元に戻る方法
「どういうことですか!?」
「何度も言わせるな。俺様の体を返せ!!」
可愛らしい顔と声では誤魔化しきれない、俺様オーラを放っている。
この感じ、、、嘘じゃないと思う。私が転生してる時点でもうどんなファンタジーも受け入れられる!!
「返したいですが、私にも事情がありまして…。」
思わず、一人称が私に戻ってしまった。
これまでの経緯をアネット…いや、レナルドに話す。私が現世?から転生してる事、目覚めたらこの体だったこと。それと…
「俺の体で何してるんだ!!!」
「すみません!!あと…」
「まだあるのか?!」
「サウナで気を失いまして……✕✕✕✕…」
「/////!?いい加減にしろぉおお!!」
怒るのも無理ないよね。自分の裸を知らないうちに大勢に見せていたなんて、誰でも発狂するよ。
まさか転生した体の持ち主がいるなんて。しかも、女の子になってる…。でも、レナルドが入れ替わってるってことは、アネット本人は誰かと入れ替わっているのだろうか?
「はぁ。なんてことしてくれてんだ…。俺の…俺の…」
めちゃくちゃ落ち込んでる~。小さな体で男の体を心配する不思議な光景。。。
「お前も見た…んだよな?嗚呼、女に見られるなんて…。」
⋯そこ!?
「自分は良くて人はダメっていうのはちょっと…」
「俺だってこの体になりたくてなった訳じゃない!俺も起きたら、このアネット・シャリエだったんだ。」
「では、元々のアネット・シャリエさんは何処へいるんでしょう?」
「亡くなったようだ。」
「亡くなった?」
「ああ。俺が起きた時、この体は棺桶だったからな。」
埋葬寸前じゃん!火葬文化じゃなくて良かった…って不謹慎な事考えてしまった。
「では、レナルド様が落馬して直ぐアネット嬢が亡くなり、その後にアネット嬢としてレナルド様が目覚め、私がレナルド様として目覚めた。と言うことですか?」
「そうだな。俺が目覚めたのが7日前だから、お前よりも5日程早く目覚めた。おかしいと思わないか?」
「はい。アネット嬢が亡くなったタイミングが早すぎます!!」
「そこじゃないだろ!!俺がなんで、アネットとして目覚めなきゃならんのだ!!お前が俺の体を乗っ取ったからだろう!!」
「それを言うなら、アネット嬢の体を先に乗っ取ったレナルド様が悪いでしょう?」
むぅ~っと睨み合う。
「あぁ〜もう!!俺の顔なのが腹が立つ!」
「そんな事言わないで下さい。しょうがないんですから。カッコいいですよ?この顔。」
「俺の顔で言うな!!///」
「てっきり、女の子になれて喜んでいると思ってました。」
「そんな訳無いだろう!!寮は女だけだから居づらいし、風呂だって入れないんだからな!!もう、一週間入ってない。勘違いするな!?拭いてはいるぞ!」
くんくんと自分の髪を持ち、匂いを嗅いでる。
レナルドってめちゃくちゃ真面目なの?チャラ男より、寧ろ【硬派】なの?
よく考えれば私の方がヤバい奴じゃん!!朝チュン2回に、男風呂入って⋯サウナまで⋯チャラいのは私の方だぁー!!!
「ごめんなさい!私勘違いしてました。学校の方達が皆口を揃えて“俺様チャラ男”だと言うので、そんな純粋な人だとは知らなくて…。失礼なことばっかり言って、本当にすみませんでした。」
己の愚かさを噛み締めています。。。
「“チャラ男”とは何だ?まあ良い、分かればいいんだ。顔を上げろ。俺様の頭を軽々しく下げるな。」
そっと顔を上げると、腕組みをして可愛らしい顔で見下ろしている。
「くしゅんっ!!」とこれまた可愛いクシャミをする。私が追いかけて来ちゃったから、まだ髪が濡れたままなんだ!
「風邪を引いてしまいますよ!きちんと拭かないと!!」
まだ濡れている髪を傍にあった綺麗なタオルでトントンと拭いてあげつつ、
「ゴシゴシしちゃ綺麗な髪が傷ついちゃいますから、優しくこうやって拭いてくださいね!」
と私はアドバイスをする。
「あっ///。ありがとう。」
「男の体に慣れようと思っていました。でも、返す相手がいるなら話は別です!!元に戻る方法を考えましょう!!」
「そうだな。何か思い当たることはあるか?」
「私がコッチに来たのは、電車に轢かれて…」
「電車?それはどんな物だ?」
あ、まだ無いのかな?この時代位って、蒸気機関車とか?
