強敵現る!!!
レナルドを取り囲み、不敵な笑みを浮かべてる4人組の男達。
振り切って逃げるには無理がありそうだし、周囲の人達は伏し目がちに足早に通り過ぎて行く。レナルドの体格ならワンチャン応戦出来たり⋯??
裏路地へと連れて行かれ、石壁に囲まれた狭い道に4人の男達。日が落ちかけていて、薄暗いこんな所誰も気付くことは無いだろう。
「上流階級なら金あんだろ?」
「(施しは要らないんじゃなかったのかよ。。。)」
「ブツブツ言ってんじゃねぇ!!チッ!減らず口叩きやがって。有り金全部よこせっつてんだよ!」
「俺達の縄張りでタダで帰れると思うなよ!!」
「ボンボンが俺等に力で勝てるわけねーよ!!なッ!」
縄張りって野犬かよ。ゲラゲラ笑うならず者達は、皆無駄に体格が良い。リアル東京リベ○ジャー○じゃん。しかも1対4で分が悪い…。
ワンチャン応戦出来るなんて思った私が馬鹿だった…。脳内で再生される『日和ってる奴いる?』に『いるよぉおおおおお!!』って応える自分。実際目の前にいると、日和るよッ!あ〜〜~やめときゃ良かった!!怖いよぉおおお!!食堂の時だって本当は怖かったんだもん!アメリーの手前、虚勢張ってみたけど早足だったのは本能だから!!
首をゴキゴキ鳴らし、やる気満々のならず者達。これ⋯お金を渡しただけで帰れるとも思えないし、渡したくも無い。やるしか無いのか!?
ふぅーっとひと呼吸して身構えてイメージする。めちゃくちゃイメージする!!東京リベ○ジャー○、SAK○M○T○DAYS・陸少糖、呪術○戦・虎杖○仁、、“自分は男!”“ポテンシャルはある!”⋯⋯やれば出来る!!
私は息をひとつ。
「この顔傷つけんなよ?」
「舐めてんじゃねぇぞ!!」
殴り掛かって来た男の拳を避けて、空いた腕を掴み壁へと押さえつける。
「ぐぉッ!」
ドンッと男達に押し返すと、相手に火が付いたようだった。
「坊っちゃんやるねぇ。いい度胸してんじゃねぇか!」
やっぱり動体視力は良い!避けれている!ただ避けても、次から次へと懲りずに殴り掛かってくる男達。幸いなのは細い路地の為1対1での戦闘になってる事。一手ずつ避け相手のバランスを崩せば、こっちが手を出さなくても向かいの大通りへ出ることが出来る!あと一歩!イケる!
「逃げんじゃねぇ!」
がしっと肩を掴まれて、身体が捻れたところを顔面に一発クリーンヒット。私は石畳に派手に倒れた。
「ッ!」
いっっっっっっっったぁあああああああい!!
親父にもぶたれたことないのにぃ!!!!じゃなくて、次が来る!避けれな⋯⋯!!
「はいドーン!!!!」
喪黒福造のセリフと共に飛んできた男は、スラリとした脚に銀髪の爽やかイケメン。この人⋯⋯誰⋯?
悶絶する声が聞こえ視線を向ければ、飛び蹴りをもろに食らった男達が細い路地へドミノ倒しになっていた。
「痛ってぇー!何すんだ!」
「それはこっちの台詞でしょう?君達何してんの?弱い者いじめは良くないよ~」
「そっちが煽ってきたんだろうが!ボンボンのくせに!」
「ああ~!確かに。アレはダサかった、、クククッ!あ~その上弱いから、こんな事になるんだよ〜。レナルド兄さん。」
「兄さん!?」
あれ?レナルドに弟居たっけ?居ないよね。って今、さらりとディスられたような⋯?
