第27話:届いたもの、届かなかったもの
▶前回までのあらすじ
義昌の変化と真摯な想いに心を動かされた真里姫は、迷いなく物資の手配を進め、言葉ではなく“行動”で彼の覚悟に応えたのだった――。
朝靄が、まだ村をうっすらと包んでいた。
見張りの男が、山道の奥に人影を見つけて駆けてきたのは、ちょうどその頃だった。
「殿っ、山の方から荷が……! 村に向かってきております!」
その声に、思わず立ち上がる。
まさか――そんなはずはない。
あの手紙を出してから、もうしばらく経っている。
返事どころか、届いてすらいないかもしれない。
そう思っていた。
だが。
村の外れまで出ると、すでに牛に曳かれた荷駄が、ゆっくりと坂を下ってくるところだった。
何人かの商人風の男たちが、無言でむしろを剥いでいく。
中から現れたのは、干し肉、塩、米、小麦粉――
村にとって、今もっとも必要な食料が、箱いっぱいに詰まっていた。
思わず、息を呑む。
「この荷は……どこから来た?」
「……名は申しませんが、頼まれて運んで参りました。
こちら、伝言でございます」
ひとりの男が、懐から小さな包みを差し出す。
(……そうか。そういう立場の人間なのだ)
それを受け取ると、見慣れた文の綴じ紐があった。
ほどいた瞬間、そこには筆跡こそなかったが――
確かに、あの人の香がした。
書かれていたのは、わずかな短文だった。
──願いは、受け取りました。
信じております。
その言葉を目にした瞬間、胸の奥で何かが、音を立てて崩れた。
信じたのは、俺だけじゃなかった。
俺の言葉を、あの人は拾ってくれた。
たとえ、それがどれほどの危うさを孕んでいようと。
誰かが信じてくれたという、その事実だけで――
人は、どこまでも歩いていける気がした。
「……真里殿」
小さく、その名を呼ぶ。
誰にも聞かれないように、風に紛らせるように。
俺の選んだ道が、彼女にとっての重荷だったことは間違いない。
それでも彼女は、動いた。信じた。
その想いに、応えられるだけの“覚悟”が、自分にあるのか――。
答えを出す前に、ひとつの影が駆け寄ってきた。
「義昌様っ!」
庄吉だった。
息を切らしながら、目を潤ませて叫ぶ。
「見てください……皆が、皆、荷の運び出しに!」
その先を見やれば、村の若者たちが、次々に箱を受け取り始めていた。
腰に布を巻き、籠を背負い、互いに声をかけながら――
誰ももう、迷ってなどいなかった。
庄吉の目から、ぽろりと涙がこぼれる。
その視線は、荷ではなく――人の方を見ていた。
(……食べ物が届いたから喜んでいるのかと思った。
けれど違う。あいつは、“皆が動いていること”に、涙を流していた)
怒声も罵声もなく、誰かに命じられるでもなく――
ただ静かに、皆がそれぞれの手で荷を運んでいる。
それが、嬉しかったのだ。
安心だったのだ。
(……この子は、ちゃんと見てるんだな。
俺よりも、ずっと――今を、皆を)
信じるという行為は、時に残酷で、そして時に――救いになる。
届いたもの。
それは物資だけではない。
信頼。願い。希望。
そして、それに応える責任。
だが、届かなかったものもある。
言葉。過去の真実。取り返せない想い。
けれど、それらすらも――未来へ繋げる力になるのだと、今は思えた。
まだ遠い未来を、俺は、見ようと思った。
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