表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/35

第12話:小さな芽吹き

▶前回までのあらすじ

裁きを経てなお村は壊れなかった。義昌の下、信頼の萌芽が息づく。

――朝。


東の空が、うっすらと薄青く染まり始めていた。

地面はうっすらと雪に覆われ、乾いた土と凍った空気が入り混じる匂いが漂っている。

吐く息は白く、指先はすぐにかじかんだ。


広場のあちこちでは、村人たちと兵士たちが、寒さに震えながらも作業を進めていた。

霜柱を踏みしめ、凍える手で道具を扱いながら、それでも互いに声を掛け合う。


「下を固めてから丸太を載せろ!」


「わかった!」


元気に返事をしたのは、若い兵士・新之助だった。

息を白く吐きながら、笑顔を浮かべて作業を進めるその姿は、朝日に微かに輝いて見えた。


そんな新之助を支えるように、村人・重蔵がゆっくりと丸太を押していく。

武田との小競り合いで負傷した足を引きずりながらも、彼は一言も弱音を吐かず、ただ黙々と働いていた。


少し離れた小屋の軒先では、腰の曲がった老婆たちが、薪を編み籠に詰めながら手を動かしていた。

また、幼い子供たちが、薪を抱えて小走りに広場を行き来する。

その後ろでは、若い母親たちが寒さに耐えながら子を背負い、道具の整理に追われている。


生きるために、誰もができることを懸命に果たしていた。


凍えた土に足を取られながらも、村と兵士たちは、少しずつ歩み寄っていた。

笑い声こそ少ないが、互いに無言で手を貸し合う場面が増えている。


(だが、まだ油断するな)


(いずれ、これらの手が、鍬ではなく槍を握る日が来るかもしれない――)


湊――いや、義昌は、広場全体を静かに見渡した。


寒さに身を震わせながらも、皆がこの地で生きようと必死だった。

かつては睨み合い、敵意を隠しきれなかった者たちが、今は同じ空の下で、同じ地を踏みしめている。


(これが……守るべきものか)


義昌は静かに、手袋越しに拳を握った。


少し離れた場所では、農作業に長けた村人・佐平と年配兵・権六が、折れかけた荷車の修理に取り組んでいた。


「手前ぇ、もっとそっち持ち上げろ!」


「こんな冷えた朝に無茶言うなぁ!」


ぶつくさ言いながらも、息を白く吐きながら笑い合う。

その様子に、周囲の村人たちも兵士たちも、わずかに表情を緩めた。


小さな笑い。

小さな助け合い。


それでも確かに、ここに新しい絆が生まれ始めていた。


(……まだ頼りないが、それでも)


義昌は胸の奥で、そっと誓った。


必ず守る。

この小さな希望を。


そのときだった。


乾いた土を叩く音が、冷えた空気の中に響いた。


パカラッ、パカラッ。


遠くから、馬蹄の音が近づいてくる。


作業をしていた者たちが一斉に顔を上げ、道具を置く。

吐く息が白く立ちのぼり、寒さ以上の緊張が広場を支配した。


(……来たか)


義昌はそっと刀の柄に手を添えた。

馬蹄の音は、確実にこちらへ向かっている。


凍える地を叩きながら、鈍い、重い音が迫ってくる。


雪を踏みしめる音と、冷たい風の中――

湊たちを待ち受ける運命が、静かに近づいていた。



「裏切りの最適解」専用X(旧Twitter)ついに開設!


裏切り者と呼ばれた男の、理で掴む生存戦略を――

この物語を一緒に育ててくれる仲間を、ここでもお待ちしています!


▶ フォロー&拡散、大歓迎です!よろしくお願いします!

https://x.com/shirono_deshi

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