第23話:裁かれる前に
備蓄の“抜き取り”事件をめぐり、村の中に協力者がいる可能性が浮上。
疑念の矛先は、無口な古参の兵・仁兵衛へと向かう。
問いただすことも、信じることもできない中、殿として下すべき“決断”が主人公に迫る――
炎が、パチリと弾ける。
仁兵衛の問いかけに、俺は沈黙を返したままだった。
答えれば壊れる。
答えなければ、腐っていく。
そんな綱渡りの中で、時間だけが過ぎていく。
ふと、仁兵衛が言った。
「……俺が間違っていたとして。
それでも、誰かを守るためだったら、罰せられるべきでしょうか」
静かな問いだった。
だけどその言葉の裏に、何かが滲んでいた。
懺悔とも、覚悟ともつかない、深い“断ち切り”。
俺はようやく、仁兵衛を正面から見据えた。
「……お前は、“誰”を守った」
「……」
仁兵衛は答えなかった。
ただ、少しだけ目を伏せ――次の瞬間には、立ち上がっていた。
「もうすぐ夜です。火は……絶やさぬ方が、よろしいでしょう」
それだけを言い残し、闇の中に溶けていった。
(……逃げた、のか? いや――)
“決めた”顔だった。
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【夜 詰所】
新之助が駆け込んできた。
「殿! 仁兵衛殿が、柵の外に――!」
「……何?」
「見張りの者が、抜け穴の柵を開けて出ていく姿を確認しました。暗がりで顔までは……でも、火の番にいたはずの――」
間違いない。
仁兵衛は、村を“出た”。
自ら、“処される側”になる前に。
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【同夜 集会所】
緊急の再会議が開かれる。
権六は怒気をはらみ、宗次郎は険しい顔をしていた。
「やはり、仁兵衛が抜いていたというのか……!」
俺は首を横に振った。
「断じるには、まだ早い。だが、村の外へ出た以上、もはや弁明の余地はない」
新之助が問いかけた。
「追いますか?」
俺は、短く答えた。
「……否。
“追わない”ことで、仁兵衛の意志を受け取る」
それは、逃亡ではなく――
“犠牲”としての、自裁だった。
(そうでなければ、あの火の前で……あんな目は、できない)
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【翌朝】
仁兵衛は、戻らなかった。
遺された火ばさみと、水汲み桶だけが、広場に置かれていた。
村人は口を噤み、ただ静かにその場を通り過ぎていく。
俺は、火ばさみを拾った。
柄の先に、煤で書かれた文字があった。
――「すまん」
それが、仁兵衛からの“すべて”だった。
(罪か、忠義か。
正しかったのか、間違っていたのか。
その答えは、誰にもわからない)
けれど俺は、それでも歩いていかなければならない。
この村の、“次”のために。
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これからは【週一更新】で、じっくり描いていきます。
金曜のお楽しみにしていただけたら嬉しいです!