「蒸気機関車とか分かりますか?」
「知らん。轢かれたと言うことは、乗り物か?死んだのか?」
「乗り物です。死んだかは分かりません。多分そうだと思いますが…。」
「では帰る場所はあるのか?」
「まぁ、死んでいても帰らなくてはこの体を返せませんし。万が一生きていたら、あのアニメの続きを観られるかも!」
「アニ…メ?」
「こっちの話です。気にしないでください。それより、電車が無いのであれば転生を再現するのは難しいかと。」
「そうか。他に方法は…」
ゴーンと重たい鐘の音が響いた。
「この話はまたにしよう。」
「分かりました。」
「もう、余計な真似はするなよ!!ちゃんと見てるからな。」
「ハイ。肝に銘じます。」
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教室へ戻ると授業が始まった。アネットとは別の教室らしい。
私の頭の中は体を戻すことで一杯だった。
取り敢えず思いつく方法をノートの後ろのページに日本語で書いておく。そうすれば、万が一誰かに見られても読めないよね。
1.雷に打たれる。
2.強い衝撃を受ける。
3.何かを一緒に飲む。
4.キスをする。...っていやいやいや!!誰と誰が!?ナシなし無し!ぐちゃぐちゃと塗り潰した。
碌なことしか思い付かない。アニメしか情報源がない私って…。ああ情けない!!
1と2は身体的負荷が大きすぎる。これはボツ。3はどうだろう?幻のナントカみたいな食べ物とか飲み物…あるかな?お酒とか?取り敢えず保留で。あと何があるかなー?・・・あっ!
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授業が終わり、急いであの物置き部屋に行くとアネット改めレナルドも来ていた。
「会えて良かった!あの!!試したい事があって。」
「何か方法を思いついたのか?」
「ハイ!乗馬をしてみるのはいかがでしょうか?落馬したのも1つの原因かと思いまして。」
「乗馬か。確かに一理ある。」
「その時の事を詳しく教えて頂けますか?」
「そうだな。あの時は⋯
いつもの様に馬術訓練をしようとして、ギャラリーとして来ていたロザリー嬢に手綱を渡してもらい、馬に跨った。何となく違和感があったんだが、そのまま出発の合図を出したら急に馬が高く嘶き落馬した。そこにアネット嬢が飛び出してきたんだ。
今思えば、いつもと鞍が違っていた気がする。アネット嬢が飛び出してきた理由は分からないが、馬に傷があったのは確かだ。倒れた時に馬の腹部から血が垂れていたのを見たからな。」
「そうでしたか。馬は同じ子は亡くなってしまったので違う子になりますが、出来るだけ再現した方が良いかと思うのですが。」
「だな。では、ロザリー嬢に来てもらわねばならんな。頼んだぞ。」
「えっ?!私ですか?」
「当たり前だ!!誰の体を使っていると思ってるんだ?」
「ゴメンナサイ。かしこまりました。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ロザリー嬢、少しいいですか?」
「レナルド様!」
「えっと、馬術訓練をするので…」
「危ないですわ!!まだお体が治りきっていないのになさらない方が!!それよりも、今からお茶会ですの。是非ご参加くださいませ!行きましょう!」
「えっ、ちょっ!」
連れてこられたのは学園の中庭。暖かな日差しに薔薇が鮮やかに咲き、手入れのされた芝生は青々としている。中央にもっと輝きを放つ集団…。
「あっ!レナルドも来たんだね!」
ジルがキラッキラの笑顔で手を振っている。中庭のテーブルにはアルフレッドも座ってる。あともう一人は誰?後ろ姿がとても綺麗。ハーフアップの髪が風になびき、耳に掛けるその手は絹のように白い。振り返った彼女は立ち上がり、こちらに近付いてくる。
「レナルド。貴方も来たのね。記憶が無いとジルから聞きましたけど、体調はどうかしら?」
くりっとした瞳に凛とした佇まいの女性。
呼び捨てだ!!それなりに仲がよく、位の高いお嬢様なのだろう。
「はい。ご心配いただきありがとうございます。記憶が無いのは相変わらずで。申し訳無いですが、名前を伺っても…?」
ほんの少し「ふふふっ」と上品に笑みを浮かべ
「ええ。わたくしの名前はクロエ・シャルロワと申します。どうぞ改めて宜しく。レナルド。」
この人がアルフレッドの婚約者!スッと差し出された右手は細く滑らかで、女性だった私も羨ましく思う程綺麗。
恐る恐る私も右手を差し出し「よ、宜しく。」と手を握る寸前で、パンッと手を叩かれた。
叩いた相手は勿論アルフレッド。
「クロエ。コイツを相手にすること無い。」
「あら、友として接しただけよ。嫉妬は程々にしないと、モテないわよ?」
「クロエはコイツを分かっていないんだ。誰にでも優しすぎる。」
なんて眩しいカップルなのぉおお!!大人な対応のクロエさんカッコいい!そして、アルフレッドの“愛してます”感が溢れてる!!
