シャル・ウィ・ダンス?
宿舎のレナルドとアルフレッドの部屋。
半分開いたカーテンから差し込む朝日で、アルフレッドは目を覚ました。
「うッ!!何だコレ?」
ベッドに寝ているアルフレッドの胸に抱かれているのは、冷たい円盤。
「フライパンの蓋⋯?俺は一体⋯⋯」
遡ること数時間前――
「ん〜♡」
「!」
私は、すかさずフライパンの蓋を握り、アルフレッドの口を封じた。
「ブッ!……ムニャムニャ…」
ぶっ倒れたアルフレッドは、蓋を抱えたまま眠ってしまった。仕方がないので、背負って部屋へ戻ることにした。急がねば!!こんな状態の王太子、見つかるわけにはいかない!!下手したら、毒殺未遂の犯人にされかねない。まぁ、似たようなものか…。
なんとか部屋へ帰り、ドサッとアルフレッドと一緒にベッドへ倒れ込む。
「あぁ~疲れた〜」
横を向けば、フライパンの蓋を握り締めたままの美男子。ポンコツなんだかイケメンなんだか。
「まつ毛長いなぁ」
手を伸ばし触る寸前…
「んん〜クロエ⋯」
ビックリしたぁ~!アルフレッドの寝言で我に返った。
はぁ~〜〜いいな~〜〜〜。夢にまで出て来るなんて、愛されてるわぁ〜クロエ様。私だって一度くらいは、こんなに愛されてみたかったな。異世界転生して“男”だなんて…。しかも、チャラ男……。はぁ。そうは言っても、借りてる体に文句は言えないか。。。
昔、おばあちゃんに言われた言葉を思い出した。
『借りたものは、借りた時より綺麗にして返す事。その子の大事な物を借りるんだから、さっちゃんがもっと大事に使うんだよ?それは、お友達を大事にすることと同じ事だからね。』
レナルドに返すなら、レナルドの信用を取り戻す!その為には、先ずはアルフレッドとの関係を回復させてやる!
「さて!お腹も膨れたし、私も寝るか。」
自分のベッドに移り、眠りについた。
○*・○*・
「俺としたことが……/////」
「お!起きたのか。昨日の事、覚えてるのか?」
何やらブツブツ言っているあたり、アルフレッドは昨日の記憶はあるらしい。まぁ、恥ずかしいよね…。
「すまない…。」
「謝らなくていい。俺も知らなかったとはいえ、悪かったな。次は気を付けるよ。」
「えっ?また作ってくれるのか?」
しまった!!あんまり考えずに言ってしまった。でも…アルフレッドの目が輝いている…。断りづらい…。
「⋯作るよ。」
「本当か!!良かった!」
アルフレッドがピッカピカの笑顔で見てる!なんてこった/////イケメンは恐ろしい…。
「///コホンッ。それと、あんまり遅くまで練習し過ぎるのも良くないぞ。せめて何か腹に入れてからじゃないと!倒れたら元も子も無いからな。」
「言われずとも、分かっている。さっさと行くぞ。“また”連帯責任は負いたくないからな。」
ツンデレに振り回される私は、この人を攻略できるのだろうか……。
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今日は衣装合わせの為、それぞれの従者が衣装を持って学園に来ている。
「レナルド坊ちゃまぁあああ!!」
「久しぶりだな。ブノワ。“坊ちゃま”はやめてくれるか?恥ずかしい…。」
「ずみまぜんっっ!お元気そうで良がっだぁ〜!」
「泣かないで!ほら、鼻をかんで!」
ズビィー!と音を立て鼻をかむ姿は、やっぱりハ○ーポ○ターのド○ーにしか見えない…。
「ところで、持ってきたか?」
「勿論でございます!言われた物をご用意してきました!!」
ずらりとハンガーラックに並んだ衣装は、私がブノワへ手紙を書き、【目立つ物を】と準備させた物。目に止まったのは、白を基調にブルーがアクセントに入ったスーツ。キラリと金の装飾が目を引く。白スーツなんてチャラ男感満載だけど、それがよく似合う男なのだ。今回のダンスパーティーは目立ってなんぼ!優勝目指して幻の酒をなんとしても手に入れなければ!
