表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/35

第23話:裁かれる前に

備蓄の“抜き取り”事件をめぐり、村の中に協力者がいる可能性が浮上。

疑念の矛先は、無口な古参の兵・仁兵衛へと向かう。

問いただすことも、信じることもできない中、殿として下すべき“決断”が主人公に迫る――

 炎が、パチリと弾ける。


 仁兵衛の問いかけに、俺は沈黙を返したままだった。


 答えれば壊れる。

 答えなければ、腐っていく。

 そんな綱渡りの中で、時間だけが過ぎていく。


 ふと、仁兵衛が言った。


「……俺が間違っていたとして。

 それでも、誰かを守るためだったら、罰せられるべきでしょうか」


 静かな問いだった。


 だけどその言葉の裏に、何かが滲んでいた。

 懺悔とも、覚悟ともつかない、深い“断ち切り”。


 俺はようやく、仁兵衛を正面から見据えた。


「……お前は、“誰”を守った」


「……」


 仁兵衛は答えなかった。


 ただ、少しだけ目を伏せ――次の瞬間には、立ち上がっていた。


「もうすぐ夜です。火は……絶やさぬ方が、よろしいでしょう」


 それだけを言い残し、闇の中に溶けていった。


(……逃げた、のか? いや――)


 “決めた”顔だった。


---


【夜 詰所】


 新之助が駆け込んできた。


「殿! 仁兵衛殿が、柵の外に――!」


「……何?」


「見張りの者が、抜け穴の柵を開けて出ていく姿を確認しました。暗がりで顔までは……でも、火の番にいたはずの――」


 間違いない。

 仁兵衛は、村を“出た”。


 自ら、“処される側”になる前に。


---


【同夜 集会所】


 緊急の再会議が開かれる。

 権六は怒気をはらみ、宗次郎は険しい顔をしていた。


「やはり、仁兵衛が抜いていたというのか……!」


 俺は首を横に振った。


「断じるには、まだ早い。だが、村の外へ出た以上、もはや弁明の余地はない」


 新之助が問いかけた。


「追いますか?」


 俺は、短く答えた。


「……否。

 “追わない”ことで、仁兵衛の意志を受け取る」


 それは、逃亡ではなく――

 “犠牲”としての、自裁だった。


(そうでなければ、あの火の前で……あんな目は、できない)


---


【翌朝】


 仁兵衛は、戻らなかった。


 遺された火ばさみと、水汲み桶だけが、広場に置かれていた。


 村人は口を噤み、ただ静かにその場を通り過ぎていく。


 俺は、火ばさみを拾った。


 柄の先に、煤で書かれた文字があった。


 ――「すまん」


 それが、仁兵衛からの“すべて”だった。


(罪か、忠義か。

 正しかったのか、間違っていたのか。

 その答えは、誰にもわからない)


 けれど俺は、それでも歩いていかなければならない。


 この村の、“次”のために。


---



これからは【週一更新】で、じっくり描いていきます。

金曜のお楽しみにしていただけたら嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