「そこッ!何してる!」
「クソッ!お前ら逃げるぞ!!」
「待ちなさい!!待てー!逃がすな!!」
警⋯察⋯?武装した数人の憲兵がやって来て追い払ってくれた。助かったぁ…。突如として現れ助けてくれたヒーローは、ちょこんとしゃがみ込み小首を傾げ私の顔を覗き込む。
「だいじょーぶ?レナルド兄さん。」
「はい…ありがとうございます。助かりました。」
「クククッ!ココ。血、出てますよ?」
目の前のイケメンが頬を指差して、あざといポーズをしている。レナルドやアルフレッド達より若そうで、童顔で大きな瞳が印象的な男子。
「レナルド兄さん?」
「へ⋯?」
「ほら、あ~腫れてる。痛そ〜。」
そう言いながら殴られた左頬にそっと手を添えられてドキリとしたのも束の間、細く長い指先で私の唇を撫で、
「この傷は僕とお兄さんだけの秘密にしておきます。ねっ!」
「/////!?!?/////」
ちょっと待って!?どういう意味でしょう!?レナルドの守備範囲⋯もしかして⋯⋯そういう事で⋯⋯2人は⋯b@hr#kふぉsんX///
そうこうしていると、向かいの大通りに馬車が到着した。
「一緒に乗って帰りますか?」
「あ///⋯えっと⋯///」
「お迎えに上がりました、坊ちゃま。レナルド様もどうぞ。」
この男の使用人が馬車の戸を開けエスコートする。
訳のわからないうちに一緒に馬車に乗ってしまったけど⋯この人誰なの!?本人に『誰ですか?』って聞くのは失礼な気がするし、私の事を“兄さん”って呼ぶ人物に心当たりなんて無いんだけど…。もしかして、ダンスパーティーの時挨拶した人!?あ゙ぁ〜!思い出せ!!
苦手なんだよなぁ。街でばったり会う時ほど思い出せないこの現象。
“久し振り〜!覚えてる?”からの“あ、うん!久し振り〜元気だった?”と返事して必死に頭の中でこの人の名前なんだっけ???と会話をしながら記憶の糸口を手繰り寄せる感じ。そして決まって、“えー!○○ちゃんだよね?!”って向こうは覚えてて、思い出したら然程仲良く無かった⋯なんてこともあったなぁ。
「改めて感謝する。助けてもらった上に馬車まで...。」
「いえ!兄さんにはこれからお世話になりますし!この位当然ですよ。」
「ところで、我が屋敷へはどのようなご要件で?」
「クククッ!分かってるくせに〜」
ニヤリと笑う彼とは会話にならない。駄目だ、糸口すら見当たらない⋯。
静寂に凸凹の振動だけが伝わる。時間だけが過ぎ、小さな小窓に見える夕闇には満月が浮かんでいる。家々の中から零れる灯りだけが家路へと導いていた。
「「お帰りなさいませ。レナルド様。」」
十数人の使用人達が出迎えてくれた。
「ただいま。お客様と一緒に帰った。案内を⋯」
「ルシアン様ーーー!!」
「アメリー!久し振りだね。元気そうで良かった。」
玄関ホールへと駆けてきたアメリーはルシアンと呼び、男に抱きついた。
私は唖然としつつ、何故か奥底から湧く怒りに心を揺さぶられて、アメリーと男を引き剥がした。
「俺の妹に何してる!?」
その様子を見ていたブノワが私に耳打ちをする。
「レナルド様っ!!ルシアン・トラントゥール様はアメリー様とのご婚約が決まっておりまして⋯」
「いつの間に!?!?」
しまった。素で驚いてしまった。
「お兄様の失礼をお許し下さいませッ!!ルシアン様ッ!お手紙でお伝えさせて頂きましたが、先の事故でお兄様はまだ記憶が戻ってないのです...。」
「僕は大丈夫ですよ。話は聞いていましたし、お兄さんは僕がまだアメリーには相応しくないとお考えなのでしょう。僕の至らなさのせいです。」
「そんなことありませんわっ!」
キッとアメリーに睨まれた。この男、なかなかやるなぁ...。アメリーに連れられルシアンは客室へと消えて行った。
私も自室に戻った。緊張が解けふかふかのソファに身を預ける。
「あ~詰め込み過ぎ!!!」
もう少しイベントは小出しにしてくれないと!フラれるし、殴られるし、義理弟なんて知らないし!