「コレにする。」
「かしこまりました。では、サイズの確認を。お手伝いします。」
試着⋯!?男だからブノワの前で脱いだって良いんだけど⋯でも、やっぱり人に見られるのは慣れないし…。
「試着は結構だ。前と同じサイズなのだろう?」
「同じサイズですが、本当に良いのですか?」
「あゝ。体型は変わっていないしな。」
「いえ、お屋敷にいらっしゃった時よりもお腹が少し出て⋯」
「/////!!」
マジかよー!しまったぁあああ!太っただと!?そりゃあ基本パンが主食で、炭水化物のオンパレードに加えて美味しいんだから、太るなって方が難しい!
「問題無い。調整しておく…。」
「出来ますか?時間も無いですし、服を直したほうが⋯」
「いいや!出来る!やる!」
やってやるわ!ダイエット!!
それから毎日ランニング、腹筋、スクワット、腕立て伏せ、食事制限⋯etc.
アネットに太ったとバレないよう、夜コソコソとダイエットに勤しみパーティー当日を迎えた。
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パーティー会場は西の地メーヴェルトにある邸宅へと馬車で向かう。皆一度帰宅してからそれぞれ向かうことになっている。ドレス等の着替えの為だろう。
「すごい……。」
豪華絢爛という言葉がピッタリなお城へと降り立つ。
「此方はメーヴェルト侯爵の別邸で、本日はアルフレッド王子の出席に伴い、国王陛下や王族の方もお見えになるそうです。レナルド様、本日は我々従者も同行致しますので、なんなりとお申し付け下さい。」
「そうか、ありがとう。ブノワ。」
会場内は軽食やドリンクも並び、皆シャンパン片手に談笑している。
ダイエットのかいあってスーツも入ったし、髪もレナルドの顔面を最大限活かし、前髪かきあげ気合い十分!!
会場に足を踏み入れると、女性達から黄色い歓声を貰えた。その中で中央に陣取る目を引く男性3人⋯
「レナルド〜〜!おお〜!似合ってる〜」
ジルはいつもと違う黒いスーツに身を包みビシッとキマってる。手にはバイオリンを持っている。
「ジルもカッコいいな!それは?」
「珍しい〜褒めてくれるなんて!!僕は楽隊として参加するからダンスしないんだよ。」
軽く構えて見せ、ニカッと笑う。
「おお!以前のレナルドに戻ったみたいだな。」
「こうして、この次に足を⋯」
レオナールは深いグリーンを基調に眼鏡。壊れた後新調したらしい。アベルはまだ社交ダンスに不安があるようだ。
「皆様ごきげんよう。」
「クロエ!流石、王都一の美人だね!!」
「あゝ。綺麗だ。」
「おう///美しい///」
「ありがとう。レナルドは何も言ってくれないの?」
しまった。チャラ男なら真っ先に歯の浮くような台詞を言うだろう。だが私は、チャラ男から脱却するんだ!
「ドレス似合ってるな。アルフレッドには見せたのか?」
「アルフレッドは⋯」
会場内にベルが響いた。
「皆様お揃いでしょうか。只今より今回主賓としてお招き致しました国王陛下、王妃殿下のご登場です。」
会場内奥、螺旋階段の上の扉が開く。会場内に一瞬で緊張が走る。
国王陛下は王妃殿下をエスコートし、後からアルフレッドと弟のフィリップ殿下が階段を優雅に降りてくる。国王陛下と王妃殿下は年を取ってはいても美男美女だ。アルフレッドの美形はこの2人だから出来上がったんだと理解できる。
「国王陛下、お忙しい中ご来場頂き感謝致します。」
「あゝ。息子の姿を一目見ようと思ってね。お招き感謝するよメーヴェルト侯爵。今日は楽しませてもらうよ。」
「はっ!」
メーヴェルト侯爵ってジルの父なんだよね。中々位も高いんだなぁ。社交会をよく開催していて、今回は学園から会場提供をお願いされたらしい。
「では、くじ引きを始めます!!」
女性、男性それぞれの箱からくじを引いていく。数字の書かれた木札を木箱から1枚引くらしい。その後、司会者がランダムに男女の番号を呼び、そのペアでダンスをするというものらしい。王様ゲームかよ!!
順番が回ってきた。
箱に手を入れ願いを込める!
「頼む!クロエ様以外になりますように!」
番号は9番。発表まで分からない。ドキドキする…。
最後に引いたのはアルフレッドだ。何番だったんだろう?