「レナルド様、こちらにどうぞ。」
ロザリー嬢が席に案内してくれて着席する。
「ありがとう。」
給仕の方が琥珀色の香りの良い紅茶を淹れてくれる。目の前には美味しそうな菓子達。ああ憧れのアフタヌーンティーセット!紅茶を飲むと、鼻に抜ける香りが華やかでおいしい~!!
「クロエ様にお会い出来て光栄です。」
「そんな堅苦しくしないで。私も誘って頂けて嬉しいわ。」
「そういえば、2週間後の学園主催のダンスパーティーでのお相手は勿論アルフレッド様ですよね!!」
「そんなことはないわ。まだ、決められないのよ?」
「えー?そんなのアルフレッドが許さないよ!ねっアルフレッド!」
女子の会話にすんなり入れるジルは流石だ。
「クロエ、俺じゃダメなのか?」
「ダメなんてことはありませんわ。でも、前もって相手を決めるダンスパーティーではありません。当日くじ引きで決めるのがルールですから。」
良いなぁこんなに誰かに好かれる人生。比べるのもおこがましいほど完璧な女性。だからこそ誰からも好かれるんだろうな。
「相手も大事だけど、ダンスも大事だよね!!レナルドは練習しなくても、ダンス上手いけど、アベルは今必死に練習してるんだよ~!!レオナールにコーチしてもらってるんだって。」
「おう。そうか。」
当たり障りない返事で誤魔化したけど、学園主催なら出席しないなんて出来ないよね?私ダンスパーティーなんて行ったことないし、ダンスって社交ダンスだよね?!出来るわけ無いじゃん!しかも、相手をくじ引きで決めるって博打過ぎる!下手したら、クロエ様とダンス⋯それは絶対駄目!アルフレッドに殺されるよ!?
…というか、2週間以内に体を元に戻せば良いってことか!!そうだ!それしか無い!
「わ、、俺、用事を思い出したので、こちらで失礼します。」
私って言いそうになる。気をつけなきゃ。
「そう。では、私も失礼するわ。」
すくっと立ち上がるクロエにジルは寂しそうな表情。
「もう?」
「ええ。またね、ジル。ロザリー嬢もまた誘って下さるかしら?」
「勿論ですわ!!」
「送るよ。」
「ありがとう。アルフレッド。」
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結局、ロザリーを誘い出すことが出来なかった。どうしよう…レナルドは怒るだろうな。取り敢えずレナルドを捜さないと!馬舎で待ってるだろうし。
「遅い!!何してたんだ?ロザリー嬢は?」
「すみません。お茶会に連れて行かれて…」
「お〜ま〜え〜!!わざとなのか?!」
「そんな事はありません!!」
「人を待たせておいてお茶を飲むとは。さぞ美味かっただろうな。」
「はい!美味しかったです!あんな香りの良い紅茶初めて飲みました!!そういえば、クロエ様に会いましたよ。めちゃくちゃ綺麗な人ですね~!」
「クロエ…か。ではアルフレッドも一緒にいただろうな。」
「はい。やっぱりお似合いですよね〜THE美男美女カップルって感じ!そういえば、なんでクロエ様を取ったなんて言われてるんです?レナルド様がそんな事しないですよね?」
「それは…。」
「ホントに寝たんですか!?嘘ですよね?!」
「体が戻れば気にすることはない。さあ、やるぞ。」
何だか哀しい表情を浮かべていた。クロエ様とレナルドの間には何かあるのかな。私の朝チュンをあんなに恥ずかしがっていたレナルドに、そんな度胸は無い気がする。
気にしてる場合じゃない!今は体が先だよね!!
「私はどうすれば?」
馬に乗り準備を終えたレナルドに声を掛ける。
「俺様の前に飛び出して、馬を止めろ。」
「危ないじゃないですか!」
「当たり前だ!行くぞ!!」
無茶言うんだから!!
走り出したレナルドの馬が徐々にスピードに乗って来る。あぁ怖い〜!!
「早くしろ!」
「分かってます!!」
いざ飛び出そうとすると馬が大きく見えて怖い!ふぅっと息を吐き、心を決める。
「ストップ!」
私は大きく手を広げ、馬の前に飛び出した!馬が大きく嘶き、跨がったアネットの体が浮き上がる。
「危ない!!」