ボフッと顔をクッションに埋めると痛い〜!こんなに柔らかいのに痛いの!?顔しか良い所無いのにぃ〜!
然し、ルシアン・トラントゥール。。。兄妹仲再生の邪魔になりそうだ。兄さん=義理兄の意味だとは思わなかったな。アレは口元の傷の事だったのか。私ってば変な想像までしちゃって⋯/////
戸がノックされ「はーい。どうぞー」とクッションに埋もれくぐもった返事をした。
「ブノワ、俺⋯ダサい?」
ブノワに話すと自己肯定感が爆上がりなんだよな。今はめちゃくちゃ褒めて、めちゃくちゃ慰めて欲しい!!
「ダサかったですよ~お義兄ーさん!」
「!?」
クッションから顔を上げると、目の前にルシアンが居た。ブノワだと思ったのにッ!
「レナルド義兄さんは僕のお兄さんになる人なんですから、もっとかっこよくいて欲しいですね。記憶が無いから喧嘩まで弱くなっちゃったんですか?」
「ッッ⋯。」
ぐうの音も出ない...。
「はあ...。それで、その胸ポケットに入ってるネックレス、アメリーに渡せるんですか?」
「何故それを⋯?」
ソファに座った私の前で膝をつき、ルシアンは上目遣いで話を続ける。
「クククッ!義兄さんは昔よりも隠すのが下手になりましたね。義兄さんは不器用なんだから⋯だから、代わりに僕がこのネックレス渡しておきますね!!」
「いつの間に!?」
細いネックレスの箱を見せびらかし、ルシアンは意気揚々と部屋から出ていった。
ルシアン!!!強敵だーーー!!
―――――
新学期。
新入学した1年生たちは講堂に集められ入学式が行われた。
「えー⋯新入学おめでとうございます。先ずは⋯」
学園長の話や先生の紹介など式は恙無く進む。
「⋯では続きまして、今年度入学試験におきまして成績一位となりましたルシアン・トラントゥール君に、新入生を代表して宣誓をしていただきます。」
ハイ!と会場の前方より声が響き、登壇したのはスラリとした脚に銀髪の男。小さなざわめきは彼の放つオーラで掻き消される。
「宣誓!これから僕達は語学・武術・芸術など様々な分野において学び、王立サンクテール学園の名に恥じぬ様、礼節を常に忘れることなく学園生活を送ることを誓います。ルシアン・トラントゥール」
会場からは拍手が沸き起こり、振り向いた彼のくしゃっと子犬のような笑顔に、黄色い声があちこちから上がっている。
「コホンッ!静粛に!!!」
それは生徒達の視線が彼に釘付けになるには十分な時間だったようだ。
「⋯それでは、ごきげんよう。」
【ごきげんよう。】
―――――
教室では新学期といえど変わらぬ顔触れ。私が入れ替わってから早1カ月。入れ替わったタイミングが学期末だったこともあり、あっという間に2年生になった。
此処、サンクテール学園は年齢で分かれているというよりは、入学した時から単位が取れないと次の学年へは進めない。卒業生は一応居るには居るが、長く在籍し研究職や聖職に就く者もいれば、多くは貴族である家業を継ぐことが殆んどだ。サラリと居なくなる。
私、単位取れて⋯本当に良かった〜!!落第生になったらレナルドに顔向け出来ないよ~!これからも頑張らなくちゃ!!
