」の大切さ、「記録すること」の価値。

そして何より、能力がなくても誰かの力になれるということ。


最弱の少年と最強の少女たちが織りなす、新感覚の学園異能バトルストーリーをお楽しみください。

陽太は焦った。このままでは、二人が倒される。何か、方法はないのか。


その時、ふと気づいた。霧の動きに、わずかな規則性がある。


「風…?」


いや、違う。これは…。


「呼吸だ」


陽太は確信した。霧は、リーダーの呼吸に合わせて動いている。


「リーダーの呼吸周期、4.2秒」


陽太は記録を続けた。


「吸気時に霧が収縮、呼気時に拡散」


そして、もう一つ気づいた。能力の発動タイミングも、呼吸と連動している。


「大技の後、必ず深呼吸。その間、約2秒の隙が…」


しかし、0.35秒の予知がある限り、その隙も意味がない。


いや、待てよ。


陽太の脳裏に、一つのアイデアが浮かんだ。


「美咲さん、香織さん」


陽太は通信機に向かった。


「作戦があります」


「どんな作戦?」


美咲が尋ねる。彼女の声には疲労が滲んでいた。


「リーダーの予知能力を逆手に取ります」


陽太は説明を始めた。


「予知能力は、見えた未来に基づいて行動を最適化します。でも、それは同時に制約でもある」


「制約?」


香織が聞き返す。


「はい。見えた未来に囚われるんです」


陽太は続けた。


「わざと予測可能な行動を取り、その後で予測を裏切る。フェイント攻撃です」


「でも、0.35秒じゃ…」


「だから、多重フェイントを使います」


陽太は詳細を説明した。


まず、香織が正面から明らかに無謀な突撃を仕掛ける。リーダーは当然それを予知し、カウンターを準備する。


しかし、香織は途中で方向を変え、右に回避。これも予知されているはずだが、問題ない。


次に、美咲が左から攻撃。これも予知され、防御される。


そして、香織が再び正面から…。


「パターンを作るんです」


陽太は言った。


「相手に行動を予測させ、その予測に基づいた行動を取らせる」


「それで?」


「最後に、パターンを完全に崩します。しかも、0.35秒以上の時間差で」


具体的には、香織が攻撃モーションに入った瞬間、わざと転ぶ。予知能力は「攻撃」を見るが、実際には攻撃は来ない。


その混乱の隙に、美咲が本命の攻撃を仕掛ける。


「なるほど…」


美咲が理解を示した。


「でも、タイミングが難しいわ」


「僕が合わせます」


陽太は断言した。


「リーダーの呼吸、視線の動き、重心の移動。全てを観察して、最適なタイミングを読みます」


二人は一瞬沈黙した。そして…。


「信じる」


美咲が言った。


「陽太くんの観察眼を信じる」


「うん、私も」


香織も同意した。


霧の中で、作戦が開始された。


「香織さん、前進」


陽太の指示で、香織が動き出す。予想通り、リーダーは迎撃態勢を取る。


「今、右へ!」


香織が素早く方向転換。リーダーの攻撃が空を切る。


「美咲さん、左から!」


美咲の「絶対領域」が展開され、青い光が霧を切り裂く。しかし、これもリーダーは予知していた。黒い盾が出現し、攻撃を防ぐ。


「香織さん、もう一度正面!」


パターンが形成されていく。リーダーも、そのパターンに合わせて行動し始めた。


陽太は観察を続けた。リーダーの呼吸が早くなっている。集中力が高まっている証拠だ。


「もう一度…」


「今だ!香織さん、転んで!」


香織が攻撃モーションの途中で、わざと足を滑らせる。リーダーの動きが一瞬止まった。予知した未来と、現実が食い違ったのだ。


「美咲さん、今!」


美咲が全力で「絶対領域」を展開。しかし、それは攻撃ではなかった。


「空間固定!」


青い光がリーダーの周囲の空間を固定する。一瞬、リーダーの動きが止まる。


「香織さん!」


転んだふりをしていた香織が、瞬時に起き上がる。


「千変万化・極光剣!」


巨大な光の剣が具現化され、空間固定されたリーダーに向かって振り下ろされた。