「クロエだと良いな!!」と話しかけチラリと番号を見た。7番だ。
「ああ。そうだな。///」
アルフレッドもドキドキしてるみたい。
「では、手元に渡りましたら女性からお呼びします。女性15番の方と男性11番の方!」
木札を持った手が恐る恐る挙がる。
「カトリーヌ嬢とディオン様、此方に並んでください。続いて⋯」
次々とペアが紹介されていく。
4回に分けて発表されるペア番号は5組まで。1回ごとダンスして次のペア発表となる。
「最後女性17番の方と男性3番の方!⋯リディ嬢!とスタニスラス様!此方に。では暫し準備が整うまでお待ち下さい。」
そう言えば、先程からアネットの姿が見えない。何かあったのか?もしかしてまた意地悪を…!?
「アネット嬢を知らないか?」
「アネット嬢なら、さっきエントランスでロザリー嬢と話してたぞ?」
近くにいた令息の言葉に嫌な予感がした。よりによってロザリー嬢なんて…。
「ちょっと出てくる。ブノワ、札を持っていてくれ。呼ばれたら⋯なんとかしておいて!!」
「レナルド様!そんな事言われましても⋯!何方に行かれるのですか!?」
「もうすぐ始まるよ!?レナルド何処行くの〜!」
ジルの制止を無視してエントランスに走った。
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エントランスには誰も居ない。すると、2階からロザリーとアネットの争う声が聞こえた。
「こんなんじゃ、駄目じゃない!」
「ロザリー様、離してください!」
「いえ!このままではいけませんわ!」
「何してるんだ!?」
「レナルド様!これは…」
2人を見るとアネットのドレスが汚れていることに気づいた。まさか、ロザリー嬢にまた意地悪を⋯。
「ロザリー様ではありませんわ。」
私の視線に気づいたアネットが先に口を挟む。
「そうなのか?」
「すみません。私の教育不足ですわ。私の友人がアネット様のドレスに意地悪を…。」
「そうだったのか。勘違いして申し訳無い。」
「いえ!そう思われても仕方ないですわ。今は、これまでの行いを悔いております。申し訳ありませんでした。これからは正々堂々、勝負と行きましょう。」
「ん?」「ん?」
アネットとレナルドは顔を見合せた。
「それより、ドレスどうしましょう…。このシミは簡単には取れませんわ。目立つ所ですし。代わりのドレスを⋯」
「もういいですよ。何方にせよ今からでは間に合いません。」
「アネット様!これでは対等な勝負になりませんわ!」
何か方法は無いだろうか。周りを見渡し淡いブルーのカーテンが目についた。
「分かった。俺が何とかしよう。ちょっと失礼!」
私は汚れたスカートの前部分をザックリと切り取った。
「ちょ/////!何してる!⋯何なさるのですか!!」
「ロザリー嬢、縫い合わせたいので針と糸ありませんか?」
「エッ、あ、分かりましたわ!探してきます。」
ロザリー嬢がバタンッと部屋を出たのを確認して、カーテンを外し円形のテーブルクロスも剥がした。
「ここに座ってて下さい。」
「どうする気だ!?」
「リメイクです!“悪魔で執事”じゃないなので上手くいく保証はありませんが。」
「何を言ってるのかサッパリ分からん。」
「任せて下さい!!イメージはイケます!!」
「心配だ…。」
前にエンスタグラムの動画で見た海外の人のライフハック動画、円形の布をくり抜いてスカートにするヤツ!!使う時が来た!!
「おまたせしました!裁縫道具です!」
息が上がっている。ロザリー嬢は走って来てくれたようだ。
暫くして、バタバタ足音と共にバンッと扉が開いた。ロザリー嬢の侍女らしい女性が血相を変えて迎えに来た。
「お嬢様〜!?此処にいらっしゃったのですか!?」
「バルバラ!」
「お嬢様番号を呼ばれましたよ!何をなさって⋯!!」
「行ってきてください。ロザリー嬢。お陰で後少しで出来ます。」
「でも…では、バルバラが手伝って頂戴!命令よ!」
「エッ!私ですか?!かしこまりました。」
「ありがとうございます。ロザリー様。」
「お礼は結構ですわ。その代わり、必ず出席して下さいませ!!優勝は譲りませんことよ!!」
「分かりました。私も受けて立ちますわ。」
「ではレナルド様、お先に失礼します。」
遠くで曲が流れてる。急がないと!!
「⋯出来た!」
「「これは⋯!!」」
「さっ、行こうか!シャル・ウィ・ダンス?」