教室内皆、特別変わったことはないが後輩が出来たことに少し高揚感があるみたい。専ら話のネタは、階下の教室にいる入学試験成績一位で美形の男の噂話。私はそんな事よりも、クロエとアルフレッドが気掛かりだった。
私はアノ一件以来、アネット(レナルド)と話をしていない。パーティー会場に居た人達にはフラれた噂は直ぐに回り、気まずくて話し掛けれていない。
だけどクロエの事もあるし、体の入れ替わりについても策を練らなきゃ!意を決してアネットに向き合う。
「アネット嬢。話があるんだ。」
「奇遇ですね。私もお話があります。場所を移しましょうか。」
――――
何処へ行くのだろう?アネットの後を付いて歩く。学園の裏、ぽつんと建つ建物の前で止まった。
アネットは入り口の鍵を開けた。扉を開けると外気温より幾分か暖かい。中には草花が所狭しに咲いており、鉢植えの植物たちも置いてあるが、剪定や手入れがされている感じが無い。奥へと進むと、ガーデンテーブルと二つの揃いのイスがあった。
「此処は⋯?」
「温室だ。座って話そうか。」
落ち着いた口調でアネットが言う。
ガラス天井からは太陽の光がよく入るように設計されているのか、柔らかい光が四方八方から差し込む。
「話ってなんだ?」
「はい。クロエ様のことです。どうやら、アルフレッド様との婚約破棄をしたいらしく、私...レナルド様を利用しようとしていました。この事を知っていましたよね?」
少しの間を置き、アネット(レナルド)はコクリと頷いた。
「なんで黙っていたんですか?クロエ様と関係があるみたいに振る舞えば、レナルド様が損するんですよ!」
「それで良い。」
「いいわけ無いでしょう!?現にアルフレッド様との関係は壊れかけてるのに!」
「クロエがそれで救われるなら、構わない。」
やっぱりそうだ。思った通り。レナルドは全てを分かった上でクロエ様に協力していた。でも⋯そこまでする理由は、、、
「クロエ様の事、好き⋯なんですか?」
「!⋯⋯⋯違う。そうではない。」
まるで言い聞かせるようだった。押し込めた気持ちが溢れないように、厚い壁を築こうとしている。レナルドはクロエ様が好きなんだ。
「そうですか。だとしたら、お断りしても構いませんよね?」
「何⋯?」
「先日のパーティー会場でクロエ様に告白されました。そこで、私はお断りしました。アネット嬢が好きだと言って。」
「あの時の⋯!?そういう事だったのか...。そうか...。」
声が沈んでいく。酷いこと言ってるのは分かってる。利用されていると知っていて、クロエ様を想っていたんだ。それだけ大切な存在。レナルドは、ぽつりぽつりときっかけを話し始めた。
「俺は別にクロエがアルフレッドと幸せになるなら良いんだ...。
昔⋯ある日クロエの留学の話が出た。貿易を生業にしている家柄だから、娘にも学ばせたかったのだろう。だが出発の前日、留学の話が白紙になった。
すぐには理由は分からなかったが、3日後アルフレッドとの婚約が決まった。
クロエは泣いていた。凄く楽しみにしていたんだ。新たに学ぶ事への好奇心が大きくて誰よりも自由で明るかったのに...。
アルフレッドにも言ったんだ。『クロエの気持ちを汲んでくれないか』と。
でも⋯アルフレッドは俺を拒絶した。」
そうだったんだ。そのままのクロエの幸せを願うレナルドと、自分の力で幸せにしたいアルフレッドかぁ。
だったら、私が全てを元に戻してみせる!アルフレッド様とレナルドが友人として向き合えるように!レナルド本人がクロエ様を好きだと言えるように!
「レナルド様の真意は分かりました。でしたら、アルフレッド様に婚約破棄させて、クロエ様に留学してもらって、体を元に戻しましょう!」
「あのなぁ、そんな簡単なことじゃないんだ。」
「分かってます!だから、力を合わせましょう!私はアルフレッド様を説得します。クロエ様との関係はレナルド様、いえ、アネット嬢が修復してください。」
「なんでそうなる!?」
「友達になれば、悩みも聞けるし後押しもできます!何と言っても今、レナルド様は女の子です!女友達は何よりも力強い味方になります!」
ポッカリと空いた口をそっと閉じて、レナルド、否、アネット嬢は深く息をついた。
「分かりましたわ。クロエ様と友達になってみせます。」
私もレナルドとして友情を取り戻す!
「俺もアルフレッドを説得する。」
私は手を差し出した。その手を強く握り返すアネット嬢は、一筋の光が差したように小さく笑った。