しかし…。


「甘い」


リーダーの体が、黒い霧となって消えた。空間固定をすり抜けたのだ。


「そんな…」


次の瞬間、リーダーは二人の背後に現れた。


「予知は0.35秒だけではない」


リーダーの声が響く。


「もっと先まで、見えている」


黒い触手が二人を捕らえようとする。もはや、避ける術はない。


しかし、その時。


「まだです!」


陽太が叫んだ。


「香織さん、具現化を解除!美咲さん、領域を自分に!」


二人は反射的に従った。香織の光の剣が消え、美咲の青い光が自身を包む。


すると、どうだろう。リーダーの触手が、わずかに軌道を逸らした。


「なに…?」


リーダーが初めて動揺を見せた。


「能力の残留エネルギーです」


陽太が説明した。


「具現化と空間固定の残留エネルギーが、一時的に空間を歪めています。それが、あなたの予知に誤差を生じさせた」


これこそが、陽太の真の狙いだった。


予知能力を混乱させるには、予測不可能な要素が必要。それは、能力の副次的効果という、通常は無視される要素だった。


「今です!同時攻撃!」


陽太の指示で、美咲と香織が動いた。


しかし、それも単純な同時攻撃ではなかった。


美咲が「絶対領域」を球状に展開し、それを高速回転させる。青い光の球が、まるでドリルのように空間を穿つ。


一方、香織は「千変万化」で無数の小さな光の矢を作り出した。それらは不規則な軌道を描きながら、リーダーに向かっていく。


「小細工を…」


リーダーが両手を広げる。黒い霧が渦を巻き、防御壁となる。


しかし、陽太は観察していた。リーダーの視線、呼吸、筋肉の動き。全てが、防御の瞬間的な弱点を示していた。


「美咲さん、回転を逆に!香織さん、矢を収束!」


瞬間的な指示。美咲の光球が逆回転を始め、防御壁との接触面で異常な振動が発生する。同時に、香織の無数の矢が一点に集まり、針のように鋭い光線となった。


防御壁が、一瞬揺らいだ。


「今だ!」


二人の攻撃が、防御の隙間を突いた。リーダーの右肩に光線が掠め、左脇腹に光球の衝撃が届く。


「ぐっ…」


初めて、リーダーが苦痛の声を漏らした。


黒いローブが破れ、その下から人間の姿が現れる。若い男性だった。整った顔立ちだが、その目は冷たく、狂気を宿していた。


「能力者ではない者に…指示されるとは…」


リーダーが陽太の方を見た。その視線には、怒りと…わずかな興味が混じっていた。


「だが、ここまでだ」


リーダーの全身から、凄まじい量の黒い霧が噴出した。それは瞬く間に戦場全体を覆い、視界を完全に奪う。


「見えない…!」


陽太の双眼鏡も、もはや役に立たなかった。


しかし、諦めるわけにはいかない。陽太は目を閉じ、他の感覚を研ぎ澄ませた。


音。振動。空気の流れ。


「北北東、風速3メートル」


陽太は呟いた。


「霧の密度が変化…中心部が薄い」


観察は、視覚だけではない。五感全てを使い、さらには第六感とも言える直感まで動員する。


「美咲さん、香織さん、声を出して」


「ここよ」


「私も、ここ」


声の位置から、二人の座標を特定する。


そして、霧の動きから、リーダーの位置も推測した。


「リーダーは、二人の中間地点の上空15メートル」


また、大技の準備をしているようだ。霧が渦を巻き、中心に向かって収束していく。


「このままじゃ…」


しかし、陽太はまだ諦めていなかった。


観察を続ける中で、一つの事実に気づいたのだ。


「リーダーの予知能力…完璧じゃない」


「え?」


美咲の声が返ってくる。


「さっきから、微妙にタイミングがずれています。疲労で、精度が落ちている」


長時間の戦闘と、高度な能力の連続使用。さらに、予想外の攻撃を受けたことで、リーダーも消耗していた。


「チャンスは一度だけ」


陽太は言った。


「最後の総攻撃をかけます」

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